福島大学に「農学群食農学類」が誕生 国立大学では半世紀ぶり

国立大学法人 福島大学は、「食」と「農」をつなぐ学問を福島から発信することを目的とし、2019年4月より新たに「農学群食農学類」を開設する。国立大学として農学が追加されるのは半世紀ぶりのこととなる。


食農学類設置の目的

福島大学は「地域と共に歩む福島大学」を表明し、実践してきたが、そこには東日本大震災の被災地域と共に歩むという思いも込めてきた。食農学類設置は、福島県農業の復興だけではなく「日本の新しい農業」の可能性を福島から発信していくために、科学的なエビデンスにもとづく冷静な分析力と地域の将来に向けた温かい心「Cool Head, Warm Heart」が重要と考えたためだという。

具体的には、農畜産物の生産から食材の加工・流通を経て食品の消費までを相互に作用する一つの体系(フードシステム)としてとらえ、生産や加工、消費の現場と向き合いつつ大学での教育と研究を進めていく。このような圃場や加工場と大学の研究室をつなぐような教育研究は農学の原点でもあり、科学や技術の先鋭化や細分化が進む現代社会においては一つのチャレンジでもある。近代的な食と農の関係性を基本とするフードシステムの教育研究を進め、専門人材の育成と研究・技術開発を通した地域と社会への貢献を目指していく。

本学部では、技術の習得だけでなく現代社会とそこに生きる人間に対する理論的考察も学びながら、単なる技術者育成にとどまらない、新しい文化を創造するクリエイターを養成する。


農学群の構成としては、食農学類として4つのコースを設け、定員100名で募集。2011年の震災時に10歳だった100人の子どもたちが18歳になった2019年、福島から世界の農業の担い手となるべく、学びをスタートさせる。

食品科学コース

フードシステムの「食べる」ことの中でも、加工して食べる段階の教育研究が中心。「食べる」は食品の摂取から、消化と吸収、体内輸送と動態、組織・器官・細胞への作用、全身での生理作用までを含む多様な生命現象であり、学ぶことは多い。優れた食品の製造について知識・技能のポイントを修得するとともに、地域の食の伝統的な強みを活かす筋道を具体的に理解している人材の育成を目指す。

想定される進路
食品関連企業、化学メーカー、化粧品関連会社等

農業生産学コース

作物栽培に関する最新の技術や知見を駆使して農業生産、特に作物生産、食料生産、栽培資源利活用、栽培環境の諸問題を解決するための専門知識、技術を修得させ、新規栽培品種の開発と既存品種の見直し、栽培技術の革新、病害虫の農業被害管理に関する技能の習得を目指す。

想定される進路
農業関連企業、流通企業、観光・宿泊企業等

生産環境学コース

森林・農地・水環境等の生産資源、ならびに農業土木や農業機械といった生産活動を管理・運用するシステムに関わる科目を通じて、生産環境の保全・活用と、これに付随する問題群を解決するための専門知識や技術を修得する。本学類の他コースの科目も履修することで、多角的視野から生産環境を探求し、その保全と活用を実践できる人材の育成を目指す。

想定される進路
金融、流通企業、観光・宿泊企業等

農業経営学コース

農林業を営む個別経営体の構造や行動を捉える農業経営学を中心として、食料の生産から加工・流通を経て消費に至るプロセスの全体像、すなわちフードシステムおよび地域・農村社会や地域づくりの領域をカバーしながら、それらに関わる問題群を解決するための知識と人文・社会科学的な技能を修得。そこではフィールドワークの方法論に基づく現場立脚型のアプローチを重視する。また本学類の他コースの科目を履修することで多角的な視点も養いながら、これからの農林業や食品産業、地域農村社会の現場を担える人材の育成を目指す。

想定される進路
バイオマス関連企業、土木・建設企業、情報・通信関連企業

開学1年目となる2019年は、福島から世界を明るくする企画や企業とのコラボ企画など、様々な開学イベントも計画している。

開学イベント例
  • 一期生100人の想いをHPに
  • 100人で行う米作り(5月:田植え)
  • 特別作業着、白衣作成
  • 国際セミナー(おいしさと健康を一つに)の開催 他

イベントの詳細については、随時ホームページで更新するとのこと。

<参考URL>
福島大学 食農学類ホームページ

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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