国際農研、食の窒素フットプリント活用し熱帯島嶼地域の窒素負荷削減効果を可視化

国際農研と農研機構は、食の窒素フットプリントを活用し、熱帯・亜熱帯島嶼における有機資源利用促進と化学肥料削減による窒素負荷削減効果の可視化に成功した。SDGsみどりの食料システム戦略の目標達成に向けた取り組みでの活用が期待されている。

図1:石垣島の現況と牛糞堆肥利用向上時の窒素フロー出典:https://www.jircas.go.jp/ja/release/2023/press202323

化学肥料の使用低減と窒素負荷削減に貢献


昨今の化学肥料や食料・飼料の価格変動は、その多くを輸入に依存する熱帯・亜熱帯島嶼地域において、農業経営に深刻な影響を与えている。一方、島内に存在するさまざまな有機資源は、窒素などの栄養分を豊富に含んでおり、農業での活用が期待されているという。

作物の生育に欠かすことのできない窒素は、化学肥料等として農地に施用されている。しかし、農地に投入されたもののうち作物に吸収されない分は農地外の地下水や川、海に流出してしまい、周辺環境に負荷を与えることになる。特に、貴重な海洋生態系を有する熱帯・亜熱帯島嶼地域では、過剰な化学肥料の使用により、地下水汚染やサンゴ礁など海洋生態系へのダメージが懸念されている。

このような背景から、堆肥など島内の有機資源を有効活用する取り組みが求められているという。

図3:石垣島を事例とした食のフットプリントの計算フレームの概念

国際農研は、農研機構と共同で、食の窒素フットプリントを活用し、熱帯・亜熱帯島嶼における環境への窒素負荷の実態や、対策による削減効果の可視化に取り組んできた。

食の窒素フットプリントとは、農畜産物が生産されてから加工流通を経て消費者が消費する過程で、どの程度の窒素負荷が生じているかを示す指標だ。

主な食料品目ごとに食の窒素フットプリント計算フレームを作成。農畜産業が盛んな亜熱帯島嶼である沖縄県石垣島を対象に、外国からの輸入や本土・離島から島外に持ち込まれた食料・飼料と、島外に持ち出された食料を含む島の食料システム全体から、窒素負荷の実態の把握を行った。

また、島内で発生する最大の有機資源である牛糞堆肥を農地で利用することで、みどりの食料システム戦略の数値目標「化学肥料使用量30%低減」を達成するシナリオを検討した。

図2:食の窒素フットプリント計算フレームの概要

その結果、牛糞堆肥の70%を農地で利用することにより、化学肥料の使用量を30%低減しても作物生産用の窒素投入量を維持できること、その際には石垣島で発生する総窒素排出量(窒素負荷)を18%削減できることが明らかとなった。

今回の共同研究で構築された食の窒素フットプリント計算フレームは、地域有機資源を有効活用した環境への窒素排出削減対策の検討や、消費者・生産者・行政等に検討結果をわかりやすく示すことに活用できるという。

国際農研は、食の窒素フットプリント計算フレームを用いて、資源循環だけでなく、肥培管理などさまざまな技術の組み合わせによる環境負荷軽減効果や、化学肥料の削減量を検討していく。また、日本だけでなく、フィリピンなど他の熱帯島嶼地域への応用や、消費者・生産者・行政等とのコミュニケーションツールとしての活用などを通じて、地球規模の窒素負荷・化学肥料削減に貢献していきたいとしている。

なお、本研究成果は、「Environmental Research Letters」電子版(日本時間2023年7月11日)に掲載された。

論文情報

論文著者:K Hamada, S Eguchi, N Hirano, K Asada and N Oka
論文タイトル:Assessing nitrogen flow and nitrogen footprint in the food system of a subtropical island with a scenario to mitigate nitrogen load impacted by trade–dependent agriculture
雑誌:Environmental Research Letters
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/acdf04


国際農研
https://www.jircas.go.jp/ja
農研機構
https://www.naro.go.jp
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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