農研機構、グルタミン酸が土壌病害の防除に有効な植物保護細菌の機能を高めると発表
農研機構は、アミノ酸の一種で環境負荷が少ないグルタミン酸を用いて、きゅうり等の重要土壌病害の防除に有効な病害抑制の機能を持つ植物保護細菌の機能を高める技術を開発した。
本成果を活用することで、新たな環境負荷の少ない病害防除法の開発が可能となり、土壌消毒用の化学農薬の使用量低減につながることが期待される。
農作物の病害は、カビやその他の病原微生物が原因で引き起こされ、農業生産における経済的損失に大きな影響を及ぼしている。特に、土壌病害は病害全体の約6割を占めていて、人間の目が行き届かない地中に蔓延するため防除が困難とされている。
これまで、土壌病害の防除には主に化学農薬が使用されてきたが、環境への負荷や薬剤耐性菌の出現などの問題が指摘されていた。一方で、自然界に存在する微生物を活用した微生物資材が注目されているものの、その効果は化学農薬に比べて劣り、コストが高くなるという課題もある。
このような背景から、農研機構は土壌病害防除に有効とされる植物保護細菌(非病原性シュードモナス属細菌)を用いた病害防除法の開発に取り組んできた。しかし、この植物保護細菌は生きたまま使用するため、その効果が安定しない問題があるという。
そこで、主要な野菜であるきゅうりの幼苗を用いて、重要土壌病害の病原菌の一つであるピシウム病菌(Pythium ultimum)に対する植物保護細菌の効果検証を行った。また、その機能を安定化させるためとして、環境負荷が低いアミノ酸を一緒に添加する方法を試み、病害防除効果を評価した。
通常、ピシウム病菌が蔓延した土壌では、きゅうりの幼苗は大きくなることはできない。ピシウム病菌を蔓延させた土壌に植物保護細菌を水に溶かして加え、きゅうりの幼苗を2週間栽培した。
その結果、きゅうりの生育状況に回復が認められ、植物保護細菌を添加することでピシウム病害を抑えられることが確認された。
さらに、各種アミノ酸を植物保護細菌とともに添加して試験を行った結果、グルタミン酸の添加により、ピシウム病害の抑制効果が顕著に高まり、きゅうり幼苗の植物重量が2倍に増加した。
この効果はグルタミン酸を単独で使用した場合には見られないことから、植物保護細菌との併用効果であるといえ、グルタミン酸は植物保護細菌の効果を特異的に高めることが明らかになった。
また、苗を温室で1カ月間栽培しても、植物保護細菌とグルタミン酸の効果が持続することが確認され、ピシウム病害に対する幼苗期の防除が重要であることが再確認された。
ピシウム病菌が存在する土壌での生存率が無添加の場合15%であるのに対し、植物保護細菌とグルタミン酸を添加した場合は60%に上昇し、その後の生育も順調であったことから、この手法がピシウム病害の有効な防除策であることが示された。
今回の検証はきゅうりの幼苗で行われたが、植物保護細菌は広範な病害に効果を示すことから、他の病害に応用することも見込める。
農研機構は、同技術の対象となる病害と添加時期を適切に見極めることで、これまで土壌中での効果が不安定とされていた微生物資材の機能の維持・向上を図れるとしている。
なお、本成果は、科学雑誌「Molecular Plant-Microbe Interactions」(2023年7月28日)にて発表された。
論文情報
Glutamate positively regulates chitinase activity and the biocontrol efficacy of Pseudomonas protegens.
Kasumi Takeuchi, Masayo Ogiso, Tomohiro Morohoshi, Shigemi Seo Molecular Plant-Microbe Interactions 2023 Jun;36(6):323-333. doi: 10.1094/MPMI-09-22-0178-R. Epub 2023 Jul 28.
農研機構
https://www.naro.go.jp/index.html
本成果を活用することで、新たな環境負荷の少ない病害防除法の開発が可能となり、土壌消毒用の化学農薬の使用量低減につながることが期待される。
化学農薬の使用量低減に期待
農作物の病害は、カビやその他の病原微生物が原因で引き起こされ、農業生産における経済的損失に大きな影響を及ぼしている。特に、土壌病害は病害全体の約6割を占めていて、人間の目が行き届かない地中に蔓延するため防除が困難とされている。
これまで、土壌病害の防除には主に化学農薬が使用されてきたが、環境への負荷や薬剤耐性菌の出現などの問題が指摘されていた。一方で、自然界に存在する微生物を活用した微生物資材が注目されているものの、その効果は化学農薬に比べて劣り、コストが高くなるという課題もある。
このような背景から、農研機構は土壌病害防除に有効とされる植物保護細菌(非病原性シュードモナス属細菌)を用いた病害防除法の開発に取り組んできた。しかし、この植物保護細菌は生きたまま使用するため、その効果が安定しない問題があるという。
そこで、主要な野菜であるきゅうりの幼苗を用いて、重要土壌病害の病原菌の一つであるピシウム病菌(Pythium ultimum)に対する植物保護細菌の効果検証を行った。また、その機能を安定化させるためとして、環境負荷が低いアミノ酸を一緒に添加する方法を試み、病害防除効果を評価した。
通常、ピシウム病菌が蔓延した土壌では、きゅうりの幼苗は大きくなることはできない。ピシウム病菌を蔓延させた土壌に植物保護細菌を水に溶かして加え、きゅうりの幼苗を2週間栽培した。
その結果、きゅうりの生育状況に回復が認められ、植物保護細菌を添加することでピシウム病害を抑えられることが確認された。
さらに、各種アミノ酸を植物保護細菌とともに添加して試験を行った結果、グルタミン酸の添加により、ピシウム病害の抑制効果が顕著に高まり、きゅうり幼苗の植物重量が2倍に増加した。
この効果はグルタミン酸を単独で使用した場合には見られないことから、植物保護細菌との併用効果であるといえ、グルタミン酸は植物保護細菌の効果を特異的に高めることが明らかになった。
また、苗を温室で1カ月間栽培しても、植物保護細菌とグルタミン酸の効果が持続することが確認され、ピシウム病害に対する幼苗期の防除が重要であることが再確認された。
ピシウム病菌が存在する土壌での生存率が無添加の場合15%であるのに対し、植物保護細菌とグルタミン酸を添加した場合は60%に上昇し、その後の生育も順調であったことから、この手法がピシウム病害の有効な防除策であることが示された。
今回の検証はきゅうりの幼苗で行われたが、植物保護細菌は広範な病害に効果を示すことから、他の病害に応用することも見込める。
農研機構は、同技術の対象となる病害と添加時期を適切に見極めることで、これまで土壌中での効果が不安定とされていた微生物資材の機能の維持・向上を図れるとしている。
なお、本成果は、科学雑誌「Molecular Plant-Microbe Interactions」(2023年7月28日)にて発表された。
論文情報
Glutamate positively regulates chitinase activity and the biocontrol efficacy of Pseudomonas protegens.
Kasumi Takeuchi, Masayo Ogiso, Tomohiro Morohoshi, Shigemi Seo Molecular Plant-Microbe Interactions 2023 Jun;36(6):323-333. doi: 10.1094/MPMI-09-22-0178-R. Epub 2023 Jul 28.
農研機構
https://www.naro.go.jp/index.html
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