スマホカメラ×AIでイチゴの病害虫&収穫予測 ──株式会社美らイチゴ(沖縄県)

沖縄県で観光農園を営む株式会社美らイチゴは、2018年10月より、撮影した画像をAIで解析し、病害虫や収量予測を行うシステムの開発に携わっている。このAIのディープラーニングと画像解析を担当しているのは株式会社オプティム。2018年(平成30年)に農林水産省の補助金事業「農業界と経済界の連携による生産性向上モデル農業確立実証事業」として採択され、2020年までの3カ年計画で実証実験が進められている。

プロジェクトの正式名称は、「AIの画像解析技術を活用した収穫予測と病害虫の検知手法の確立」。スマートフォンとAIの画像解析技術を活用し、イチゴの撮影画像から収穫予測と病害虫の検知ができる汎用性の高いシステムを確立することにより、イチゴの生産作業の最適化を図るのが目的だ。

このプロジェクトの仕掛け人は、美らイチゴ 取締役副社長の遠藤健二さん。大学卒業後に農業コンサルタントとして活動し、一度海外を見てきたのち、新規就農として農業に携わった。いまでは農家歴約20年のベテラン農家だ。

なぜこのようなアイデアを考えたのか、そしてなぜオプティムと協業することになったのだろうか。



きっかけはトマトのAI画像解析技術の展示

「最初はトマトとキュウリから始めたんですが、こういった野菜や葉物野菜はほかとの差別化がとても難しいんです。それで、育てやすさや収益が上がりやすいこと、小規模農家でも大規模農家に負けない可能性があることなどから、イチゴを手がけるようになりました」

2016年から遠藤さんがスタートさせたイチゴ農園はその後順調に拡大し、現在は7500平方メートルのビニールハウス3棟、2600平方メートルのビニールハウス2連棟にまで拡大。観光農園として沖縄で人気を博している。

そんな遠藤さんがオプティムと出会ったのは、2018年に大阪で開催された「関西農業ワールド」だった。オプティムが展示していた、トマトの生育状況をAIにより画像解析するシステムに興味を覚えて、担当者に声をかけたのだという。


「農業は常に人手不足で、パートさんにお願いしたりすることが多い中で、栽培を安定させるためにベテランの管理者ばかりが観察できなくなる時代がきっと来る。そういう時に病害虫などを事前に警告してくれる仕組みが安く作れないかと考えていました。ちょうど展示会の場でトマトのAI画像解析の展示を見て、『これをスマホでやれませんか?』と質問したんです」

ほぼ確実にカメラが付いており、画質も申し分なく、誰もが持っていて操作も簡単なスマートフォンで撮影ができるようになれば、ソフトウェア=スマホアプリをインストールするだけで画像解析できて使い勝手がよくなると、遠藤さんは考えていた。オプティムに対しては農機メーカーではなく技術の会社というイメージがあったため相談してみたところ、その場で「具体的な話をしましょう」とGOサインがもらえた。

「一般的にはこういう補助金が必要な事業の企画は、半年くらいアイデアを練ってからという感じですよね。オプティムさんじゃなかったらまとまらなかったと思います」

この時、冒頭で紹介した農水省の補助金事業の締め切りまでわずか2週間。しかしオプティムの迅速な対応もありアイデアが認められ、プロジェクトは無事採択された。


AIの判別の成否を人間が確認する地道な学習作業

オプティムと美らイチゴによるイチゴのAI画像解析プロジェクトは、2018年10月から具体的にスタート。2019年3月の観光農園の営業が終わった時点で、やっとデータの収集がひと段落したところだ。

まずは、イチゴの苗がある程度大きくなってきた段階から、虫や病気が出た箇所の画像を撮影し、現場での判定基準をオプティムに共有していく。撮影には2台のスマホを用意し、収穫に使うカートに固定。イチゴの横と上から撮影することで、見えにくい場所まで記録していく。


「単純に撮影するといっても、イチゴの木が大きくなった時と育ち始めの小さな時でも学習パターンは違ってきます。実がなり始めてからは2〜3日に1回収穫をするのですが、その際に台車につけたスマホで自動的に撮影するようにしました。収量予測まで実現したいので、2019年3月のイチゴが終わるくらいの時期まではずっと試験を繰り返していましたね」


こうして撮影した画像はオプティムに送信。オプティム側はAIを用いて病害虫の“あたり”と“はずれ”を判別させる。そしてそのAIの判別が正しいかどうかを、美らイチゴのスタッフが見分けて報告する──という作業の繰り返しだ。その数、1度の送信で数万枚。とにかく学習データの母数を集め続けた。

沖縄はほぼ1年中寒い時期がないため、害虫の生育スピードが本州と比べて早く、農薬なども効かなくなるまでが格段に早い。そのため、病害虫が出そうになった時点で対応しなければ手遅れになってしまう。

ただ、害虫自体は本州とほぼ同じ種類のため、沖縄で早期発見できるAI学習ができれば、本州でもそのままデータを生かせるというわけだ。

「2018年末から2019年の頭にかけての収穫分については、オプティムさん側の(AI学習の)作業がほとんどでした。正直、AIによる判別はまだまだ微妙なところですが、事業としてはあと2年間ありますので、ブラッシュアップしながら今後も精度を高めていきます」と遠藤さんは期待を寄せる。

AIによる画像解析を可視化したイメージ。大きさや成長度合いなどを見分ける

左が解析に使用した写真で、右がそれを解析したもの。イチゴの実の部分が囲まれて色によって生育状況などを判別している

安価な機材で誰もが使えるAI画像解析技術を

遠藤さんはスマート農業に関わる製品を作るメーカーに対して、「農家のためにもなり、農機メーカーも儲かるものを作ってほしい」と願っている。

「(農業コンサルとして)外から意見を言っていた時期もありましたし、自分自身の農業に携わった経験もありました。そのなかで思ったのは、最後は農業経営にどのようにスマート農業なりを生かすか、という観点しかないということです。

メーカーだけが儲かる農機ではなく、農家のためにもなりつつメーカー側もしっかり儲かるような農機やハードウェアを作ってほしいんです。それは、作物を育てている人の気持ちになってほしい、ということ。

オプティムは、地元の佐賀をとても大切にされていますよね。もっと効率よく稼ぐためにはほかの地域の方がいい面もあると思うんですが、そんなところが農家からのオプティムへの評価が高い理由なのかなと思います」


プロジェクトの最終目標として、「2〜3日に1回の収穫の際に同時に自動撮影&アップロードを行い、AIで解析して、収穫1週間前のイチゴの70%、3日前のイチゴの90%くらいの精度での収量予測を目指したい」と遠藤さん。そこまで行けば、観光農園の営業日や市場に卸すタイミングのコントロールもでき、機会損失が減ることになると見ている。

遠藤さんは、

「このAI画像解析技術は、今までのスマート農業開発に一石を投じることができると思います。ハウス内の環境センシングなどもそうですが、まだまだ大手のサービスは農家が導入するには高額です。でもハードウェア的には、ネット通販で安くセンサーを購入でき、Raspberry Piなどを使って自作する方も増えてきています。センサー自体も安く販売されていますが、それ自体も劣化していき、CO2の排出量とかの数値がずれていってしまうと補正の必要も出てきます。購入したら終わりということではないんですよね。

だから、もっと技術がオープンになれば、ハードウェアは適当に農家が購入して、ソフトウェア側でそれを活用するという時代も来ると思っています。スマホの通信技術も、現状の4Gでは動画などをアップすることは難しいですが、5G時代になれば使い放題で常時接続できるようになる。そういう世界になったら、スマート農業はもっと面白くなりますね」

スマホという身近なカメラを用いた美らイチゴとオプティムによるAI画像解析プロジェクトが実現すれば、今後は小さな農家単位でも恩恵を受けられるようになっていくだろう。

プロジェクト自体がスタートしてからまだわずか半年。今後どのような成果を挙げていくのか、SMART AGRI編集部としても注目していきたい。

美らイチゴ

沖縄南部にあるイチゴの観光農園。県内最大規模の「南城ハウス」では、パフェ作り体験などプラスαの体験も可能。「糸満ハウス」は、ひめゆりの塔から約1分の場所にある日本最南端のイチゴ農園。どちらのハウスも那覇空港から車で約30分という好立地だ。現在はオフシーズン中で、2019年12月オープンを予定している。
URL:http://www.chura-ichigo.jp/

所在地:沖縄県糸満市伊原370番地1
TEL:098-948-1015

<参考URL>
平成30年度採択分「農業界と経済界の連携による生産性向上モデル農業確立実証事業」における連携プロジェクト一覧(PDF)
株式会社美らイチゴ
株式会社オプティム


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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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