マルチ作業は何時間減らせる? 機械・生分解性マルチの費用対効果を考える

畑の畝をビニールなどのマルチシートで覆う「マルチ作業」の省力化では、「作業時間を○%削減」という数字だけでは、機械や資材の導入費に見合う効果が得られるかは判断できません。収穫後の作業だけでも、残渣除去、剥ぎ取り、巻き取り、土落とし、運搬・処分と複数の工程があり、次作では畝立てやマルチ展張も必要になります。

まずは工程ごとの作業人数と時間を記録し、10a当たりで整理してみましょう。回収に時間がかかっているのか、次作の敷設が負担なのかが見えやすくなります。

国の実証では、マルチの機械そのものの作業スピードを速くするだけでなく、準備作業をなくしたり、複数工程を一度に行ったりすることで労働時間を減らした例もあります。見るべきなのは、どの工程がなくなり、年間で何時間・何円減らせるのかという点です。



省力化率を見るときは「なくなった工程」を確認する


農林水産省によると、茨城県八千代町では、自動操舵システムを搭載したトラクターによるマルチ展張の実証が行われました。

従来は、マルチをまっすぐ張るための印付けを2人が30分かけて行い、その後、1人がトラクターで70分かけてマルチを展張していました。10a当たりの延べ作業時間は、印付けの60分と展張の70分を合わせて130分です。

この実証では、自動操舵によってトラクターを直進させられるため、事前の印付けが不要に。マルチ展張そのものにかかる70分は変わらなかったものの、印付けの60分がなくなり、延べ作業時間は130分から70分へ減少。46%の削減となっています。

ここから読み取れるのは、 機械そのものの作業速度だけでなく、前後の工程をどこまで減らせるかを見る必要があるということです。

マルチ作業の省力化には、八千代町のように「事前の印付けをなくす」方法だけでなく、複数の作業を一度に行う方法もあります。その代表例が、畝立てとマルチ張りを一連の作業で行う「マルチャー」(マルチ敷設機)です。トラクターや管理機に装着するタイプがあり、畝を作った後に別途マルチを張る工程をまとめられます。

さらに、作業を一体化した例もあります。農林水産省が早生エダマメの事例で紹介している「アップカット畝立マルチ播種機」は、耕うん・畝立て・マルチ展張・播種までを一工程で行うものです。投下労働量は10aあたり19.5人・hから9.1人・hへ減り、作業人数も6人から3人に。投下労働量では53%の削減となりました。

このように、マルチャーや複合作業機を比べる際は、「何a/時で作業できるか」だけを見るのではなく、何工程をまとめられるのか、何人分の作業を減らせるのかまで確認すると、導入効果をつかみやすくなります。


生分解性マルチは“回収にかかる時間”をいくらで減らせるか


土壌にすき込むことで自然に分解される「生分解性マルチ」も、資材単価だけで費用対効果を判断するのは早計です。

関東農政局が茨城県結城市のかんしょ栽培の事例で紹介している試算では、通常のポリマルチの場合、10aあたりマルチ剥がしに250分、回収・運搬に60分かかっていました。これに生分解性マルチを使用すると、収穫後に土壌へすき込めるため、これらの剥がし・回収作業が不要になります。削減できる作業時間は合計310分、5時間10分です。

費用面では、この事例で10aあたりのマルチ購入費を、通常のポリマルチ6,000円、生分解性マルチ2万2,000円として試算しています。資材費は1万6,000円増える一方、310分の作業時間を労働時間単価1,500円で換算した労賃7,750円と、処分費2,900円、合わせて1万650円を減らせます。差し引きすると、10aあたり5,350円の経費増です。

見方を変えれば、10a当たり5,350円を追加で負担することで、剥がし・回収・運搬に充てていた5時間10分を削減できるということです。追加負担を削減時間で割ると、1時間当たり約1,040円になります。

この時間を収穫、調製、出荷、次作準備などに振り向けられる農場なら、直接経費が増えても、繁忙期の作業配分を見直せる余地があります。

反対に、片付け時期に人手の余裕があり、回収・処分の負担も小さい場合は、通常のポリマルチを使い続ける方が経済的なこともあるでしょう。

生分解性マルチを見るときは、「資材が高いか」だけでなく、増える資材費と、減らせる労働費・処分費、さらに確保した時間を何に使えるかまで含めて比べることが判断材料になります。

※ポリマルチ6,000円、生分解性マルチ2万2,000円は1巻当たりの価格ではなく、この事例における10a当たりの試算額です。資料には使用した長さや巻数までは示されていません。
(イラスト:SMART AGRI編集部、作成:ChatGPT)

「買う・借りる・頼む」は、年間使用量と圃場適合で決める


回収機やマルチャーの購入を考える際には、まず10a当たりで何時間の作業を減らせるかを出し、その効果を年間の使用面積に広げて考えます。

導入前後の作業時間と自分の農場の労働単価から、10a当たりの労働費削減額を算出。そのうえで、

機械の年間負担額 ÷ 10a当たりの削減額

を計算すれば、年間でどの程度使えば費用に見合うのかを試算できます。

ここで見るのは、農場全体の経営面積ではなく、その機械を年間で実際に何ha分使うかです。例えば1haの圃場で年2回使うなら、年間延べ使用面積は2haとして考えます。

年間使用面積に加えて、圃場条件も見ておく必要があります。区画の大きさや形、傾斜などによって、機械の使いやすさは変わります。機械価格だけでなく、自分の圃場や作業体系に合うかまで見ておきたいところです。

中古機も、購入額だけで新品と比べるのは不十分です。安全装備や機械の状態に加え、導入後の修繕費、消耗部品の交換、補修部品を確保できるかまで含めて考えます。

年間の使用量が少なければ、購入以外に共同利用や作業委託という選択肢もあります。農作業の受託や農業機械のシェアリングも、農業支援サービスの一つです。

購入なら機械にかかる年間費用と自社の作業費、共同利用なら利用料や運搬費、作業委託なら委託料と自社に残る作業を整理します。同じ面積当たりの費用と、年間で何時間の労働を減らせるかをそろえて比べると、「買う・借りる・頼む」の違いが見えやすくなります。

(イラスト:SMART AGRI編集部、作成:ChatGPT)

「何を買うか」より、年間で何時間空けられるか


マルチ作業の省力化では、「46%削減」「53%削減」という数字だけを見るのではなく、何の工程がなくなった結果として削減できたのかを確認することが大切です。

準備作業を省く技術、畝立てとマルチ張りをまとめるマルチャー、複数工程を一体化する作業機、回収そのものを減らす生分解性マルチでは、それぞれ省ける仕事が異なります。

さらに、機械なら年間延べ使用面積と圃場への適合、中古なら修繕を含む所有コスト、共同利用や委託なら自社に残る作業まで比較したいところです。

生分解性マルチのように直接経費が増えても、繁忙期に約5時間を確保できる方法もあります。年間で何時間空き、その時間を収穫・出荷・次作準備のどこへ振り向けられるのか。 そこまで考えれば、マルチ作業の省力化を単なる機械選びではなく、経営投資として判断しやすくなるでしょう。


参考資料
農林水産省「自動操舵システム導入による、労働時間削減と化学肥料使用量削減」
農林水産省「アップカット畝立マルチ播種機による早生エダマメの省力的播種技術」
関東農政局「かんしょ栽培における生分解性マルチの取組」
農林水産省「農業支援サービス関係情報」


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。