岩見沢市のロボトラ協調制御のカギは5Gにアリ【特集・北の大地の挑戦 第6回】

「世界トップレベルのスマート農業をつくる」――。

10月下旬に北海道岩見沢市で開催された合同視察会で、北海道大学大学院農学研究院の野口伸教授は何度かこう強調した。「世界トップレベル」を象徴するのは、無人状態の複数台のロボットトラクター(ロボトラ)に関する監視と制御を同時に遠隔地から行う技術。その実演からロボトラの現在地と未来をみた。


協調作業と圃場間移動を実演

北海道有数の稲作地帯である岩見沢市は2019年度、北海道大学やNTTなどと農林水産省の「スマート農業加速化実証プロジェクト」含めての事業に採択された。事業では、センサーネットワークの構築とリモートセンシングの解析で広域にわたって生育状況を把握するほか、ロボトラや自動給水弁などを活用した労働時間の削減や可変施肥による増収などを実現する。

達成目標は全国における米の生産費の平均に対し5割減、つまり1俵(60㎏)当たり8,000円にすることだ。これは政府が掲げる目標の4割減、同9,600円より高い数字である。

その達成に向けて、作業別に次の5つの目標値を設定している。
  1. ロボトラによる耕起・整地で労働時間の3割減
  2. ロボトラによる乾田直播で労働時間の3割減
  3. 水管理の巡回にかかる時間の3割減
  4. 定点カメラやUAVなどの情報収集で適期散布と可変施肥で収量と品質のカイゼンで10%増
  5. 肥料投入量の適性化や作業人員の適性な配置などで収益の2割増

このうち、今回は「ロボトラ」について取り上げる。


2019年10月から5Gネットワークを導入

100人以上が集まった合同視察会で実演したのは、無人のまま走行する4台のロボトラによる「協調作業」だ。複数のロボトラが1枚の農地で同時に作業をする姿はテレビで見たことがある人も少なくないだろう。今回はロータリーを装着した4台のロボトラを走らせ、耕うんする様子を公開した。

合わせて披露したのは、ロボトラが農地から公道を経て別の農地に移動する。「圃場間移動」。今回は安全に配慮して河川敷の遊水地を実演場所として選んだ。加えて北海道警察の特別許可で隣接する公道を閉鎖してある中、ロボトラは時速2kmでゆっくり公道を走行した。

「(農地での稼働だけではなく)圃場間移動もできるなら、より効率的になる」

とりわけ「本州のように分散錯圃が深刻な経営」では「こういう仕組みが必要」とした。

私が見た限りでは、協調作業にしろ圃場間移動にしろ、問題が生じることなく作業をこなしたようだった。いずれも実演や映像で何度か見たことがあるので、私にとっては真新しさはなかった。それより注目していたのは、こうした作業を実現させるために岩見沢市で10月から始まった5Gの試験的な運用である。


5Gに期待するのは画質の良さ

「(4Gとの)大きな違いは画質がぐっと良くなること。これが大事なんです」

こう語る岩見沢市企画財政部情報政策推進担当の黄瀬信之次長が画質を重視する理由の一つは、事故の未然防止のため。

もちろん、ロボトラには人や障害物を検知するセンサーが標準装備され、危険を回避する能力は基本的に備わっている。ただ、万が一に備えて人が監視して、予想外の事態が起きれば車体を緊急停車させなければいけない。

無人状態のロボトラを走行させる場合の人による監視は、現状は農地で立ち会うことが条件になっているが、2020年以降は遠隔地で行えるようになることが計画されている。

しかもロボトラは究極的には24時間体制で作業をすることが期待されている。日が落ちた時間に走行させる場合であっても、モニター画面を通して車体やその周囲の様子を監視できなければならない。それには「4Gだと限界がある。5Gでちゃんとした画質を確保する必要がある」と黄瀬次長。

黄瀬次長が画質を重視する理由のもう一つは、ロボトラによる作業が問題なく行われているかを確かめるため。現場から送られてくる画質が悪ければ、遠隔地の監視者は問題の発生を見逃してしまう可能性が高くなる。

実演会の直前に参加者が最初に集った建物の会場では、まさに4台のモニター画面が置かれていた。映っているのは2台のロボトラのそれぞれ前後の部分とその付近の様子。あいにくこの日は通信の状態が悪く、これらの映像は事前に取った動画で、リアルタイムのそれではない。ただ、映像は編集していないので、画質が非常に良いことは認識できた。


では、遠隔地からどうやってロボトラを発車や停車などさせるのか。その答えはモニター画面の向こう、パソコンの画面を投影したスクリーンにあった。

そこに映し出されたのはGIS(地図情報システム)の地図情報で、俯瞰した圃場の一筆に赤色の4つの丸が固まって並んでいる。これは先ほどの遊水地にいる4台のロボトラ。赤色は停車中であることを示している。青色になると走行を始めた、さらに緑色になると作業を始めたことを表現しているという。

実際に運営側のスタッフがパソコンを操作し、発車させたり作業をさせたりすると、赤色からそれぞれの色に段階的に変わっていった。


リモートセンシングで肥料や農薬の散布に活用

今回のロボトラでもう一つ注目したいのは、リモートセンシングの機能も備えさせることだ。センサーを取り付け、作物の状態を把握する。さらにそのデータは瞬時に収集して人工知能(AI)で解析し、それを踏まえて肥料や農薬の適切な散布につなげる。もちろん緻密な解析を可能にするのがデータの精度である以上、5Gの到来は欠かせないわけだ。

岩見沢市にもまた、全国の自治体が抱える農業の課題は否応なく押し寄せている。農業就業人口の減少と残る農家の規模拡大だ。

農業就業人口は2019年が2462人で、2010年と比較して713人、22%減っている。それと反比例するように、農家一戸当たりの平均的な経営耕地面積は20haにまで広がった。野口教授は「このままでは管理が行き届かず、農地がぼろぼろになる」と、ロボトラによるリモートセンシングの重要性を訴えた。

以上、今回の実証試験の一端を紹介した。ところでなぜ岩見沢市が「世界トップレベルのスマート農業」を目指す舞台となっているのか。その熱量はどこから生まれているのか。次回はそのことについて考えたい。

【特集】北の大地の挑戦~スマート農業の先進地にみる可能性と課題
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WRITER LIST

  1. 川島礼二郎
    川島礼二郎(かわしまれいじろう)。1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  2. 蒼井ネコ
    農学系の兼業ライター。某大学農学部、某農業レストラン、某飲料会社商品企画を経て、現在は某マルシェアプリでwebマガジン編集として働きながら、猫様のお世話をしている。
  3. 杉山直生
    すぎやまなおき。1988年生まれ。愛知県で有機農業を本業として営む。「伝えられる農家」を目指して執筆業を勉強中。目標は、ひとりでも多くの人に「畑にあそびに行く」という選択肢を持ってもらうこと。「とるたべる」という屋号で、日々畑と奮闘中。
  4. 柴田真希
    管理栄養士。㈱エミッシュ代表取締役。Love Table Labo.代表。27年間悩み続けた便秘を3日で治した雑穀や米食の素晴らしさを広めるべく、雑穀のブランド「美穀小町」を立ち上げる。現在はお料理コーナーの番組出演をはじめ、各種出版・WEB媒体にレシピ・コラムを掲載する他、食品メー カーや飲食店のメニュー開発やプロデュースなどを手がける。『私は「炭水化物」を食べてキレイにやせました。』(世界文化社)、『はじめての酵素玄米』(キラジェンヌ)など著書多数。
  5. 大城実結
    おおしろ みゆう。フリーランス編集ライター、大城文筆事務所所長。一次産業ほか地域文化、アウトドアなどお天道様系分野を専門に編集・執筆している。自転車で鍛えた脚力を活かし、農家さんのお手伝いをしながらインタビュー取材を積極的に行う。玉掛け免許と床上式操作クレーン免許所持。