オリジナルブランドを作る際に必要な「知的財産権」の知識は?【連載・農家が知っておきたい「知的財産」のハナシ vol.4】
本連載「農家が知っておきたい知的財産のハナシ」では、農業分野に携わる方々がこれからの時代に自分たちの「権利」を守り、生かすために身につけておきたい知的財産に関する知識を、各分野を専門とする弁護士の方々に解説していただきます。
前回は、複数の生産者がいる場合の知的財産権の考え方について紹介いただきました。今回は、松田法律特許事務所の松田光代先生にブランド野菜などオリジナルブランドを作る際に必要な知的財産の知識として、商標権や育成者権について教えていただきます。
知的財産権はオリジナルブランドを展開する場合に必須ですが、知的財産権を取得するだけでオリジナルブランドが確立するわけではありません。生産者のみなさんが、自らの商品の強みをきちんと理解し、商品に対するコンセプトを共有し、目的に沿った知的財産権を取得していくことがとても大切になります。
ブランド展開に必須の権利として「商標権」があります。商標権は特許庁に出願して得ることのできる知的財産権であり、権利期間は設定登録の日から10年ですが、更新登録により半永久的に権利を存続させることができます。
商標とは「事業者が使用するマーク」であり、かつ「自己の商品・サービスと他人の商品・サービスとを区別するために使用するマーク」のことです。商標権は、このマークを使用する商品・サービスを指定して登録します。
商標には「商品名」などの文字の商標やロゴマークなどの図形や記号の商標のほか、立体商標や音の商標などさまざまな種類があります。商標権を取得することによって、独占的にその商標を指定商品・指定サービスについて使用することができます。
また、侵害者に対して差止請求や損害賠償請求や信用回復措置請求などの民事上の請求をすることができるとともに、刑事責任を追及することができます。
なお、商標権登録の要件として識別力を有することが必要です。したがって、商品やサービスの普通名称(「アルミニウム」に商標「アルミ」)や慣用商標(清酒に商標「正宗」)、産地・品質・効能・用途等の表示(「りんご」に商標「青森りんご」)など、自他商品識別力のない商標は登録することができません。
ただし、地域団体商標として取得する場合には,「加賀野菜」(商標登録第5078472号)、「米沢牛」(商標登録第5029824号)など、「地域の名称」と「商品名」等の組み合わせの文字の商標を取得することができます。
植物の新品種の場合には、種苗法に定める育成者権を得て、登録品種の種苗、収穫物、加工品の販売等を独占することができます。育成者権の権利の存続期間は品種登録の日から25年(永年性植物は30年)となっており、育成者権を有する者は侵害者に対して、民事上の請求のほか、刑事責任を追及することもできます。
育成者権を得るにあたり注意が必要なのは、ブランド名を品種名と同一にしないことです。品種名で登録した名称と同一の名称で商標権を取得することはできません。育成者権の権利が消滅した後もブランドとしての価値を保っていくためには、ブランド名を品種登録することは避ける必要があります。
ちなみに、種苗法が改正されたことで、農業における知的財産権の扱いも変更点があります。
2021年(令和3年)4月1日から施行された主な改正点
2022年(令和4年)4月1日施行の主な改正点
特に、2021年4月1日から施行の「1.輸出先国の指定」については、経過措置として施行日から6カ月間(2021年9月末まで)に限り、既存の登録品種および出願中の品種についても輸出の行為に係る制限の届け出を受け付けることになっていますので、注意が必要です。
このほか、オリジナルブランドを支える知的財産権として「地理的表示」(GI)があります。GIは地域団体商標と重ねて申請も可能です。
GI登録により、産地と結びついた品質について国のお墨付きが得られ、GIの不正使用は国が取り締まってくれるなどのメリットがある一方で、地域共有の財産となるために独占排他的な使用ができなくなったり、生産工程管理業務が義務付けられるなどの点に留意する必要があります。
地理的表示(GI)について詳しくは連載第3回をご覧ください。
複数の生産者による「知的財産権」の取得は可能か?【連載・農家が知っておきたい「知的財産」のハナシ vol.3】
今回ご紹介したいずれの知的財産権も、出願等の手続きをとることにより海外における権利保護も可能になります。また、取得した知的財産権を第三者に許諾契約することにより、オリジナルブランド展開を容易にすることもできます。
自分たちの商品をオリジナルブランドとして展開するには、どのような知的財産権を取得していけばよいのか検討してみてください。
初めてだったらここを読む~商標出願のいろは~ 特許庁
https://www.jpo.go.jp/system/basic/trademark/index.html
種苗法の改正について 農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/shubyoho.html
地理的表示(GI)保護制度 農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/
今回の講師:松田光代(松田法律特許事務所)
弁護士・弁理士。石川県金沢市において法律特許事務所を経営。北陸を中心に農林水産知財をはじめ特許・意匠・商標・著作権・不正競争防止法の相談や交渉・争訟案件を担当。金沢大学非常勤講師(知的財産法)。
前回は、複数の生産者がいる場合の知的財産権の考え方について紹介いただきました。今回は、松田法律特許事務所の松田光代先生にブランド野菜などオリジナルブランドを作る際に必要な知的財産の知識として、商標権や育成者権について教えていただきます。
オリジナルブランドと知的財産権との関係
知的財産権はオリジナルブランドを展開する場合に必須ですが、知的財産権を取得するだけでオリジナルブランドが確立するわけではありません。生産者のみなさんが、自らの商品の強みをきちんと理解し、商品に対するコンセプトを共有し、目的に沿った知的財産権を取得していくことがとても大切になります。
「商標権」の活用
ブランド展開に必須の権利として「商標権」があります。商標権は特許庁に出願して得ることのできる知的財産権であり、権利期間は設定登録の日から10年ですが、更新登録により半永久的に権利を存続させることができます。
商標とは「事業者が使用するマーク」であり、かつ「自己の商品・サービスと他人の商品・サービスとを区別するために使用するマーク」のことです。商標権は、このマークを使用する商品・サービスを指定して登録します。
商標には「商品名」などの文字の商標やロゴマークなどの図形や記号の商標のほか、立体商標や音の商標などさまざまな種類があります。商標権を取得することによって、独占的にその商標を指定商品・指定サービスについて使用することができます。
また、侵害者に対して差止請求や損害賠償請求や信用回復措置請求などの民事上の請求をすることができるとともに、刑事責任を追及することができます。
「商標権」の登録時に大切な「識別力」とは?
なお、商標権登録の要件として識別力を有することが必要です。したがって、商品やサービスの普通名称(「アルミニウム」に商標「アルミ」)や慣用商標(清酒に商標「正宗」)、産地・品質・効能・用途等の表示(「りんご」に商標「青森りんご」)など、自他商品識別力のない商標は登録することができません。
ただし、地域団体商標として取得する場合には,「加賀野菜」(商標登録第5078472号)、「米沢牛」(商標登録第5029824号)など、「地域の名称」と「商品名」等の組み合わせの文字の商標を取得することができます。
「育成者権」で植物新品種を活用する
植物の新品種の場合には、種苗法に定める育成者権を得て、登録品種の種苗、収穫物、加工品の販売等を独占することができます。育成者権の権利の存続期間は品種登録の日から25年(永年性植物は30年)となっており、育成者権を有する者は侵害者に対して、民事上の請求のほか、刑事責任を追及することもできます。
育成者権を得るにあたり注意が必要なのは、ブランド名を品種名と同一にしないことです。品種名で登録した名称と同一の名称で商標権を取得することはできません。育成者権の権利が消滅した後もブランドとしての価値を保っていくためには、ブランド名を品種登録することは避ける必要があります。
種苗法改正と「知的財産権」の関係
ちなみに、種苗法が改正されたことで、農業における知的財産権の扱いも変更点があります。
2021年(令和3年)4月1日から施行された主な改正点
- 輸出先国の指定(海外持ち出し制限)
- 国内の栽培地域指定(指定地域外の栽培の制限)
- 登録品種の表示の義務化
- 職務育成規定の見直し
- 指定種苗の販売時の表示の在り方の明確化
2022年(令和4年)4月1日施行の主な改正点
- 登録品種の増殖は許諾に基づき行う
- 育成者権を活用しやすくするための措置(特性表の活用・訂正制度の導入・判定制度の創設)
特に、2021年4月1日から施行の「1.輸出先国の指定」については、経過措置として施行日から6カ月間(2021年9月末まで)に限り、既存の登録品種および出願中の品種についても輸出の行為に係る制限の届け出を受け付けることになっていますので、注意が必要です。
「地理的表示」(GI)の活用
このほか、オリジナルブランドを支える知的財産権として「地理的表示」(GI)があります。GIは地域団体商標と重ねて申請も可能です。
GI登録により、産地と結びついた品質について国のお墨付きが得られ、GIの不正使用は国が取り締まってくれるなどのメリットがある一方で、地域共有の財産となるために独占排他的な使用ができなくなったり、生産工程管理業務が義務付けられるなどの点に留意する必要があります。
地理的表示(GI)について詳しくは連載第3回をご覧ください。
複数の生産者による「知的財産権」の取得は可能か?【連載・農家が知っておきたい「知的財産」のハナシ vol.3】
まとめ
今回ご紹介したいずれの知的財産権も、出願等の手続きをとることにより海外における権利保護も可能になります。また、取得した知的財産権を第三者に許諾契約することにより、オリジナルブランド展開を容易にすることもできます。
自分たちの商品をオリジナルブランドとして展開するには、どのような知的財産権を取得していけばよいのか検討してみてください。
初めてだったらここを読む~商標出願のいろは~ 特許庁
https://www.jpo.go.jp/system/basic/trademark/index.html
種苗法の改正について 農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/shubyoho.html
地理的表示(GI)保護制度 農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/
今回の講師:松田光代(松田法律特許事務所)
弁護士・弁理士。石川県金沢市において法律特許事務所を経営。北陸を中心に農林水産知財をはじめ特許・意匠・商標・著作権・不正競争防止法の相談や交渉・争訟案件を担当。金沢大学非常勤講師(知的財産法)。
【連載】農家が知っておきたい「知的財産」のハナシ
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