農研機構、外来カミキリムシ種を迅速に特定する手法を開発 樹木の被害を最小に

農研機構は、樹木に穴をあけて寄生し、樹を弱らせるカミキリムシの幼虫が樹外に排出する「フラス(穿孔性昆虫の排泄物や木くずなどの植物組織片が混ざったもの)」に含まれる化学物質を分析することで、寄生する3種の外来カミキリムシ種を迅速に特定できることを明らかにした。

これにより、種によって適用薬剤が異なる外来カミキリムシの有効な防除対策を早期に実施できるようになり、寄生されている樹木の被害を最小に留めることが可能になる。また、周囲への被害も早期に警戒し検知できるようになるため、被害地域の拡大防止にも役立つことが期待される。

ツヤハダゴマダラカミキリの産卵痕がみられる樹木
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nipp/160173.html

樹外に排出されるフラスの化学成分に着目


近年、外来カミキリムシの被害が日本各地で相次いで報告されている。果実の大産地を抱える発生県や隣接県では、発生の検出や被害地点の拡大防止対策に取り組みはじめている。

カミキリムシ類の被害拡大防止には、早期に寄生を確認し、寄生樹の伐採や薬剤処理といった適切な対応を行うことが有効とされている。しかし、薬剤の選択には種の同定が必要不可欠で、複数の外来カミキリムシが同時多発的に発生している日本では、「この樹木にどの外来カミキリムシ種が寄生しているのか」を迅速かつ確実に検出・同定する方法の確立が求められていた。

樹内に生息する穿孔性害虫の種を判定するためには、樹を一部解体して虫を取り出し、成虫まで育て形態観察で同定するケースが一般的といわれているが、「調査樹に大きなダメージを与えること」、「最終的な特定まで時間がかかる」などの課題を抱えている。

そのため、カミキリムシの幼虫が樹内で食害すると、木くずと虫糞が混じったフラスを樹外に排出する習性を利用して、フラス内の遺伝情報を用いた同定法が開発されたが、フラスが野外で直射日光や風雨にさらされると遺伝情報物質が劣化し、検出が難しいケースが報告されてきた。

そこで農研機構は、フラスに含まれる虫や樹木に由来する複数の物質のうち、化学的に安定で昆虫の体表面に多く存在することが知られている炭化水素成分に着目し、どのようなフラスからも安定的かつ迅速にカミキリムシ種の寄生が確認できる検出法の開発に着手した。

クビアカツヤカミキリ
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nipp/160173.html

研究では、警戒すべき外来カミキリムシであるクビアカツヤカミキリ、ツヤハダゴマダラカミキリ、サビイロクワカミキリの3種および近縁の在来種ゴマダラカミキリの各幼虫を対象に、幼虫の体表およびその幼虫が排出したフラスから物質抽出し、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて分析・比較。その結果、幼虫の体表成分と同じ炭化水素成分がフラスに含まれていることが確認できたという。

カミキリムシ類成虫の体表炭化水素組成は種特異的であることが知られており、幼虫の場合も同様に種特異的な成分から構成されていることを確認。その成分と組成比を利用して、樹内に生息している外来カミキリムシ種を特定する検出法を確立した。

同一種のカミキリムシでは、樹種が異なるフラスからも同じ炭化水素成分が検出され、本検出法が寄生樹種の影響を受けないことも判明した。

また、種の特定には0.1グラム程度(耳かき1杯程度)のフラス量があれば十分で、風雨や直射日光、高温にさらされた野外のフラスでも同じ炭化水素組成が構成されることも確認し、3年前から保存していたフラスからも同様の検出結果がみられた。

農研機構は、「日本の樹木を侵略的外来種から保護できる技術として今後の幅広い活用が期待される」とコメントしている。

クビアカツヤカミキリ幼虫の体表炭化水素成分(A)とその幼虫がもも材内部から排出したフラスに含まれる炭化水素成分(B)
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nipp/160173.html


各カミキリムシ種幼虫の体表炭化水素成分
ツヤハダゴマダラカミキリ(A)、サビイロクワカミキリ(B)、ゴマダラカミキリ(C)
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nipp/160173.html


農研機構
https://www.naro.go.jp/
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
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    大槻万須美
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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