農研機構、グルタミン酸が土壌病害の防除に有効な植物保護細菌の機能を高めると発表

農研機構は、アミノ酸の一種で環境負荷が少ないグルタミン酸を用いて、きゅうり等の重要土壌病害の防除に有効な病害抑制の機能を持つ植物保護細菌の機能を高める技術を開発した。

本成果を活用することで、新たな環境負荷の少ない病害防除法の開発が可能となり、土壌消毒用の化学農薬の使用量低減につながることが期待される。

出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nias/161836.html

化学農薬の使用量低減に期待


農作物の病害は、カビやその他の病原微生物が原因で引き起こされ、農業生産における経済的損失に大きな影響を及ぼしている。特に、土壌病害は病害全体の約6割を占めていて、人間の目が行き届かない地中に蔓延するため防除が困難とされている。

これまで、土壌病害の防除には主に化学農薬が使用されてきたが、環境への負荷や薬剤耐性菌の出現などの問題が指摘されていた。一方で、自然界に存在する微生物を活用した微生物資材が注目されているものの、その効果は化学農薬に比べて劣り、コストが高くなるという課題もある。

このような背景から、農研機構は土壌病害防除に有効とされる植物保護細菌(非病原性シュードモナス属細菌)を用いた病害防除法の開発に取り組んできた。しかし、この植物保護細菌は生きたまま使用するため、その効果が安定しない問題があるという。

そこで、主要な野菜であるきゅうりの幼苗を用いて、重要土壌病害の病原菌の一つであるピシウム病菌(Pythium ultimum)に対する植物保護細菌の効果検証を行った。また、その機能を安定化させるためとして、環境負荷が低いアミノ酸を一緒に添加する方法を試み、病害防除効果を評価した。

通常、ピシウム病菌が蔓延した土壌では、きゅうりの幼苗は大きくなることはできない。ピシウム病菌を蔓延させた土壌に植物保護細菌を水に溶かして加え、きゅうりの幼苗を2週間栽培した。

その結果、きゅうりの生育状況に回復が認められ、植物保護細菌を添加することでピシウム病害を抑えられることが確認された。

さらに、各種アミノ酸を植物保護細菌とともに添加して試験を行った結果、グルタミン酸の添加により、ピシウム病害の抑制効果が顕著に高まり、きゅうり幼苗の植物重量が2倍に増加した。

この効果はグルタミン酸を単独で使用した場合には見られないことから、植物保護細菌との併用効果であるといえ、グルタミン酸は植物保護細菌の効果を特異的に高めることが明らかになった。

出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nias/161836.html

また、苗を温室で1カ月間栽培しても、植物保護細菌とグルタミン酸の効果が持続することが確認され、ピシウム病害に対する幼苗期の防除が重要であることが再確認された。

ピシウム病菌が存在する土壌での生存率が無添加の場合15%であるのに対し、植物保護細菌とグルタミン酸を添加した場合は60%に上昇し、その後の生育も順調であったことから、この手法がピシウム病害の有効な防除策であることが示された。

今回の検証はきゅうりの幼苗で行われたが、植物保護細菌は広範な病害に効果を示すことから、他の病害に応用することも見込める。

農研機構は、同技術の対象となる病害と添加時期を適切に見極めることで、これまで土壌中での効果が不安定とされていた微生物資材の機能の維持・向上を図れるとしている。

なお、本成果は、科学雑誌「Molecular Plant-Microbe Interactions」(2023年7月28日)にて発表された。

論文情報
Glutamate positively regulates chitinase activity and the biocontrol efficacy of Pseudomonas protegens.
Kasumi Takeuchi, Masayo Ogiso, Tomohiro Morohoshi, Shigemi Seo Molecular Plant-Microbe Interactions 2023 Jun;36(6):323-333. doi: 10.1094/MPMI-09-22-0178-R. Epub 2023 Jul 28.


農研機構
https://www.naro.go.jp/index.html
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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