農業ロボットにどこまでヒトと同じ精度を求めるか【特集・北の大地の挑戦 第4回】
前回まで2回にわたり、主に加工・業務用野菜の生産を効率化するために開発中のキャベツ・タマネギの収穫ロボットを紹介した。
キャベツの収穫、運搬、集荷、出荷までをまかなう農業ロボット【特集・北の大地の挑戦 第2回】
鹿追町のタマネギ生産におけるロボット化の意義と課題【特集・北の大地の挑戦 第3回】
2023年度までの実用化に向けて、技術的な側面以外に残された課題として、生産と流通の意識改革があると受け止めた。実証試験の後に開かれたセミナーの声を拾いながら、そのことを考えてみたい。
セミナ―の一環で開催されたシンポジウムの会場でこう問いかけたのは、JA浜松とぴあ(静岡県浜松市)の農家。人力で収穫する場合と比べて、ロボットだと取り残したり、収穫の最中に誤って傷つけたりすることが生じることを心配したのだ。ちなみに同JAは、野菜の販売金額は106億円で、販売高の順位を作物別でみるとタマネギが11億円で4位に入っている。
この農家が質問を投げかけた相手は、今回の事業を担当する研究者やJA鹿追町の職員ら5人の登壇者。このうち最初に回答したのは同JA営農部の今田伸二審議役である。
営農側の声
ロボット導入による積載効率について「確かに落ちると思う」と言及。ただ、既存の機械化体系のままだと人手がかかり、時間とともに生産面積が減っていくのは必至だ。「こうでなければいけないと(人が)頑張ることはいいことなのか」「人がいなくなれば輸入にとって代わられるだけでは」と逆に疑問を投げかけ、生産に対する意識の変革を求めた。
研究者の声
続けて回答したのは、今回の事業の統括責任者である立命館大学理工学部の深尾隆則教授。人手でこなす場合と違い、開発中のロボットでは収穫時に外葉を取ることは想定していない。それは技術的に「できる」としながら、「それだけお金がかかる」と説明した。
具体的には、外葉を取るためのアームを取り付けるだけでなんと2000万円かかるという。「機械化のコストと開発にかける時間」という点から、外葉を取り除く技術を取り入れることは現実的ではないと主張した。
ロボットで収穫した場合にもう一つ心配されるのは、畑から引き抜いた根を切り取る際、誤って野菜も斜めに切ってしまう「斜め切り」が生じること。深尾教授は「当然ながら斜め切りは出るでしょう」と正直に打ち明けながら、次のように発想の転換を求めた。
「従来のように収穫した機上で選別するのかどうか。むしろ食品工場のほうが圧倒的にたくさんの量が集まるので、そこで選別したほうが費用対効果としてはいいのではないか」
続けて深尾教授は「将来的に人がかなり減ったことを考慮した中で、システムを変えないといけない」「現在の延長線上ではない形を追い求める」「流通側での過剰な要求もある」などと主張。生産側だけではなく流通側にも意識の変革を求めた。
流通・加工側の声
言葉を継いでもらうためにマイクを渡した相手は、青果物の流通と加工の事業関係者で構成する、野菜流通カット協議会の木村幸雄会長だ。「全国に加工・業務用野菜の産地がたくさんある。JA浜松とぴあの方の発言は、そうした産地のみなさんの総意かなと思います」と受け止め、次のように答えた。
「実需が求めることに対してどういう作業がいいのかは、互いに言葉にして言うことで、大きな改善につながると思う」
たとえば、キャベツの収穫ロボットは3年前の段階でも目にしていたという。しかし、当時の“出来”と比べて現在は、「レベルが違う。斜め切りはほとんどない」として、「割れとか病気の有無がきちんとチェックされていれば、業務・加工用では問題なく使える」と評価した。
深尾教授がセミナーを通じて人の手の動きの緻密さに何度か言及していたように、それを再現するのは、たとえ技術的にはできることであっても、現実的には遠い先のことになるだろう。だからといってロボットの開発自体が無意味と言ってしまっては、産地だけではなく食産業そのものが続かない。
人間と比べた場合にロボットにできないことを受け入れながら、食産業の維持や発展という観点でいかにロボットを使いこなしていくか。
サプライチェーンに携わる関係者の総合力が問われていると考える。
キャベツの収穫、運搬、集荷、出荷までをまかなう農業ロボット【特集・北の大地の挑戦 第2回】
鹿追町のタマネギ生産におけるロボット化の意義と課題【特集・北の大地の挑戦 第3回】
2023年度までの実用化に向けて、技術的な側面以外に残された課題として、生産と流通の意識改革があると受け止めた。実証試験の後に開かれたセミナーの声を拾いながら、そのことを考えてみたい。
収穫のロスや傷物をどうするか 〜関係者の声
「(ロボットで収穫すると)野菜がきれいに取れなかったり、(鉄コンに)きれいに積めなかったりすることが出てくると思うんです。そうなるとつらいのは、クレームで返品されること。買って下さる側はそのことを受け入れてくれるのでしょうか」セミナ―の一環で開催されたシンポジウムの会場でこう問いかけたのは、JA浜松とぴあ(静岡県浜松市)の農家。人力で収穫する場合と比べて、ロボットだと取り残したり、収穫の最中に誤って傷つけたりすることが生じることを心配したのだ。ちなみに同JAは、野菜の販売金額は106億円で、販売高の順位を作物別でみるとタマネギが11億円で4位に入っている。
この農家が質問を投げかけた相手は、今回の事業を担当する研究者やJA鹿追町の職員ら5人の登壇者。このうち最初に回答したのは同JA営農部の今田伸二審議役である。
営農側の声
ロボット導入による積載効率について「確かに落ちると思う」と言及。ただ、既存の機械化体系のままだと人手がかかり、時間とともに生産面積が減っていくのは必至だ。「こうでなければいけないと(人が)頑張ることはいいことなのか」「人がいなくなれば輸入にとって代わられるだけでは」と逆に疑問を投げかけ、生産に対する意識の変革を求めた。
研究者の声
続けて回答したのは、今回の事業の統括責任者である立命館大学理工学部の深尾隆則教授。人手でこなす場合と違い、開発中のロボットでは収穫時に外葉を取ることは想定していない。それは技術的に「できる」としながら、「それだけお金がかかる」と説明した。
具体的には、外葉を取るためのアームを取り付けるだけでなんと2000万円かかるという。「機械化のコストと開発にかける時間」という点から、外葉を取り除く技術を取り入れることは現実的ではないと主張した。
ロボットで収穫した場合にもう一つ心配されるのは、畑から引き抜いた根を切り取る際、誤って野菜も斜めに切ってしまう「斜め切り」が生じること。深尾教授は「当然ながら斜め切りは出るでしょう」と正直に打ち明けながら、次のように発想の転換を求めた。
「従来のように収穫した機上で選別するのかどうか。むしろ食品工場のほうが圧倒的にたくさんの量が集まるので、そこで選別したほうが費用対効果としてはいいのではないか」
続けて深尾教授は「将来的に人がかなり減ったことを考慮した中で、システムを変えないといけない」「現在の延長線上ではない形を追い求める」「流通側での過剰な要求もある」などと主張。生産側だけではなく流通側にも意識の変革を求めた。
流通・加工側の声
言葉を継いでもらうためにマイクを渡した相手は、青果物の流通と加工の事業関係者で構成する、野菜流通カット協議会の木村幸雄会長だ。「全国に加工・業務用野菜の産地がたくさんある。JA浜松とぴあの方の発言は、そうした産地のみなさんの総意かなと思います」と受け止め、次のように答えた。
「実需が求めることに対してどういう作業がいいのかは、互いに言葉にして言うことで、大きな改善につながると思う」
たとえば、キャベツの収穫ロボットは3年前の段階でも目にしていたという。しかし、当時の“出来”と比べて現在は、「レベルが違う。斜め切りはほとんどない」として、「割れとか病気の有無がきちんとチェックされていれば、業務・加工用では問題なく使える」と評価した。
ロボットができないことを受け入れ、農業関係者の総力を結集を
人の代わりとなることが期待され、さまざまなロボットが開発されている。ただ、今回の実証試験で改めて気づいたのは、その期待に十全に応えることはいずれのロボットでもまだ難しいということだ。深尾教授がセミナーを通じて人の手の動きの緻密さに何度か言及していたように、それを再現するのは、たとえ技術的にはできることであっても、現実的には遠い先のことになるだろう。だからといってロボットの開発自体が無意味と言ってしまっては、産地だけではなく食産業そのものが続かない。
人間と比べた場合にロボットにできないことを受け入れながら、食産業の維持や発展という観点でいかにロボットを使いこなしていくか。
サプライチェーンに携わる関係者の総合力が問われていると考える。
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