品質と規模を追求した費用対効果の高いスマート農業へ 〜名古屋大学・北栄輔教授(後編)

水稲の栽培管理のためのアプリケーションを開発した北栄輔教授は、情報学の最新の研究成果を農業分野に生かしたいと意気込む。

スマート農業のツールを「使える」レベルに高めていくには、大量のデータが必要だ。最新の研究には、データの不足を補えるものもある。

北栄輔(きたえいすけ)
名古屋大学大学院情報学研究科教授


――e-栽培暦を作るためのデータ分析に、どういう手法を使ったのでしょうか。


北:当時は、ディープラーニングではなく、統計的な手法を使いました。水稲は果樹や野菜に比べてデータが蓄積されているとはいえ、データ量が少なかったので。

今はほかの方法を使って分析しています。農業のデータでは、時々抜けているときがあるんですね。圃場でセンサーでとっているけれども、センサーの不備などで一部かけているとか。そういう時でも、比較的精度が高く予測できる方法を使っています。

※e-栽培暦のイメージ(北教授提供)

情報学の最新研究を農業に

北:農業現場で、画像判別をするためのAI「機械学習」がよくされますね。画像判別の場合、数千枚といったデータが必要で、この写真の枚数をどれだけ少なく抑えられるかという手法が研究されています。そういう成果を農業に使いたいですね。

今後、農業分野で「教師なし学習」を応用したいと考えています。今、よく使われて知られているのは「教師あり学習」。最初に「これは刈り入れていい稲だ」とか、「これは花だ」とか、そういう情報のついた写真を使います。

教師なし学習だと、こういうデータが少なくて済みます。全く教えないということは難しいと思うんですけれども、教える数をいかに少なくするかについて、いくつか研究成果があります。これから試そうと思っているところです。

――今はどんな研究をされているのですか。

北:植物工場でデータを分析し、栽培モデルを設計しようとしています。植物工場と言っても、オランダの最新鋭のガラス温室とかではなく、よくある比較的安価なビニールハウスで、農作物のデータを集めて分析したり、栽培モデルの設計をしたり、e-栽培暦のようなウェブシステムに応用するといったこともやっています。

――どんなふうに農業を変えていけたらと思っていますか。

北:予測するという技術ができた後に、理想的な状態を実現したい。農家に「こういう時はこうしたらいいですよ」「今日はその作業をしなくてもいいですよ。ただ、明後日にやった方がいいですよ」とかアドバイスできるようになりたいですね。作業が減っても、農作物の品質が変わらないということができればと。これは夢ですけれども、ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)が実現できればいいなと、思っています。

農家に指示を出せるようなシステムのプロトタイプは、近いうちには出てくるのではないでしょうか。ただし、それが精度が良く、皆が納得できるものになるには時間がかかるでしょうね。データも大量に必要です。

ロボットについては、今は研究していません。ただ、今後ロボットについても始めるかもしれません。やることは、いろいろあります。

スマート農業使った拡大再生産を

――スマート農業の普及には何が必要でしょうか。

北:一番は費用対効果だと思います。当たり前ですけれど。費用を払うのに見合うだけの効果があると証明されていて、どんな効果があって、どのくらいの期間で投資を回収できるかわからなければ、農家は買わないでしょう。

水稲の場合は、農家があまりお金を出したくない、そういう技術を入れても効果が少ないと考えておられると感じました。それに比べ、ビニールハウスなどの施設栽培農家の方が、もう少し積極的な印象ですね。

――日本農業にどうなってほしいですか。

北:今よりは規模の大きくなった農家が、ITなりを使って世界に伍してやっていく。日本の果物や野菜など農産物に対する評価は高い。それをいかに競争力のある値段で売っていくかが大事になります。国内は人口が減るので、国外に輸出できるものを作ってほしい。

海外にどうやってマーケットを取りに行くか。そのためには、おいしさだけ追求するのではなく、費用対効果を考えることも必要でしょう。品質をいくらか下げても、量をたくさん作るとか、収入が多くなる品種を試すといった具合に。そのためには、アメリカ農業のように大規模農業で、今よりは手間を少なく栽培するというのもアリだと思います。

日本の場合、品質の追求と、規模の追求の間をうまくとっていくことが必要ではないでしょうか。

そのためにIT技術が役に立つ、必要になることもあるんじゃないですか。

<参考URL>
北栄輔 | 名古屋大学
【コラム】スマート農業研究第一人者に聞く「スマート農業最前線」
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  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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