国産小麦普及のカギは「備蓄施設」と「産地間連携」【コメより小麦の時代へ 最終回】

本連載の最終回は国産小麦を普及するための今後のあり方について考えてみたい。

多様な観点からの議論が必要である中、ここでは備蓄施設の整備と産地間連携について取り上げる。



備蓄体制の整備

国産小麦の安定供給にとって大事なこととして、北海道を取材した際に聞こえてきたのは備蓄体制の整備だ。

連載の第4回「『顔の見える流通』のための自社製粉工場」でご紹介したように、小麦の集荷業者・山本忠信商店(以下、ヤマチュウ)は、同社に出荷する農家の集まりであるチホク会から「ゆめちから」を含めて6品種を集荷している。

その量は年間で計2.2万t(2019年産実績)。同社は10億円を投じて十勝初となる製粉工場「十勝☆夢mill(十勝夢ミル)」を運用している。2019年に製粉したその量は6000t。残りは民間流通を通して製粉会社などの実需者に販売される。

主力品種である「ゆめちから」の主な出荷先は、「超熟」などのブランド商品で知られる敷島製パン。同社の現社長がその就任時に国産小麦を使ったパンづくりを打ち出したことはすでに伝えた。

敷島製パンには毎年決まった量を届けない。そこで問題になるのが生産を安定させることである。

近年の異常気象もあって生産を安定させることは簡単ではない。いまのところ北海道に代わる「ゆめちから」の大きな産地はないので、もし悪天候で大凶作となれば、需要を満たせなくなりかねない。そこで求められるのは、備蓄施設を造ることだ。

政府は1993年の大不作などを受けて、主食であるコメの需給と価格の安定を図るための議論を開始。その結果を受けて1995年に「主食食糧の需給及び価格の安定に関する法律」が施行され、備蓄制度が始まった。

適正な備蓄水準は100万t程度に設定している。10年に1度の不作や通常程度の不作が2年連続して発生しても国産米で国内の需要が賄える水準だという。基本的に備蓄米は市場に影響を与えないよう主食用途に流すことなく、5年持ち越した段階で飼料用などに売却する。

ただ、これは米に限った話。小麦についてはこうした備蓄制度はない。というのも国産需要を賄う小麦の主力は、あくまでも外国産であるという考えがあるからだ。

では、国産向けの備蓄施設は不要だと切り捨てられるかといえば、そんなことはないと考える。政府が現状では12%にとどまる小麦の自給率を上げることを政策目標に掲げ、需要に合った生産を推奨するのであれば、備蓄施設の整備を支援することは無視できないのではないだろうか。


県域を超えた連携


もう一つ取り上げたいのは、本連載で紹介したような地域を挙げたフード・バリュー・チェーンの構築が、全国ほかの地域でもできるかどうかについてである。ある地域では「ゆめちから」の栽培に不向きな生産環境であるかもしれないし、産地が連携できる製粉会社がすでに存在しないかもしれない。小麦のことを取材していると、製粉会社がなかったり、あったとしても小さなロットを扱わなかったりという地域は多い。

これに関しては地域を超えた連携を進めるべきである。たとえば、連載第7回で紹介したイカリファーム(滋賀県近江八幡市)の「ゆめちから」は県内だけではなく、静岡県の学校給食向けにパン用の小麦粉を提供する製粉会社にも卸されている。いまのところ静岡県で「ゆめちから」を作れる農業法人がないからだ。土地条件によっては中力粉や薄力粉向けの品種しか作れないところもあるので、こうした地域を超えた連携ができるかどうかが国産小麦を普及するうえで大事となる。

国産小麦の普及に当たってはまだまだ考察すべき点が多く残されている。例えば、品種改良や水田での作付けの可能性などだ。いずれ別の機会に扱いたい。

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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