農研機構ら、農作物茎葉の資源利用を効率化する新技術を開発

農研機構は、稲わらなどの農作物茎葉を常温酸処理し、茎葉の繊維を解きほぐしやすくする新技術を開発した。

この技術により、茎葉を繊維・構造資材として利用しやすくするだけでなく、バイオ燃料等さまざまな資源として変換することが可能となる。


稲わらなど農業残渣の有効利用へ


気候変動の激化に伴い、低・脱炭素に向けた取り組みの一つとして、空気中の希薄なCO2を直接分離回収するDAC(Direct Air Capture)技術が注目されている。さまざまな産業の中でも、農林業は光合成によって大気中のCO2を回収して農作物や木材に変換するため、DAC技術とみなすことができるという。

しかし、稲わらなどの農作物茎葉は短期間で腐敗・変質してしまうことから、建材や紙などの長期使用により炭素を貯蔵する木材と比べて、低・脱炭素への貢献が限定的であり、長期的な炭素貯留を想定した利用が課題であった。

今回行われた研究では、特殊な方法で常温酸処理することで、稲わら等の茎葉を繊維または糖化原料として利用しやすくなることが見出された。

農研機構はその方法をGrAAS(Grass Upcycling by Activated Acid into the Sugar Pool:活性化酸による草から備蓄糖へのアップサイクル)プロセスと名付け、埼玉大学および東京大学大学院農学生命科学研究科と共同でこの現象の詳細な解析を行った。

GrAASプロセスを中核工程とした草本茎葉の高度利用フローの概要図

GrAASプロセスでは、活性を高めた塩酸を使い、液相または気相条件下で改質した茎葉粉末を粉砕することで、水中での分散性が高い懸濁物が得られる。この懸濁物を酵素糖化すると、対照試料の懸濁物よりも高い回収率で糖を回収することが可能になる。

この技術を用いてこれまで十分に利用されていなかった茎葉を繊維に変換すれば、紙、ボード、リグノセルロースナノファイバーなどの製造が効率化し、長期使用に適する炭素プールとして利用できるという。また、この繊維を酵素糖化して糖を回収し、それをバイオ燃料やバイオプラスチック原料などに変換することで、低・脱炭素への貢献が可能になる。

さらに、「長期使用後に糖が回収できる」という特性をもつ茎葉由来の新素材は、備蓄糖として長期貯留することが可能で、燃料や飼料、食料などに変換できる。いまのところ茎葉は非可食資源とされているが、GrAASプロセスにより得られる繊維は糖化性が向上したため、可食化可能な資源としての潜在的価値も向上しているという。

農研機構は、世界で約24億トン生産される穀物茎葉を備蓄性の炭水化物として利用し、さらに多様な栄養を発酵生産するための糖源として活用できれば、茎葉は強靱な「食料供給余力」と見なすことが可能になるとしている。

今後は、GrAASプロセスの試験規模拡大、試作用試料提供、資材特性評価等を経て小規模製造技術実証を行い、技術の早期の社会実装を目指していくとのこと。


農研機構
https://www.naro.go.jp/index.html
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
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    北島芙有子
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    川島礼二郎
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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