キャベツの収穫、運搬、集荷、出荷までをまかなう農業ロボット【特集・北の大地の挑戦 第2回】

野菜の産地化にとってこれからロボットは欠かせない存在となる――。

北海道の中でも大規模な畑作地帯の十勝地方は鹿追町で、加工・業務用キャベツとタマネギの収穫を無人化する事業の実証試験を視察して、あらためてそんな感想を抱いた。重量がある野菜の産地の現在と未来という観点から、農業ロボットの意義についてみていきたい。


深刻な人手不足

帯広市の北西部に位置する鹿追町は十勝地方の中でもとりわけ農業で成り立っている町といえる。というのも町の人口は5500人で、このうち半数が農業関係者なのだ。

盛んな品目は酪農と畑作で、農家戸数は200戸。平均的な経営面積は50haと全国の20倍以上、農業生産額は計226億円に及ぶ。この金額はほかの産業を含めた町における生産額の半分を占める。町民は「ほかにあるのは自衛隊だけ」と自嘲する。

とにかく農業は大規模なので、一戸当たりの平均的な収入は4700万円、粗所得は1600万円と、全国でも有数の“儲かる経営”をしている。それでも農家の戸数は毎年きれいに5%ずつ減っている。理由は「経営破たんではない。後継者がいないためだ」(JA鹿追町)。結果、残る農家の経営面積も一定の割合で毎年増えている。

十勝地方で輪作するのは小麦、ばれいしょ、てんさい、豆類の四品目。町では30年前、ここに加工用キャベツが加わった。いずれも機械化はされているものの、厄介なのは小麦を除けば作業に人手を要することだ。労働力はこれまで主に人材派遣に頼ってきたが、なにせ人口は5500人に過ぎない。地元で集めるには限界があるということで、3年前から東京の大学生にアルバイトで来てもらうようになった。しかし、大学生の本分は学業なので、雇える日数は限られている。

ベースの収穫機は全国に150台普及

そこで立命館大学を代表にJAや農研機構、メーカーなどが共同で2017年度から開発を始めたのが、キャベツとタマネギに関するロボットだ。まず本記事で紹介したいのはキャベツ用ロボットである。ただ、その価値を理解してもらうには、まずは現状の機械化体系を知っておいてもらったほうがいいだろう。

全国的にキャベツの収穫は、人が畑に入り、専用の包丁で刈り取っていくのが一般的。ただ、大規模な産地では収穫機が普及している。メーカーのオサダ農機株式会社(富良野市)によると、全国での普及台数は150台。このうち半数は北海道である。鎌田和晃社長は「1000万円するので、3ha以上の大規模産地で導入が進んでいる」と話す。

収穫機の仕組みは次の通り。前部の運転席では人がハンドルを握って車体を進ませ、後部の荷台では別の人たちが収穫されてくるキャベツの選別と調製、コンテナに詰めることをこなす。畑で中腰になりながら包丁を使って手で収穫していた時よりずっと省力化になるということで、JAが6台導入して、農家から受託して作業をしている。


ただ、現時点で6台のフル稼働はない。収穫機に乗る人が十分に集められないからである。こうした状況は都会で暮らす人には想像しにくいことかもしれない。しかし、それが農業の産地の実態なのだ。

ほかに機械化できているのは、収穫したばかりのキャベツを詰め込んだ鉄製コンテナを圃場の外に運んでトラックに積載するタイヤショベル、それから集荷場で大型トラックに詰め込むフォークリフトがある。本事業ではこれらのロボット化も進めている。

ディープラーニングでキャベツの場所を検出

今回の実証試験では、いずれのロボットも披露した。まさに畑でキャベツの収穫機が稼働して人が忙しそうに働いている最中、その傍らで衆目を集めて動き出したものこそ収穫用のロボットだ。

開発のベースとなったのは、すぐそばで人が乗って走らせている収穫機。これを無人化し、複数のカメラでキャベツを検出して、自動で刈り取るようにした。無人で走行できるのはGPSガイダンスシステムと自動操舵装置を搭載しているためである。

キャベツの検出に使うのはディープラーニング。撮影した画像から外葉に包まれた玉の位置をAIが見つけ出す。


合わせて土壌の表面の位置を検出しながら、ロボットの収穫部を適切な位置に調節する。実証試験では従来の収穫機よりいささか速度が遅かったものの、刈り取りでロスを生むことなく精度良く仕事をこなしていった。


鉄製コンテナに一定量のキャベツを積み込むとロボットの収穫機は停車した。その後方に待ち構えていたのはロボットの台車。こちらもGPSで自らの位置を随時把握すると同時に、ディープラーニングで収穫機の位置を確認しながら、その距離を段々と縮めていく。

やがて結合部を接続させて合体すると停車させた。すると双方の機体にあるレールを伝って、まずはキャベツを積んだコンテナが台車に移送された。それが終わると、今度は空のコンテナが台車から収穫機に移送された。一連の作業を終えると、双方の機体は分離し、収穫機は再びその仕事に取り掛かるため走り始めた。

目指すは収穫から運搬、集荷、出荷までの自動化

一方、台車はというと、畑の出入り口にゆっくりと向かっていき、到着すると停車した。そこで待っていたのは無人走行するフォークリフト。台車に近づいていき、間近で停車するとフォークを上げ、コンテナの底に位置を合わせると、前進した。本来であれば、フォークがコンテナの底に入り込み、そのまま持ち上げるわけだが、今回は高さの調整がうまくいかず断念することとなった。構想では、フォークリフトはコンテナを持ち上げ、畑の外で待つトラックに積載することになっている。


なお、フォークリフトがコンテナの位置を把握する技術ではGPSやGNSSを使っていない。代わりに車体に取り付けた光センサー技術「LiDAR」については以前のコラムで紹介したとおりだ。


レーザーを全方位に飛ばして、その散乱光や反射光を観測することで、周囲にある対象物の輪郭やそこまでの距離を把握する。

事業の最終目標としては、フォークリフトから移送されたコンテナを積載したトラックは、無人運転で集荷場に運び込む。出荷の際には、これまたロボットのフォークリフトがトラックに詰め込むことになる。今回の実証試験では後者のロボットも披露された。

以上、キャベツの収穫から出荷に至る自動化・無人化に向けた開発の現在を見てきた。あくまでも一度見学しただけなので正当に評価できないが、精度はフォークリフトを除けば高いものだった。4年後を目途に実用化するという話で、技術的には十分に期待できる気がした。

次回は、タマネギを収穫するロボットと最新のドローンを紹介する。


オサダ農機
【特集】北の大地の挑戦~スマート農業の先進地にみる可能性と課題
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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