リンゴの知的財産権を守る「クラブ制」は日本でも根付くか 〜世界のリンゴ事情


日本から世界に通じる「クラブ制リンゴ」を

日本は「ふじ」の生みの親でありながら、品種を知的財産として世界に送り込むクラブ制の波に乗り遅れてしまった感は否めないが、クラブ制リンゴの流れは、日本にも波及している。

2007年、長野県はイタリア南チロル地方の果実生産者団体(VOGとVI.P)に、「シナノゴールド」の栽培許諾を与え、試験栽培が始まった。南チロルはヨーロッパ屈指のリンゴの大産地でもある。そして2016年3月、両者は大規模商業栽培段階のライセンス契約を結んだ(2030年12月まで)。

そこで栽培される「シナノゴールド」の商標は「yello®」。yellow(黄色)+hello(ハロー)を意味している。日本生まれの黄色いリンゴが、欧州の大産地南チロル地方を拠点に、世界へ広がっていく。

夏の日本のスーパーでは、日本から世界中に広まった「ふじ」と、知的財産としての品種を切り札に日本へ乗り込んできたクラブ制リンゴ「JAZZ」が並んでいる。せっかくなので、両方食べてみた。

5月〜8月、NZのJAZZと青森の貯蔵リンゴ、両方が味わえる

JAZZはほのかに酸味があってシャキシャキとした食感が心地よい。一方ふじは甘味が強く、食べ慣れているせいか、安心感がある。個人的に「ジュースならJAZZ、そのまま食べるならふじがいい」と感じた。

リンゴは自国で育種した品種を、自国で栽培して輸出するだけでなく、海外に拠点を作ってグローバルに展開していく時代に突入している。それでも日本生まれの品種を切り札にこれからクラブ制に取り組むには、「世界に通じる品種」が必要だ。

日本のリンゴがこれから巻き返しを図るとすれば、どんな品種になるのだろう? スペインでの栽培指導の経験もある片山さんに聞いてみた。

「日本人だけでなく、世界中の人に愛されるリンゴを。ほどよい酸味があって、200グラム前後のちょっと小さめの実がいいかもしれない」

そんなリンゴが今、日本の農業試験場や民間育種家の圃場の片隅で、ひっそり出番を待っているのかもしれない。


<参考URL>
ニュージー産リンゴの輸入、近年増加の傾向(Web東奥)
MOUNEYRAC
片山りんご園
KIKU APPLE
シナノゴールド(新品種開発ストーリー)|長野県農業関係試験場

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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