人工衛星によるセンシングで変わる、小麦の収穫【コメより小麦の時代へ 第6回】

本連載で何度かお伝えした通り、小麦の栽培にとっての難題は「穂発芽」だ。発芽した粒が混じれば品質の低下を招く。

北海道ではその発生を防ぐため、人工衛星によるリモートセンシングで収穫の適期を割り出す方法が定着している。急速に普及している超強力小麦「ゆめちから」でもそのサービスが2021年にも始まるという。



収穫の判断は経験と勘から人工衛星によるデータへ


北海道における小麦の収穫作業は、近隣の農家が一つの集団となり、共同で行う。以前であれば、集団のメンバーは収穫する順番を決めるために畑を巡回していた。

しかし、判断の頼りは「経験と勘」。巡回しているうちに判断基準はぶれてくる。おまけに刈り取る順番を決めるにあたっては、集団内での上下関係も働いたこともあるのは想像に難くない。

そこで、ズコーシャと農研機構・北海道農業研究センター(以下、北農研)と北海道立総合研究機構・十勝農業試験場、JA芽室は2004年、リモートセンシングを踏まえて畑ごとに小麦を刈り取る順番を把握するシステムを開発した。

収穫の2週間ほど前に人工衛星で小麦の産地を撮影し、その画像を基に畑一枚ずつの植生指数(NDVI)を算出する。NDVIは穂水分と相関関係があるため、それを計測することで、どの畑から収穫すべきかを相対評価できるシステムとなっている。


乾燥にかかる費用を33%削減


人工衛星による撮影は7月の1週目から2週目にかけて。この時期に定めているのはなぜなのか。

ズコーシャ総合科学研究所アグリ&エナジー推進室の横堀潤室長は「小麦は成熟に近づくと、水分が抜け落ち、穂の色が緑色からクリーム色に変化する。北海道ではこの時期に小麦の穂の色が変化し、圃場により色の違いが大きく出るから」と説明する。撮影する日数に幅を設けているのは天気次第で撮影できない日があるため。

画像:ズコーシャ総合科学研究所
ズコーシャは収穫の優先順位がわかるように色分けした地図を紙にして、顧客であるJAを通じて農家に配布している。対象品種は北海道の主力品種「きたほなみ」。道内には同様のサービスを提供する会社や組織がほかにもある。

適期に収穫する理由は、穂発芽の発生を防ぐためだ。収穫が遅れると、雨が降ったときに穂から発芽してくる。北海道ではそれを防ぐため、むしろ適期よりも少し早いうちに刈り取ることが励行されてきた。

ただ、早く刈り取るともみに水分が多く残るので、乾燥機の稼働時間が伸びて人件費も燃料費もかさむ。

図:あぐりぽーと No.56(2005.8.1)
JA芽室で今回のシステムを導入したところ、それらの費用は導入前と比べて計33%減らすことができた(図)。加えてコンバインが1日当たりに収穫できる量も増えた。以前であれば畑に到着した段階で水分が多いことから、刈り取りを延期することがあったのだ。


「ゆめちから」でも実証試験を開始


ズコーシャは北海道のもう一つの主力品種「ゆめちから」についても、このシステムを構築する実証試験を始めている。

この超強力品種の収穫日は「きたほなみ」より数日遅い。「きたほなみ」のために撮影した画像を基に「ゆめちから」でもNDVIを算出する。穂の水分率とNDVIの推移についてはデータを取り貯めている。それらのデータからつくる独自の計算式を基に、収穫適期の初日を予測するほか、畑ごとの優先順位も示せるようにするという。

北海道産の秋まき小麦は、「きたほなみ」と「ゆめちから」の2品種が作付面積のほぼすべてを占める。それだけに今回の実証試験への産地からの期待は大きいはずだ。


ホクレン営農技術情報誌 あぐりぽーと No.56(2005.8.1)
https://www.hokuren.or.jp/common/dat/agrpdf/2014_0317/13950386431459961955.pdf
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  1. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  2. 槇 紗加
    槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  3. 沖貴雄
    沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  4. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  5. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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