農研機構、干ばつを再現し気候変動対策に役立てる自動潅水システムを開発

農研機構は、かずさDNA研究所、株式会社テックスと共同で、自然界で発生する干ばつ状態や冠水状態を屋内で再現する「iPOTs」を開発した。

IoTとセンサー技術で干ばつ状態などを再現


「iPOTs」は、IoTとセンサー技術を融合させることで自然界で発生する干ばつ状態や冠水状態を屋内で再現する世界初のシステム。

各ポットに設置された水位センサーを利用して土壌水分を個別に遠隔制御できるため、干ばつ状態と冠水状態の両方を同時に再現しながら観察が行えるというもの。

人工気象室内に設置した「iPOTs」
出典:農研機構(https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nics/144391.html)

研究では、潅水チューブや点滴潅水など地表面潅水の課題である潅水のムラを無くすため、農業用ポット底面に取り付けたチューブを利用して受水タンクから水を供給する自動底面潅水システムを考案。

従来の潅水法と底面潅水の違い
出典:農研機構(https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nics/144391.html)

受水タンク内に設置したセンサーを用いて、ポットの水位を任意の高さに自動調整することで、自然界で発生する干ばつ状態と冠水状態の両方を再現することに成功した。

さらに、各ポットに取り付けたロッド状のセンサーを利用して、温湿度・照度・土壌水分・地温の状態など個別の環境データもリアルタイムでモニタリング。

「iPOTs」の使用例と各種環境センサー
出典:農研機構(https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nics/144391.html)

水稲と陸稲の2種類のイネを対象に、X線CTを用いて乾燥によるストレスの影響を比較したところ、「干ばつに弱い水稲品種は根がより浅くなり、干ばつに強い陸稲品種は根がより深くなる」という実際の圃場で栽培した場合と同じ結果が確認できたそうだ。

「iPOTs」を用いたイネの経時的変化
出典:農研機構(https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nics/144391.html)

現在は、温暖化など地球規模の環境変動に対応する新たな品種開発を目的に、X線CT装置とマルチカメラを使用して農作物の地上部・地下部を計測する「3次元非破壊計測システム」と「iPOTs」を一体運用する「屋内型作物栽培・計測プラットホーム」として利用が始まっている。「iPOTs」の正式な製品化は未定とのこと。

屋内型作物栽培・計測プラットホーム(イメージ図)
出典:農研機構(https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nics/144391.html)

農研機構、かずさDNA研究所、テックスの3者は、「気候変動による農地の干ばつや土壌の荒廃など将来の地球環境を見越した新たな品種の開発や精密農業のためのデータ収集等に役立てたい」としている。


農研機構
https://www.naro.go.jp/
かずさDNA研究所
https://www.kazusa.or.jp/
株式会社テックス
http://tecks.co.jp/wpwk/
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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