黒石市の雪解け水で作ったスマート米「まっしぐら」【青森県・株式会社アグリーンハート<前編>】

株式会社オプティムアグリ・みちのくのスマート農業の実施&収穫物の全量買取を行う「スマート農業アライアンス」参加生産者の声を聞くインタビュー企画。

今回は、青森県黒石市で農業法人を営む株式会社アグリーンハート代表取締役の佐藤拓郎さんです。

代表取締役の佐藤さん(写真左)とドローンの操縦を担当する竹谷さん(写真右)

実は佐藤さん、ミュージシャンやタレントとして青森県内で活躍されている、地元では有名な方なんです。農家としては6代目で、高校を卒業してすぐに実家を手伝うかたちで、ミュージシャン兼農家として就農。2017年1月に満を持して株式会社アグリーンハートを設立、翌年にはグローバルGAPを、さらに水稲の一部と野菜に関しては自然栽培で、その圃場は有機JAS認証も取得しています。

前編では、法人を立ち上げた理由、自身の農業観、今年栽培しているスマート米についてうかがいました。


将来的な規模拡大に向けて人材に投資中

ーーまず、アグリーンハートという法人を立ち上げるまでのお話しを聞かせてください。

アグリーンハートは、水稲主体の農業を営む農業法人です。経営の特徴として、市内の休耕地だった場所を新たに自然栽培で農地に変えるという活動をしています。

音楽活動の方は、歌をCMなどに提供するミュージシャンとして、またタレントとして地元のテレビ番組なんかにも出ています。青森の中でというか、地元の方々からは期待していただけていると思います。

経営面積は57haです。そのうちの9haが自然栽培で、7.5haが水稲、1.5haが野菜などの畑です。パートも含めて10人くらいで経営しています。立ち上げた2017年時点では33haだったんですが、この2年間で135%面積を広げました。

ーー休耕地を自然栽培で広げるという活動をされているとのことですが、今後も規模は拡大していく予定ですか?

いまのところは、自分で広げるのは休耕地での自然栽培だけにしたいと思っています。というのも、黒石市はまだ50代後半から60台前半の若い農家が健在なので、慣行栽培の田んぼは自分から手放そうとはしないと思うんです。

ただ、もし譲りたいという方が増えてきたらお受けできるように、現状は社員に余剰投資している状態です。


法人は「地域に浮かぶ船」、経営者は「船長」

ーーご実家も農家だったとのことですが、法人として独立されたきっかけは?

私で6代目なのですが、地域の未来を考えた時にやっぱり法人でないといけないと考えて、私が2年前に創業しました。それまでは父の経営体の中で作業員として働くかたちで、農業を基本としつつ音楽活動やタレント活動もしていました。いわゆる家族経営ですね。

そもそも父の経営体は複合形態で、水稲と施設園芸などいろいろ取り組んでいて、最初はその一部を法人化する予定でした。ただ、法人化の1週間前くらい前に「やっぱり水稲だけ法人化してくれ。野菜の方は自分がやる」と言い始めまして(笑)。

結果として、私が代表となって立ち上げたのが株式会社アグリーンハートです。父は父で施設園芸でトマトなどを栽培しています。私も私で自然栽培で有機野菜を手がけています。

ーーご実家が農家ですと、ご自身も田植えとかのお手伝いをひととおり経験されてきたことと思います。家族農業を引き継いで法人化しなかった理由はなんだったのでしょうか?

法人化って「地域に浮かぶ船」みたいなものだと思うんです。個人経営だと経営者自身が船そのもので、病気になったり死んだら終わり。でも法人では法人という船があって、経営者は船長、といった考え方です。アグリーンハートという法人を前に進ませるために、一緒になって頑張ってくださっている人もたくさんいらっしゃいます。

ーースマート農業についてはどのようにお考えですか?

スマート農業によって素人も玄人もあまり差のない作業ができる時代になってきたら、みんなで立ち向かわないと、自分一人だけで敵うものではありません。客観的な視点で見ると、会社として志が同じ人が一緒に動かしてくれるのであれば、誰がやってもいいんじゃないかと思うようになりました。法人化したおかげで、自分の経営を客観的に見られるようにもなりましたね。

それと、親父からは6代目を受け継いだつもりではいるんですけど、私から下の世代に対しては強制しようというつもりはありません。家族で伝承していくというよりは、「やれる人がやった方がいいんじゃないか」というつもりでいます。

ーーちなみに、音楽活動が農業に役に立っていることなどもあるのですか?

立場柄、発信力がありますので、強い一歩が踏み出せるというところはありますね。だからいろいろ依頼されることも多く、講演なども頼まれて引き受けていますね。



かけ流しの豊富な水で育った黒石市産のスマート米「まっしぐら」

ーー今年栽培された「スマート米」はどんな米なのでしょうか?

「まっしぐら」という品種で、約10ha栽培しています。スマート米に関しては直接播種を用いて栽培していて、今年は収量も良さそうです。

黒石市は青森県で一番の米どころと言われており、南八甲田の裾野に位置する雪解け水がとても豊富な地域です。水がきれいだと土も良くて、どっちも“若い”んですよ。そういう場所で作物を作ると、米も野菜もおいしくできます。

栽培の工夫としては、水が豊富なため、常に田んぼに入れてかけ流しにしています。水はけがいい土地柄というおいしいお米が作れる条件が揃っているんです。

スマート米として栽培している「まっしぐら」の圃場

そういう環境だと肥料も流れてしまうんですけど、肥料を与えるっていうのは作物に対して無理やり栄養を与えている状態なんです。作物自身が食べたくない時にも食べなきゃいけない状態になっていると、作物にとってのストレスにもなる。ヒトも野菜も、やっぱり食べたい時に食べるのが一番ですから。

もちろん、土壌分析して自分の圃場の地力がわかっているなら肥料を使ってもいいのですが、アグリーンハート全体で57haもあるので、全部見るわけにもいきません。なにより、水はけがよくて肥料も流れてしまう土自体が、おいしいお米作れる理想の環境とも言えますね。

いま38歳なんですけど、50歳になったら本気でバンドをやりたいと思っているんです。それまでに農業という1次産業をなんとか軌道に乗せて持続可能な状態にして、誰かに渡したいんです。ガチですよ(笑)。


株式会社アグリーンハート
SMART AGRI オプティム「スマート農業アライアンス」
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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