東京都立大学らの研究チーム、斑点米の発生メカニズムを解明

東京都立大学大学院都市環境科学研究科、中央大学、農研機構東北農業研究センター、国立環境研究所らの研究チームは、イネとカメムシの成長タイミングが一致すると、斑点米の発生リスクが高まることを明らかにした。

11年間分のイネの観測データと斑点米被害データを分析


斑点米は、カメムシが吸汁した傷に細菌が入り込み、カビが繁殖することで発生するコメ特有の害虫被害。米粒の一部が茶褐色に変色してしまうのが特徴で、近年は気候変動の影響による地球温暖化等を原因に、その被害が年々拡大している。

このような状況を背景に、全国各地の生産地では、水田周辺や畦畔に生える雑草を刈り取りカメムシの侵入を防ぐなど、斑点米の発生を軽減するさまざまな対策を講じているが、被害が発生する条件のメカニズムを解明するまでには至っていなかったという。

カメムシの吸汁によって発生した斑点米。
出典:https://www.tmu.ac.jp/news/topics/34830.html

研究では、秋田県の農業関連機関協力の下、斑点米の発生面積が特に増えている東北地方に多く生息するアカスジカスミカメとアカヒゲホソミドリカスミカメの2種類のカメムシ(体長4~5ミリ程度の在来種)を対象に、2003年から2013年までの11年間分のイネの観測データと斑点米被害データを一元化して分析。

その結果、カメムシの積極的に攻撃をしかけるイネの出穂期は基本的に変わっていないことがわかった。

アカスジカスミカメ
出典:https://www.tmu.ac.jp/news/topics/34830.html

アカヒゲホソミドリカスミカメ
出典:https://www.tmu.ac.jp/news/topics/34830.html

出穂期のイネ
出典:https://www.tmu.ac.jp/news/topics/34830.html

次に、毎日の温度から対象生物ごとに設定される基準値を超えた温度の合計値で生物の成長段階を推定する有効積算温度という考え方の基、イネの観測データと同じ期間のアカスジとアカヒゲの生活史を日別の気象データを用いたシミュレーションで推定。

既往の研究で明らかになっている「アカスジは第二世代の成虫期に、アカヒゲは第三世代の幼虫期にイネを積極的に加害する」という事実を参考に、「各年のいつ、両種の攻撃期間があったか」を検証して、イネを攻撃する期間が早期化している傾向を確認した。

最後に、「イネの脆弱期間とカメムシの攻撃期間が一致した場合に斑点米の被害が発生する」という予想の基、イネの観測データと推定したカメムシの攻撃期間を組み合わせて、斑点米被害の発生との関係を調査。

その結果、アカヒゲが優占していた期間(2003年~2005年)では、イネの出穂期とアカヒゲの幼虫期間が重複していた地域で斑点米が多く発生し、アカスジが優占していた期間(2006年~2013年)では、イネの出穂期とアカスジの成虫期間が重複していた地域で斑点米が多く発生していたことが判明したという。


イネの出穂期とアカスジカスミカメ第二世代の成虫期間。(イメージ)
出典:https://www.tmu.ac.jp/news/topics/34830.html

イネの出穂期とアカヒゲホソミドリカスミカメ第三世代の幼虫期間。(イメージ)
出典:https://www.tmu.ac.jp/news/topics/34830.html

研究チームは、今回の研究成果を活用することで、斑点米の被害予測や回避に役立てていきたい考えだ。


東京都立大学大学院都市環境科学研究科、
https://www.tmu.ac.jp/academics/graduate/ues.html
中央大学
https://www.chuo-u.ac.jp/
農研機構東北農業研究センター
https://www.naro.go.jp/laboratory/tarc/index.html
国立環境研究所
https://www.nies.go.jp/
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
パックごはん定期便