自動収穫機とロボットトラクターの伴走で、畑作の作業時間短縮へ【特集・北の大地の挑戦 第5回】

海外製の馬力のあるトラクターやハーベスター(自動収穫機)がゴロゴロ存在する北海道でも、まずもって見ないような巨大で赤色をした農機が、唖然とするような広大な畑を悠然と走っていく。ドイツ・ホルマー社製のてんさい(ビート)のハーベスター「テラドス」だ。

一度に収穫できる列は、従来のハーベスターが1列ずつなのに対し、ドイツからやってきたこの化け物なら4列である。1枚の面積が14ヘクタール、片道がざっと500mという畑を快走していく姿は、夕日に照らされて壮大である。



収穫と同時に詰め込む

9月に続いて10月も北海道の畑作地帯を巡った。実りの秋に合わせて、収穫に関する最先端の技術の実証試験が各地で見られるからだ。

中でも意欲的だと感じたのはJA鹿追町。ロボットトラクター(以下、ロボトラ)の導入を見据え、効率化という面から新たな作業体系を構築する試みに乗り出していた。その一つが先のハーベスターによるてんさいの収穫だ。

今回の実演の見どころは、このハーベスターにトレーラーを牽引するトラクターを伴走させて、収穫と同時に詰め込むことにある。


実演では、ハーベスターは堀り取ったてんさいをいっぱいにすると、トラクターが牽引するドイツ・Fliegl社製のトレーラー「GIGANT」に送り込む。てんさいを満載したら、トラクターは畑を出て、隣接する一時的な置き場である土場(どば)に向かう。

畑に控えていたもう1台のトラクターが、間を置かずにハーベスターと伴走を始め、時間が経ったら同じようにハーベスターからてんさいをもらい受ける。先に集荷場に向かったトラクターは土場でてんさいをおろすと再び畑に戻り、もう1台のトラクターと入れ替わる。あとはこの作業の繰り返しだ。



トラクターの伴走がなぜ見どころだったかを知るには、現状の収穫体系を理解しなければいけない。

通常、ハーベスターは堀り取ったてんさいが満杯になると、収穫をいったん止めて畑の隅か、畑の外にある専用の土場に降ろしに行く。いずれかの場所に積み上げたてんさいは集荷日になると、タイヤショベルとダンプが取りに来て、製糖工場に運ばれる。

しかしこれでは、ハーベスターが常時収穫できないし、人手や機械が余計にかかってしまう。とりわけ北海道のように、1枚の畑の面積が大きければなおさらだ。

それを解消するために、JA鹿追町はハーベスターには休むことなく刈り取らせ、収穫したてんさいはトラクターが運ぶという方式を検討しているのだ。2020年以降にロボットトラクターは無人で複数台が自動走行する時代がやってくる。そうなればオペレーターは不要になる。人は遠隔地のモニター画面でトラクターの動きを見守るだけになる。

JA鹿追町がオニオンピッカーとロボトラとの伴走を実証試験したのは、本連載ですでに伝えた通り。ほかに小麦を収穫するコンバインとの伴走も試している。実証試験で使ったコンバインは米国・ニューホランド社製「TX‐64プラス」。ちなみに伴走したトレーラーは、Fliegl社製「GIGANT ASW270」で容積は40㎥。牽引したトラクターの馬力は180ps以上である。


畑の境界を超える「トランスボーダーファーミング」

JA鹿追町は、ロボトラを核にした新たな作業体系の効果をより大きくするには、従来の農地の枠を越えることが欠かせないとみている。

鹿追町では、一部の地区で作業用道路を削るなどして、1枚の畑の面積を大きくしてきた。ただ、その畑の中には複数の地権者、つまり耕作者がいて、それぞれに枕地(圃場の端で農機を旋回する場所)で区切り、別々に管理しているため、機械作業の効率が上がらない。

そこで構想しているのが、ドイツで実践されている「トランスボーダーファーミング」だ。1枚の畑に複数の地権者がいても、その境界を超えて播種や施肥、農薬の散布、収穫などをするというものだ。この場合、農家は耕作者というよりも所有者に近くになっていく。耕作は別の人に作業料金を支払って任せ、その畑から上がってくる収益を受け取ることになる。


推進するうえで壁は低くはない。枕地で区切った畑はそれぞれ地力や土質に違いがあるからだ。

ただ、最近では地力のムラに応じて散布する肥料の量を調整する「可変施肥機」が普及しつつある。地力のムラを把握するのは衛星データやドローンでの撮影データを基にしている。

このようにハードは解決できる方向にある一方、残る大きな課題は農家の説得だ。トランスボーダーファーミングは農家にとって別の農家に農作業をゆだねるため、耕作の意欲を低下させたりその喜びを奪いかねないという心配も出ている。

鹿追町の農家の平均耕地面積は過去20年で倍増し、55ヘクタールに達した。近い将来に100ヘクタールになるのは目に見えているという。このまま現状の農地の使い方をしていては、これからの規模拡大に対応できなくなるとみている。

トランスボーダーファーミングが実現すれば、実証試験をしているロボトラとハーベスターとの伴走による効率も飛躍的に高まる。それに向けて、まずは大規模な畑で機械作業をすればどれだけ生産効率が高まるかを示そうとしたのが、今回の実証試験だった。JA鹿追町の革新的な取り組みの行方に今後も注目したい。


【特集】北の大地の挑戦~スマート農業の先進地にみる可能性と課題
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    田中克樹(たなかかつき)。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  4. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
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