種苗法改正は改悪か、農家と消費者の視点から考える【種苗法改正を考える緊急連載 第1回】

「#種苗法改悪に反対します」
「#種苗法改正案に抗議します」

今、ネット上に国会に提出された種苗法改正がらみのハッシュタグがあふれている。

しかし、そんな反対運動の盛り上がりに反し、改正案の内容は極めて実務的なものに思える。

消費者からの批判には、改正案を踏まえない感情的なものが多いし、報道も事実を曲解したものが少なくない。育成者の権利を守るという視点も、往々にして欠落している。

そこで、まもなく審議が始まる種苗法改正を連載で解説する。なお、本稿は種苗法改正への賛否を表明するものではない。



改正は種苗の流出防止の一手段

「種苗法改正に反対される方々が守りたいと考えている方々に、一番メリットがある法改正だと自負しているんですが」

5月中旬、農林水産省知的財産課の職員は、こう言葉を絞り出した。ゴールデンウィーク明けにも審議入りと報じられた種苗法改正案をめぐり、相当な問い合わせが来ているようだ。疲れ切った様子が電話口から伝わってくる。

「種苗法改悪反対」は、「日本の農家を守れ」「農業を守れ」というスローガンとセットで叫ばれる。ところが、農水省からすると、この改正案は日本の農家と農業を守るために作ったものだ。産地振興のための育種に熱心な地方公共団体と、個人育種家の権利保護が主目的。登録品種の海外や産地外への流出を防止し、育成者の権利を高め、より優れた品種の開発を促そうとしている。


育成者の権利保護に力点

種苗法は、「品種の育成者の権利保護」に力点を置く。

新品種を開発するには膨大な時間と労力、そして費用を要する。ひとつの品種が誕生するまでに5年、10年かかるのはざらだ。

ところが、種苗というのは、やろうと思えば誰でも簡単に自家増殖ができるものが少なくない。

例えばイチゴは株から伸び出すランナーと呼ばれる茎から、新たな株ができる。ばれいしょは、収穫物の一部を次の年の種芋にすることができる。

農業において育成者の権利、つまり育成者権の侵害は簡単に起こり得るのだ。そこで、種苗法は改正を重ねるごとに育成者権の保護を強化してきた。

なお、この育成者権の保護を、モンサントを吸収したバイエルのような海外企業の育成者権の保護につながり、遺伝子組み換え農産物で日本の食卓が占領されると、想像力豊かに読み解く人がいる。

その実、日本の種苗会社は世界に伍せる力量を持っている。株式会社サカタのタネとタキイ種苗株式会社は、野菜種子のシェアが世界的に高く、世界の種苗会社の売上高ランキングでトップ10に入っているのだ。日本の品種改良のレベルは極めて高い。

加えて、国際的な種苗会社が注力するのはF1種の普及だ。F1種の別名は「雑種第一代」。異なる親を掛け合わせ、それぞれの親の優れた特徴を発揮するもので、後述するように自家採種が難しい。

モンサントの遺伝子組み換え大豆はもともと自家採種できたが、のちにF1種になった。自家採種できると、育成者としての利益をとり漏らす可能性があるので、当然の流れだろう。つまり、種苗法改正により育成者権を保護しようとする分野は、そもそもバイエルといった海外企業の主戦場からずれている(詳しくは次回以降に解説する)。

一般品種と登録品種

改正反対の声の中で、自家採種や自家増殖が一律にできなくなるという勘違いがあるが、これは明確に誤りだ。

自家消費用、つまり家族や親戚で食べる用途や数量であれば、自家採種、自家増殖は全く問題ない。加えて、商業目的で生産する場合も、多くは改正の影響を受けないのだ。

今回の改正案を理解するうえで、禁じられていない「一般品種」とあらためて禁じられた「登録品種」の違いを理解することは必須の工程だ。ここがわかっていないと、議論の土台にすら立てない。

種苗法に基づき、育成者が種苗を品種登録したものを「登録品種」と呼ぶ。「一般品種」は(1)在来種、(2)品種登録されたことがない品種、(3)品種登録期間が切れた品種――の3つを指す。

国内で栽培される農産物は圧倒的に一般品種が多く、コメで84%、みかんで98%、ばいれしょで90%、野菜で91%といった具合だ。登録品種は販売される種苗の1割程度とされる。

引用:種苗法の一部を改正する法律案について:農林水産省

一般品種の具体例は上の表を参考にしてもらいたい。コシヒカリ、ひとめぼれ、リンゴのふじ、トマトの桃太郎など、馴染みのある名前が並ぶ。一般品種の利用は、改正があろうとなかろうと、変わらない。つまり、農家が自家採種したり、自家増殖したりできる。したがって、在来種の自家採種や自家増殖ができなくなったりはしない。


登録品種は農家の自家増殖にも育成者権が及ぶことに


今回の改正が影響するのは、「登録品種」だ。ゆめぴりかやつや姫、サツマイモの紅はるか、シャインマスカット、イチゴのあまおうなどが該当する。これらについて、これまでは農家の権利として、自家採種や自家増殖ができたが、改正されると、こうした行為に育成者の許諾が必要になる。

自家増殖を禁ずる主な理由は、海外への種苗の流出が相次いだからだ。現行法では、販売された種苗の海外への持ち出しを禁ずることができない。農家が自家増殖し、それを海外に持ち出すと現行法でも違法だ。しかし、そもそも自家増殖の実態を把握しないので、持ち出しを規制しようがないところがある。

ちなみに、自家増殖に育成者の許諾を要するものはこれまでにもすでにあった。「登録品種の自家増殖に育成者権の効力が及ぶ植物」で、具体的には、キュウリ、スイカ、トマトなど。いずれも、栄養繁殖(根、茎、葉などから次の世代が生まれること)する植物だ。農水省はその対象を徐々に増やしてきた。

改正反対を掲げる人の中に、この対象が今後増えるに違いないと主張する向きもある。ただ、改正案が通れば、そもそもすべての自家増殖に許諾が必要になるのだ。つまり、この「登録品種の自家増殖に育成者権の効力が及ぶ植物」の規定はそもそも廃止になる可能性が高い。


登録品種の自家採種はそもそもメジャーではない

改正案は一般には「自家採種の原則禁止」だとして騒がれている。ただ、「登録品種」の自家採種はそもそも難しい。なぜなら、ほとんどがF1種だからだ。

これは、雑種強勢を利用したもので、2つの異なる親の優れた形質を発揮する。固定種に比べ、生育や形状がそろいやすく、病気に強い性質を持つものが多い。F1は「雑種第一代」という呼び方が示すように、その種をとって繁殖させても、初代ほど優れた形質が均一には現れない。

固定種とF1種については、「『固定種』は安全、『F1種』は危険、はホント? 種子の多様性を知ろう」で解説してあるので、詳細はそちらを参照してほしい。

そのため、たとえ種が採れる登録品種であっても、実際に採種する農家は少ないと見られる。手間がかかる上に、本来の品質からのズレが起きやすいからだ。

たとえば、コメだと種もみの更新率(毎年新たに購入する割合)は9割に達する。一般品種も含めての話なので、登録品種の更新率はより高いと推測される。農家にとって種もみは基本的に毎年買うものだ。

効率的な生産を目指す農家ほど、育苗のアウトソーシングをする傾向がある。これは、農業そのものの市場がしぼみつつあるにもかかわらず、野菜の購入苗(育てずに買ってくる苗)の市場がまだ伸びているとされることからも明らかだ。

改正が影響するとしたら、それは主に自家増殖の部分になることは間違いない。ただし、影響範囲はかなり限られそうだ。では、具体的な産地への影響はどうなっていくのか、外国企業が在来種を勝手に品種登録するという主張についても検証したい。


種苗法の一部を改正する法律案について:農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/shubyoho.html

【連載】種苗法改正を考える
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  1. 松橋充悟
    松橋充悟(まつはし じゅうご)北海道十勝在住。高校卒業後にJAに入組。農業に触れていく中で、生産者の求めていることと『スマート農業』の取り組みに乖離を感じ、自分が農薬散布のドローンを活用した防除のプロセスモデルを作れればと思い、転職して農薬散布のドローンを始めました。現場の声を聴きながら協力していただき、ドローンの可能性を広げていきたいと思います。趣味は音楽。
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    料理家・フードコーディネーター・食育指導士・米粉マイスター 。 広告・雑誌・webなどの料理制作&スタイリング、企業へのレシピ提供、商品開発、メニュープランニングなどを手がける傍ら、自宅にて料理教室を主宰。
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    川島礼二郎(かわしまれいじろう)。1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    農学系の兼業ライター。某大学農学部、某農業レストラン、某飲料会社商品企画を経て、現在は某マルシェアプリでwebマガジン編集として働きながら、猫様のお世話をしている。