丹波地域で生産者とともに切り開く、スマート農業の未来の形【丹波地域スマート農業実証実験レポート】

夏の共同作業は省力化が急務


8月1日、兵庫県丹波篠山市「農事組合法人丹波ささやまおただ」の黒大豆の圃場で、スマート農業技術の実演が行われた。

30度を超える猛暑の中、「丹波ささやまおただ」のメンバー、兵庫県丹波県民局丹波農業改良普及センター、技術を担当する株式会社オプティムなどの関係者が集合。JA丹波ささやま、丹波篠山市役所ら地域の関係者が見守る中、ドローンによる圃場の撮影や空中散布を行った。

「農事組合法人 丹波ささやまおただ」のみなさん

小多田地区で黒大豆と水稲を栽培する「丹波ささやまおただ」は、40年ほど前に設立された生産組合を母体とする集落営農組織で、2016年に法人化している。

集落営農とは、集落の構成員の力を合わせて地域農業の課題を解決し、豊かな集落づくりにつなげていく組織で、例えば、田植え機やコンバイン等の機械施設を共同所有・利用し、田植え、防除、草刈り、稲刈り等の農作業も共同で行われている。全国の稲作地帯を中心に組織化、法人化が進んでいるが、高齢化と人手不足が課題となっている。

「丹波ささやまおただ」は、地域の組合員から委託された水稲4.8ha、黒大豆3.9ha、ゆず26aを栽培中。組合員は49名を数えるが、近年は高齢化が進み、実際に作業に従事できるメンバーは限られており、60〜70代が中心。夏の猛暑の中で行う防除と草刈りには多大な労力を要し、危険も伴う。より少ない時間と労力で、安全かつ確実に効果の上がる栽培技術を求めていた。

組合長の岸本久芳さんは、「組合は、ずっと安心安全なものづくりを目指してきましたが、高齢化も進んでいます。これまでの慣行的な栽培と新しい技術を組み合わせて、なんとか作業を省力化できないだろうか。コストダウンも図りたい」と願っている。

組合長の岸本久芳さん

一方、丹波農業改良普及センターの湊政徳さんは、こうした現状をなんとか打開すべく「省力・効率的にドローンで農薬を散布する新技術を導入しよう」と提案。今年度、新たに丹波県民局事業として予算化した「篠山ブランド農産物戦略推進事業(先端技術を活用した農業経営高度化モデル実証委託)」によりオプティムと協力し、AIやドローン等、スマート農業ソリューションを活用した研究開発と技術実証を開始。

また、丹波篠山地域のスマート農業推進は、栽培技術の先にある流通も見据えて取り組みが進行している。2018年は天候不純により収穫量こそ少なかったものの、オプティムのスマートアグリフードプロジェクトも連動し、ピンポイント農薬散布テクノロジーを活用して栽培された黒枝豆を「スマート黒枝豆」として商品開発・ブランド化し販売した実績もあり、取り組みは今年で2年目を迎える。

丹波農業改良普及センターの湊政徳さん


2018年栽培・商品化・販売された「スマート黒枝豆」

3分間の飛行で目視では確認できない食害痕を感知


黒大豆の畑に向けて、撮影用の1台の小型ドローンが飛び立った。

「畑の上空を飛行しながら、等間隔でシャッターを切るように設定しているので、30aを90カット前後撮影します」

そう語るのは、オプティム ビジネス統轄本部農業事業部の星野祐輝さん。ドローンは3分ほどで撮影を終えて帰還。機体からSDカードを取り出し、パソコン画面を立ち上げると、同社が開発した「Agri Field Manager」が解析をスタート。ほどなく空撮した黒大豆の映像と葉面上に赤いマークが現れた。これは害虫による食害痕を示している。

オプティムの星野祐輝さん(左)が、撮影用ドローンの操作を指示する

「Agri Field Manager」上に表示された黒大豆の葉。撮影した画面に、赤色で食害痕が示される

画像を目にした岸本さんは、「我々も圃場に入って被害を確認していますが、見えない部分もたくさんあります。まだ米粒ほどの穴ですが、AIは見逃さない。やっぱりドローンは、我々よりずっと目がいいですね」と感心する。

被害状況を画面で確認したら、どんな農薬を、どれくらい、いつ、散布するのだろう?

星野さんによれば、「被害状況から、散布の有無、全面散布かピンポイントか……AIの解析結果に対し、どのような判断を行うか、生産者さんと協議しながら、体系化を進めています」という。

ドローンの存在が減農薬と生産者の意識改革につながる

続いて別の圃場に会場を移して、ドローンによる薬剤の全面散布が行われた。タンクを搭載して、高度を一定に保って散布する。30aの黒大豆畑に、スミチオン乳剤の8倍希釈液2.4ℓを散布した。

黒大豆畑を全面散布。30aの散布時間は、散布高度・速度などの飛行条件にもよるが約6~7分で終了

あらかじめ畑の位置データを認識している薬剤散布用ドローン「OPTiM X」は、ナビゲーターが見守る中、自動飛行により畑全体へ均等に薬剤を散布した。

続いて、黒枝豆圃場にトレボン乳剤(1000倍)のピンポイント散布も実施。食害の多いポイントの4×4mの区画内を0.5m間隔で横移動しながら、1カ所あたり約10秒間散布。こちらはあらかじめ設定したプログラムに従い、指定されたポイントに自動的に移動して薬剤を吹き付けていく。地上に設置された「感水紙」は、水分が付着した部分だけが青く変色する。散布後にこれを回収することで、まんべんなく薬剤が散布されていることも実証された。

オプティムが担当している技術は、事前に撮影した画像のAI解析と、解析結果をデータ化し、OPTiM Xにシステム連携することで、食害発生箇所まで自動飛行し、ピンポイントで薬剤散布を行うものとのこと

散布状況を確認するために設置した感水紙。青色が散布された部分で、まんべんなく付着していることがわかる

岸本組合長によれば、これまでの薬剤散布作業は6〜7人がかり。トラックにタンクを乗せ、圃場の端から端へホースを渡して、両サイドから移動しつつ全面に噴射していたという、とても負担の大きい作業だった。どこに害虫が潜んでいるのか、ポイントを絞ることはできなかったので、被害のない部分も含めて全面散布するしかない。畑1枚(30a程度)につき約400ℓ。葉面はビショ濡れになる。

年によっては、害虫発生量も少なく散布の回数や量を減らすこともできたかもしれない。それでも「もし何かあったら……」との懸念から、なかなか減農薬に踏み切れずにいたそうだ。

「ドローンを使えば2人で作業できるし、農薬使用量も確実に減らせます。省力化はもちろんですが、農家が積極的に減農薬に取り組む、意識改革につながるかもしれません」と岸本さん。実証データは集計段階ではあるが、慣行の動噴散布と比較してピンポイント農薬散布は、農薬散布時間・農薬散布量ともに、のべ工数で少なくとも約90%以上の削減となる見込みだ。

いま「丹波ささやまおただ」のような集落営農組織は、日本に約1万5000ある。丹波地域での技術実証を契機に、ドローンによる的確な薬剤散布手法の体系化が進み、活用されていけば、農家の作業量と農薬使用量を全国で劇的に低減できる。この試みは、そんな可能性も秘めている。

組合員のみなさん。薬剤散布の労力はもちろん、使用量の低減のためにも、ドローンへの期待は高まる


マイナーな作物でも空中散布可能な体制整備を


続いて同市内の味間南地区へ。ここでは「味間南農業生産組合」30名中、山の芋を栽培する「霧の会」のメンバーが集まった。代表の平野正憲さんは、特産品である山の芋の「地域特産物マイスター」として活躍中。地域をリードする名人として知られている。

畝の上にこんもり葉が広がる山の芋の畑

丹波篠山の山の芋は、長芋や自然薯とも異なり、丸く大きく、すりおろすと粘りが強いのが特徴。8月の畑には明るいグリーンの葉が生い茂り、こんもりと畝を覆い尽くしていた。この時期心配なのは葉渋(はしぶ)病。蔓延すると光合成を阻害され、地中の芋の生育が阻害されてしまう。

山の芋の地域特産物マイスター、平野正憲さん

葉渋病に感染した葉(左)と健康な葉(右)。夏の防除が課題

平野さんたちは、普及センターの湊さん、オプティムの星野さんらと相談して、ドローンによる農薬の全面散布を実施することに。この日は殺菌剤「トップジンMゾル」の5倍希釈液を散布した。準備を進める湊さんは「ヤマノイモに使える空中散布薬剤は、本当に少ないんです」と呟いていた。

平野さんも、「マイナー作物に使える空中散布薬剤は限られているので、農家と普及センターとオプティムさん、そして農薬メーカーも一緒になって、安全に使える農薬が増えるように取り組んでいただきたい」と話す。

水田と隣接した山の芋の圃場を飛行して全面散布

薬剤を積んだドローンは、黒大豆の散布の時よりもゆっくりしたスピードで約20aに全面散布。約9分で終了した。これで葉渋病が治ればよいのだが、まだ安心できない。


生産者、エンジニア、自治体の信頼が普及のカギ


小多田でも味間南でも、組合員が幼い孫たちに小さなドローンを買い与えるケースが増えているそうだ。みんな「わしらよりずっと覚えが早い」と苦笑い。いつかドローンを糸口に、彼らがスムーズに農業に参入できる日が来るように。そんな思いも込められている。

「AIやドローンは、いろんなことをやりよるけれど、これまでの栽培技術をきっちり組み込んで、しっかり分析させないと、普及は難しいと思う」(平野さん)

AIやドローンを駆使した農業の普及には、現場で奮闘してきた生産者と、その経験を最新機器に活用するエンジニア、そして両者をつなぐ自治体担当者との信頼関係が不可欠だ。オプティムもスマート農業アライアンスを発足させ、生産者・自治体等の団体と連携を深めることで、スマート農業推進の枠組みを固めている。現に「農事組合法人丹波ささやまおただ」・「味間南農業生産組合」両者とも、オプティムが提供するスマート農業アライアンスに加盟し、積極的に最新のスマート農業の活用方法の議論を深めている。先述したスマートアグリフードプロジェクトもその一環だ。

丹波地域では、その三者が炎天下で協力し合い、共に汗を流しながら、明日につながる栽培技術を探究し続けている。

※本事業で栽培した丹波篠山産黒大豆(枝豆・黒豆)の販売に関するお問い合わせはこちら
株式会社オプティム ビジネス統轄本部農業事業部 大澤淳
Mail:jun.osawa@optim.co.jp

味間南生産組合のみなさん、普及センター、オプティム担当者と


<参考URL>
兵庫県/丹波地域におけるスマート農業の展開
JA丹波ささやま
株式会社オプティム 兵庫県丹波県民局と兵庫県丹波地域で取組む共同事業概要
SMART AGRI オプティム「スマート農業アライアンス」

【特集】オプティム「スマート農業アライアンス」農家レポート
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WRITER LIST

  1. 蒼井ネコ
    農学系の兼業ライター。某大学農学部、某農業レストラン、某飲料会社商品企画を経て、現在は某マルシェアプリでwebマガジン編集として働きながら、猫様のお世話をしている。
  2. 大坪雅喜
    おおつぼまさのぶ。1973年長崎県佐世保市生まれ。FARM DOI 21代表(農業者)・アグリアーティスト。 早稲田大学第一文学部史学科考古学専修卒業。学生時代に考古学、水中写真、自然農という世界を覗き込む。2006年9月、義父が営む農業の後継者として福岡県大川の地で就農。農業に誇りを持ち、未来には普通となるような農業の仕組みやサービス(カタチ)を創造していくイノベーションを巻き起こしたいと考える。縁のある大切な人たち(家族)と過ごす物心ともに満たされた暮らしの実現こそが農業経営の最終的な目的。現在、佐賀大学大学院 農学研究科 特別の課程 農業版MOT 在籍中。
  3. 柴田真希
    管理栄養士。㈱エミッシュ代表取締役。Love Table Labo.代表。27年間悩み続けた便秘を3日で治した雑穀や米食の素晴らしさを広めるべく、雑穀のブランド「美穀小町」を立ち上げる。現在はお料理コーナーの番組出演をはじめ、各種出版・WEB媒体にレシピ・コラムを掲載する他、食品メー カーや飲食店のメニュー開発やプロデュースなどを手がける。『私は「炭水化物」を食べてキレイにやせました。』(世界文化社)、『はじめての酵素玄米』(キラジェンヌ)など著書多数。
  4. 大城実結
    おおしろ みゆう。フリーランス編集ライター、大城文筆事務所所長。一次産業ほか地域文化、アウトドアなどお天道様系分野を専門に編集・執筆している。自転車で鍛えた脚力を活かし、農家さんのお手伝いをしながらインタビュー取材を積極的に行う。玉掛け免許と床上式操作クレーン免許所持。
  5. 井中優治
    いちゅうゆうじ。株式会社収穫祭ベジプロモーター。福岡県農業大学校卒。オランダで1年農業研修。元広告代理店勤務を経て、新規就農6年目。令和元年5月7日に株式会社収穫祭を創業。主に農業現場の声や九州のイベント情報などを発信している。