ドローン×AIで栽培した丹波産「スマート黒枝豆」が東京の八百屋に登場

八百屋の店先に、なぜドローン?

東京都文京区の白山駅近くに「八彩(やさい)」という名の八百屋があります。10月20日、その店頭にドローンが展示されていました。


「うわっ、ドローンだ」

お母さんと店の前を通りかかった男の子は興味津々。コントローラーのレバーを握り、今にも操縦したげな表情です。

「八百屋さんに、なぜドローン?」
首を傾げながら、立ち寄る白髪の女性に、
「この枝豆は、ドローンを使って栽培したんですよ」
と店頭のスタッフが説明すると、
「えっ、枝豆を作るのに、なぜドローン??? 」
と、ますます不可思議な表情になるのでした。

「ぜひ召し上がってみてください」
ゆでたての枝豆を差し出します。
「あら大きい!」

まずそのさやの大きさにびっくり。そしてその中から、枝豆特有の鮮やかなグリーンの中に紫色がかったグラデーションが浮かぶ、大粒の豆が現れました。

「丹波黒の枝豆です」
「なんて粒が大きいんでしょう。そして味が濃くておいしい」

不思議そうにドローンを眺めていた女性客は、驚きの表情。さっきまでドローンのコントローラーを手にパイロット気分を味わっていた少年は、すでに枝豆に夢中。なかなか試食が止まりません。

超プレミアムでスマートな枝豆とは?

東京近郊で枝豆といえば、5〜6月から出回り始め、7〜9月の暑い時期にピークを迎えます。産地は千葉県、群馬県などが中心で、価格は1袋300〜400円台のものが多い中、山形県で栽培される「だだちゃ豆」など、500円以上の高値がつくプレミアな枝豆もあります。

ところが、この日販売された「丹波黒」の枝豆は、なんと680円! さらにプレミアムな値段がついています。


日本の枝豆シーズンのラストを飾るこの枝豆は、10月解禁。そのまま畑で成熟させると、おせち料理に欠かせない黒豆の材料になります。
それを未熟なうちに収穫することで、大粒で味の濃い枝豆として味わえるのです。

その美味しさとボリュームは、枝豆界で言えば横綱級 。他の産地でも「作りたい!」と種子を取り寄せて栽培に挑戦する人もいるのですが、さやがつかなかったり、小粒で終わってしまったり。なぜか丹波でなければ、この大きさと美味しさは出せないといいます。

あまりにおいしくて数に限りがあるので、これまで関西圏を中心に出回っていましたが、このたびいよいよ東京へ。高島屋の横浜、柏、新宿店で販売したところ、首都圏の消費者にも大好評でした。

ところで、この枝豆には「丹波篠山産 スマート黒枝豆」という名がついています。発売元は株式会社オプティムIT企業がスマート農業を活用して栽培した「超プレミアムでスマートな枝豆」とは、何なのでしょう?


ドローン×AIによって農薬を99%、労力を30%削減

この枝豆は、兵庫県篠山市の約50戸の農家が集まった「農業生産法人丹波ささやまおただ」の圃場で栽培されました。その生産管理には、オプティムが開発したピンポイント農薬散布テクノロジーが活用されています。


まずは、ドローンに搭載したカメラを活用して、圃場や農産物を撮影。その画像を元に、植物の生育状況や病害虫の被害状況を把握します。


これまでの栽培方法では、食害や病害の有無に関係なく、動力噴霧器や無人ヘリコプターを使って、畑の全面に農薬を散布していました。ところがこの技術を使うと、ドローンを使って病害虫が発生している場所にだけ、ピンポイントで集中的に農薬を散布することができるのです。その結果、「農薬の量は、慣行栽培の99%(注1)、散布に要する労力も動力噴霧器を使う場合に比べて30%程度削減できました(注2)」と、オプティムの中坂高士さん。


今、生産現場では高齢化や離農が進む一方、消費者は安全かつ品質の高い農産物を求めています。そんな板挟みが続く中、生産現場でいかに農薬や労力を減らし、低コストで安全に作物を栽培するか。それを実現させる有効なツールとして、ドローンを活用したピンポイント農薬散布テクノロジーが生み出されました。

これまで、ドローンによる農薬散布は、米、麦、大豆など、主要な穀物に限られていました。同じ大豆でも、「生鮮野菜」である枝豆栽培に利用されたのは、オプティム のこの取り組みが世界初です。従来の空中散布は無人ヘリが中心で、使える作物も限られていました。ドローンに農薬を搭載して、生鮮野菜の圃場で散布を行うには、新たに農薬の希釈倍率の基準を定めるなど、農薬取締法の整備も必要です。

「これからは、キャベツ、白菜、ブロッコリーなど、AI技術を駆使して、新たな作物に活用できるようにしていたいと試験栽培中です」(中坂さん)


お客さんはLINEを見てやってくる!

そんな中坂さんと、八百屋の「八彩」を経営する株式会社kikitoriの上村聖季社長は、会社の元同僚です。

上村さんは、これまで全国の有機栽培農家100軒と都会の消費者を、インターネットによって結んで農産物を販売したり、卸売市場の機能をIT技術で刷新してきました。地場野菜の販売や海外輸出にも尽力しており、豊島区の卸売市場の買参人権を獲得して、昨年6月に実店舗をオープン。現在は、茗荷谷にももう1店舗構えています。


「ネット上のやりとりだけでなく、農産物の価値を、実店舗で直接お客様に伝えたい」と話す上村さんは、IT技術で生産現場を盛り上げようと奮闘する中坂さんの取り組みに賛同。「スマートやさい」第1号の黒枝豆を、「八彩」で販売することになりました。

「『東京ではなかなか出回っていない、プレミアムな野菜を』。スマート黒枝豆は、そんなうちのコンセプトにもぴったりなんです」

そんな話をしていると、「『お店にドローンとすごい枝豆が来る』というLINEを見てきました」という常連の女性客もやってきました。「八彩」では、お店が発信するLINEのメッセージがチラシ代わり。顧客の反応がダイレクトに伝わってきます。


超プレミアムでスマートな黒枝豆が、東京の小さな八百屋にお目見え。それはまた、生産と消費の現場で「血の通ったIT技術」を駆使した「スマートやさい」第1号が、生まれた瞬間でもありました。

<参考URL>
ピンポイント農薬散布テクノロジーを用いた「丹波黒 大豆・枝豆」の栽培に成功、2018年10月17日から高島屋で販売(オプティム ニュースリリース)
株式会社kikitori

<脚注>
注1:ハスモンヨトウを中心とした害虫に関する農薬に対して、当該地域で定めた農薬使用量とピンポイント農薬散布テクノロジーを用いて散布した農薬の使用量を比較。 削減量については、年度や地域で異なる場合があります。
注2:丹波ささやまおただにて、30aの圃場に対して動力噴霧器を用いて散布をした際の労働時間と、ピンポイント農薬散布テクノロジーを用いて散布をした際の労働時間を比較。
【特集】オプティム「スマート農業アライアンス」農家レポート
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WRITER LIST

  1. 蒼井ネコ
    農学系の兼業ライター。某大学農学部、某農業レストラン、某飲料会社商品企画を経て、現在は某マルシェアプリでwebマガジン編集として働きながら、猫様のお世話をしている。
  2. 大坪雅喜
    おおつぼまさのぶ。1973年長崎県佐世保市生まれ。FARM DOI 21代表(農業者)・アグリアーティスト。 早稲田大学第一文学部史学科考古学専修卒業。学生時代に考古学、水中写真、自然農という世界を覗き込む。2006年9月、義父が営む農業の後継者として福岡県大川の地で就農。農業に誇りを持ち、未来には普通となるような農業の仕組みやサービス(カタチ)を創造していくイノベーションを巻き起こしたいと考える。縁のある大切な人たち(家族)と過ごす物心ともに満たされた暮らしの実現こそが農業経営の最終的な目的。現在、佐賀大学大学院 農学研究科 特別の課程 農業版MOT 在籍中。
  3. 柴田真希
    管理栄養士。㈱エミッシュ代表取締役。Love Table Labo.代表。27年間悩み続けた便秘を3日で治した雑穀や米食の素晴らしさを広めるべく、雑穀のブランド「美穀小町」を立ち上げる。現在はお料理コーナーの番組出演をはじめ、各種出版・WEB媒体にレシピ・コラムを掲載する他、食品メー カーや飲食店のメニュー開発やプロデュースなどを手がける。『私は「炭水化物」を食べてキレイにやせました。』(世界文化社)、『はじめての酵素玄米』(キラジェンヌ)など著書多数。
  4. 大城実結
    おおしろ みゆう。フリーランス編集ライター、大城文筆事務所所長。一次産業ほか地域文化、アウトドアなどお天道様系分野を専門に編集・執筆している。自転車で鍛えた脚力を活かし、農家さんのお手伝いをしながらインタビュー取材を積極的に行う。玉掛け免許と床上式操作クレーン免許所持。
  5. 井中優治
    いちゅうゆうじ。株式会社収穫祭ベジプロモーター。福岡県農業大学校卒。オランダで1年農業研修。元広告代理店勤務を経て、新規就農6年目。令和元年5月7日に株式会社収穫祭を創業。主に農業現場の声や九州のイベント情報などを発信している。