岡山大学ら、ぶどうの根頭がんしゅ病を拮抗細菌が抑制する仕組みを解明
岡山大学、農研機構、理化学研究所、九州大学の共同研究グループは、ぶどうの重要な病害である根頭がんしゅ病を抑制できる拮抗細菌の作用メカニズムを新たに解明したと発表した。
これにより、拮抗細菌の生物農薬としての利用や、有望な菌株の選抜に道が拓け、世界のぶどうやワイン生産の安定化への貢献が期待される。
ぶどうは、生食やワインの原料として世界的に活用され、バナナとりんごに次ぐ生産量を誇る重要な果樹のひとつだ。このぶどう生産を脅かす病害のひとつに、根頭がんしゅ病と呼ばれる病害がある。これは、土壌に生息するリゾビウム属の病原細菌を原因に発生するもので、植物の傷口から侵入し、その後全身に移行して最終的には枯死に至らせるという。
病害が認められた植物は圃場の外に持ち出され処分されるが、果樹は生長に多くの時間を要することから、改植を行ったとしても生産量が低下する。また、農薬を散布しても土中まで届かないため、土壌に生息する細菌が原因となる同病害では防除効果が期待できない。
このような病害には拮抗微生物を利用する生物農薬が有効とされているが、バラ、キク、りんごなどの根頭がんしゅ病に有効な「バクテローズ」という生物農薬ではぶどうに対する効果は弱いという。
一方、岡山県農林水産総合センターでは、ぶどうの根頭がんしゅ病の原因調査の過程で、同病に対して抑制効果を持つ拮抗細菌を複数特定していた。そのひとつに、がんしゅ病と同種同属で非病原菌性の拮抗細菌があることを確認していたが、その作用機序については解明されていなかった。
今回の研究では、その拮抗細菌の実体頭部を欠いたファージ尾部様粒子(通称テイロシン)によって病原細菌を溶菌することで病害防除効果を発揮していることを突き止め、「rhizoviticin(リゾビティシン)」と命名した。
岡山大学 能年義輝教授によるコメント
微生物農薬は、自然界にある微生物同士の競合作用を利用する防除方法であり、拮抗細菌には植物の表面や根圏に定着し、病原細菌に対する防除効果を発揮することが求められる。
今回発表された研究成果により、対象作物の根圏から同種同属でテイロシンを持つ菌株を探すことで、有用細菌の迅速な選抜が可能になると期待されている。また、テイロシンは特定の細菌のみに限定的に作用するタンパク質性の因子であるため、環境や人体への影響が少ないと考えられているという。
論文情報
掲載誌:The ISME Journal
論文名:Rhizoviticin is an alphaproteobacterial tailocin that mediates biocontrol of grapevine crown gall disease
著者:Tomoya Ishii, Natsuki Tsuchida, Niarsi Merry Hemelda, Kirara Saito, Jiyuan Bao, Megumi Watanabe, Atsushi Toyoda, Takehiro Matsubara, Mayuko Sato, Kiminori Toyooka, Nobuaki Ishihama, Ken Shirasu, Hidenori Matsui, Kazuhiro Toyoda, Yuki Ichinose, Tetsuya Hayashi, Akira Kawaguchi, and Yoshiteru Noutoshi
掲載URL:https://doi.org/10.1093/ismejo/wrad003
岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/index.html
これにより、拮抗細菌の生物農薬としての利用や、有望な菌株の選抜に道が拓け、世界のぶどうやワイン生産の安定化への貢献が期待される。
拮抗細菌がぶどうの根頭がんしゅ病を抑制する仕組みを解明
ぶどうは、生食やワインの原料として世界的に活用され、バナナとりんごに次ぐ生産量を誇る重要な果樹のひとつだ。このぶどう生産を脅かす病害のひとつに、根頭がんしゅ病と呼ばれる病害がある。これは、土壌に生息するリゾビウム属の病原細菌を原因に発生するもので、植物の傷口から侵入し、その後全身に移行して最終的には枯死に至らせるという。
病害が認められた植物は圃場の外に持ち出され処分されるが、果樹は生長に多くの時間を要することから、改植を行ったとしても生産量が低下する。また、農薬を散布しても土中まで届かないため、土壌に生息する細菌が原因となる同病害では防除効果が期待できない。
このような病害には拮抗微生物を利用する生物農薬が有効とされているが、バラ、キク、りんごなどの根頭がんしゅ病に有効な「バクテローズ」という生物農薬ではぶどうに対する効果は弱いという。
一方、岡山県農林水産総合センターでは、ぶどうの根頭がんしゅ病の原因調査の過程で、同病に対して抑制効果を持つ拮抗細菌を複数特定していた。そのひとつに、がんしゅ病と同種同属で非病原菌性の拮抗細菌があることを確認していたが、その作用機序については解明されていなかった。
今回の研究では、その拮抗細菌の実体頭部を欠いたファージ尾部様粒子(通称テイロシン)によって病原細菌を溶菌することで病害防除効果を発揮していることを突き止め、「rhizoviticin(リゾビティシン)」と命名した。
岡山大学 能年義輝教授によるコメント
岡山県農林水産総合センターが誇る有用微生物である拮抗細菌の作用メカニズムを、多くの学生のバトンリレーと強力な共同研究者のご協力により、ようやく解明することができました。責任を果たせてホッとしています。今回見出したテイロシンはその構造や特徴がユニークで、基礎科学的にも重要な発見を世界に発信できたことは研究者冥利に尽きます。農業現場は研究材料の宝庫ですね。各データを振り返ると、それぞれの学生が困難を乗り越えて捻出した発見の日々が思い出され、大学教員として人生に刻まれる感慨深い研究成果になりました。
微生物農薬は、自然界にある微生物同士の競合作用を利用する防除方法であり、拮抗細菌には植物の表面や根圏に定着し、病原細菌に対する防除効果を発揮することが求められる。
今回発表された研究成果により、対象作物の根圏から同種同属でテイロシンを持つ菌株を探すことで、有用細菌の迅速な選抜が可能になると期待されている。また、テイロシンは特定の細菌のみに限定的に作用するタンパク質性の因子であるため、環境や人体への影響が少ないと考えられているという。
論文情報
掲載誌:The ISME Journal
論文名:Rhizoviticin is an alphaproteobacterial tailocin that mediates biocontrol of grapevine crown gall disease
著者:Tomoya Ishii, Natsuki Tsuchida, Niarsi Merry Hemelda, Kirara Saito, Jiyuan Bao, Megumi Watanabe, Atsushi Toyoda, Takehiro Matsubara, Mayuko Sato, Kiminori Toyooka, Nobuaki Ishihama, Ken Shirasu, Hidenori Matsui, Kazuhiro Toyoda, Yuki Ichinose, Tetsuya Hayashi, Akira Kawaguchi, and Yoshiteru Noutoshi
掲載URL:https://doi.org/10.1093/ismejo/wrad003
岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/index.html
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