スマート農業で「つらくない農業」を実現するために【青森県・大平ファーム<後編>】

青森県黒石市で米の栽培を中心に農業を営んでいる大平ファーム。大平ファームは、株式会社オプティムアグリ・みちのくのスマート農業アライアンスに参加し、ドローンとAIによる雑草対策に取り組んでいます。

後編では、スマート農業アライアンスに参加したきっかけや、実際にスマート農業を導入した感想などをうかがいました。元々スマート農業には興味を持っており、アライアンスに参加して「省力化」をはかり、米の付加価値を上げたかったと言います。

DJと農業を兼業されている代表の大平さん

ピンポイント農薬散布による“減農薬”という付加価値

――2019年から、オプティムとスマート農業に取り組もうと思ったきっかけはなんですか?

最先端の技術をいち早く取り入れたいと思ったからです。省力化を図ることも目的の一つですが、ピンポイントで農薬を散布することで、米の付加価値を上げたいとも思いました。

ーー減農薬ということですね。

そうです。実は、これまでも無人ヘリコプターなどでの農薬散布はしておらず、害虫が多い年もありましたが、できるだけ手作業で除去していたんです。

というのも、私は元々農薬を撒くことには少し抵抗を持っていたんです。収穫する際に多少黒米があったとしても、カメムシなどの害虫が付いた黒米とか青い米とかをすべて色彩選別機で取り除くくらいで、目をつぶれるレベルでしたから。

ただ、収穫する前に虫をやっつけた方がいいとは思っていました。必要なところにだけピンポイントで散布できれば便利ですよね。そもそも、オプティムの圃場については例外ですが、他の圃場にも特に農薬を使用していないのですが、うちは特に“減農薬”という名目にせずに出荷しているんです。その辺もきちんと表示できるようにしたいですね。

田植えの後には除草剤の中期剤だけ使っていましたが、それでもところどころ生えてきてしまうことがあるんですよね。でも、今年は昨年と比べても雑草の数が少なくて、抜かなくても発育に支障のないレベルの小さい雑草だったので、結果的には撒く必要はありませんでした。こちらも雑草検知技術が活用できそうです。

――そもそもこれまで、スマート農業を取り入れようと思ったことはあったのですか?

コンバインや田植え機などの農機は使っていましたが、いわゆるスマート農業に対応した農機は使ったことはありませんでした。いろいろと機械メーカーのホームページを見ていて気になってはいたんですが、なかなか始めるきかっけがなかったんです。

そんな時に、オプティムさんから声をかけていただいて、「やっとできるぞ!」と思いました。ドローンで薬剤を散布するということは聞いていましたが、AIと画像解析も用いてピンポイントでの散布ですし、できた米の全量買取もしてくれる。これはうれしかったですね。

最近、クボタのKSASコンバインと田植え機を導入して、タブレットと連動してデータが取れるようになったので、そちらも合わせて活用していきたいですね。稲を刈りながら、水分とタンパク質を測定することができるんです。刈った時点で見た目や成分などからどこに出荷するかを判断することができます。これまでは判断基準がなかったので、とにかく出荷! という感じでしたからね。施肥設定やどれほど多く収穫できたかなどをデータ化していきたいです。田植え機では、圃場のph値などの土の状態を見ながら肥料を調整することもできます。



ドローンで見える景色が変わった

――今年初めて、実際に水田でドローンを使われた感想はいかがですか?

これまで、当たり前ですが、稲が横から見て広がっている姿しか見たことがなかったんです。初めて自分の水田を真上から見て、生育状況などを写真で確認して感動しましたね! 今までただ緑色に見えていたものが、上から見ることでまばらなところが見えたりして、こんなふうに田んぼを見ることができるんだ、と考え方も変わりました。

――ドローンはどの程度の頻度で飛ばしているのでしょうか?

田植え直後の5月中旬から7月の最終週まで、1週間に1回くらいの頻度でドローンを飛ばして写真を撮影し、生育状況をチェックしていきました。

実際に飛ばしているのは、それまでドローン操縦経験が全くなかった37歳の社員です。スマート農業アライアンス参加をきっかけに、初めてドローンの操縦をさせてもらいました。使用したドローンはDJI社のPhantom 4 Proです。


――ドローンを使うことへの周囲の評判はいかがですか?

消費者の方にはドローンによって「減農薬のお米」が作れると説明しています。無人ヘリを圃場全体に飛ばして農薬を散布するよりも、ドローンだったらピンポイントの散布で済みますし。もちろん、近所の農家の方や、買ってくださっているお客様にも、一通りどのように作っているお米かをお伝えしています。

――近所にもドローンを導入されている農家さんは多いのですか?

いえ、ドローンを使用して農業を行うということ自体、私の地域ではあまり広まっていないので、「新しいことをやっているらしい」というイメージが強いみたいです。否定的な意見はそんなにないですね。気になっているとは思いますが、動向を探っているといった感じかもしれません。「何してるの?」とかは聞かれたりもしますよ。


農業を、もっともっと楽しめるように

――今回「つがるロマン」が「スマート米」として販売されるわけですが、PR方法などはどのように考えていますか?

これまでの2年間は、どのようにして農作業や会社経営を楽しくしていくか、ということに目を向けてきたので、PRの方法は今後の課題の一つですね。

常々、“農業=つらい”というイメージが強いと感じていて、つらいと思いながら作ったものが高く売れても、若い世代が共感してくれないんじゃないかと思ったんです。低収入でも、楽しい働き方改革をしたほうがうれしいんじゃないかな、と。

そういうことを私だけが考えるのではなく、若い子たちに考えてもらうのも良いかなと思っています。DJをしているおかげで若い世代とふれ合う機会にも恵まれていますし、一緒に働いている30代の社員たちも私の姿を見ています。楽しみ方も私と共通していることも多いんです。

ドローンは若い世代を中心に注目されているじゃないですか。それにオプティムさんの「楽しく、かっこよく、稼げる農業」という言葉は、私たちの会社のイメージに当てはまるとも思いました。

――農作業を「つらくしない」という発想なんですね。

そうですね、父と農業をしているときはつらかったですからね(笑)。設備を整えるためにアルバイトをしながら農業をしていましたし。

でも、今は社員と楽しみながら農業ができていますし、もっと楽しんでいきたいです。それにお金がついてきてくれたら、もっともっと楽しくなりますよね。

――今後のスマート農業に期待したいことはなんでしょうか。

雑草検知、病害虫検知ももちろんですが、2枚の水田を1枚にするとき、ドローンで高低差を出して均一にするというオプティムさんの取り組みもやってみたいんです。一般的にはレーザーレベラーなどを使って行うのですが、石川県でオプティムさんとコマツさんが建設分野で協業している、ブルドーザーにアタッチメントをつけて実施するやり方の方が合っていると思うんです。

あぜ道を1本取るだけで、田植えも草刈りもすごくラクになるんですよ。そういった技術を導入して大規模な圃場にしていきたいですね。

いずれにしても、まだ始めたばかりなので「期待したい」というよりは、「私たちも頑張るので新しい技術を教えてほしい!」といった感じです。オプティムさんの話を聞いたときも度肝を抜かされたので、これからももっと驚かせてほしいですね!


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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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