作業機とトラクターのデータ連携に不可欠な規格「ISOBUS」とは何か【特集・北の大地の挑戦 第10回】
前回までの2回にわたりロボットトラクター(通称・ロボトラ)と作業機との連携をテーマに扱った。
この点でもう一つ見落としてはいけない議論がある。それは、両者のデータ連携を担保する世界標準規格「ISOBUS(イソバス)」だ。この規格仕様の農機を国内で普及するため、公益財団法人とかち財団(帯広市)が事務局となって2018年8月に設立されたのが、ISOBUS普及推進会である。
同財団ものづくり支援部の田村知久課長に、スマート農業を推進するうえで欠かせない課題であるISOBUSについて聞いた。
ISOBUSは、メーカーを問わずにトラクターと作業機との間で行われる、データ通信の相互接続性を担保する世界標準のことです。
トラクターも作業機も電子制御化が進み、相互にさまざまなデータのやり取りをしながら、農作業の高度化がはかれるようになりました。しかし、トラクターと作業機との間で通信制御の方法が異なると、データ連携ができなくなってしまう。その場合は通信制御の方法が同じトラクターか作業機かを買い直さなければ、農作業を高度化できない。あるいは作業機側にセンサーを取り付け、トラクターの動きを感知して作動するようにしてきました。
そうした課題を解消するために、両者のデータ通信の国際規格としてできたのが「ISO 11783」です。
この国際規格を普及する業界団体として「国際農業電子財団」(AEF)があります。そしてAEFがISO 11783の実装に向けて定めた統一仕様こそが「ISOBUS」なんですね。
AEFの活動としては相互接続性に関する適合テストを用意し、トラクターや作業機を認証する仕組みを導入しています。AEFには世界の主要な農機メーカーが会員となっていて、ISOBUSは事実上の世界標準規格になっています。
作業履歴の記録や可変施肥、施肥の重複防止
――ISOBUS仕様のトラクターや作業機で具体的に何ができるのでしょうか。
メーカー問わずトラクターと作業機との間でデータ連携ができるほか、市販されているいずれのターミナル(筆者注=トラクターや作業機を操作するタッチパネル式の端末)を用いても作業機の操作が可能となります。つまり、ひとつのターミナルで異なる作業機、あるいは複数の作業機を操作できるようになるということです。作業機を付け替えたとしても、それに対応した画面がターミナルで出てきます。
このほかに次の三つのことができるようになります。
まず、作業の履歴をデータとして残せる。営農支援管理システムと連携させれば、たとえば“どこに、いつ、どれだけの農薬や肥料をまいたか”、それに“どれくらいの時間がかかったか”といったデータが記録できるわけです。ちなみに十勝地方の6割以上の農家はJAグループの十勝農協連がサービスを提供する営農支援管理システムを使っているとされ、このシステムは数年以内にISOBUS対応になると聞いています。
二つ目は、圃場の地力ムラのマップを踏まえて可変施肥機でまく肥料の量を調整できる。これにより肥料の節約や作物の収穫量の低下を防げるというわけですね。
三つ目は、GPSやGNSSの位置情報を踏まえた作業機のセクションのコントロール。重複した作業を避けることが可能となります。たとえばブーム・スプレーヤーの場合、一度まいた箇所にまかないよう、散布ノズルの開閉を自動で行うことができます。農薬や肥料の散布は田畑を往復しながらこなす。特に三角形など変な形状をした畑だと、作業していて農薬や肥料をまいたかどうかがわからなくなってきますから、この機能は大事なんです。三角形や、変な形の畑はまいたかまいていないかがわかりにくいですから。
とはいえ、北海道ではISOBUS仕様の海外製トラクターや作業機の導入が、主に大規模な畑作地帯で進んでいる。もともと海外製の農機を購入する農家が多く、ISOBUSに関する情報を得やすかったことに加えて、経営耕地面積が大規模なため、データを自動的に収集できることで、経営の管理がしやすいということを実感していたからだ。
田村課長によると、「若い世代を中心に導入がどんどん増えている」とのこと。ただ、道庁によれば、現時点でISOBUS仕様の作業機として開発され、普及しているのは可変施肥機のみ。そこでISOBUS普及推進会は会員のメーカーや大学、研究機関とともにほかの作業機の開発を進めている。
ところで、ISOBUSではこれまでトラクターが作業機を制御してきた。それが、作業機がトラクターを制御する動きが出てきているという。それを披露する舞台が11月にドイツであったばかり。これから何が可能になるのか。次回紹介したい。
この点でもう一つ見落としてはいけない議論がある。それは、両者のデータ連携を担保する世界標準規格「ISOBUS(イソバス)」だ。この規格仕様の農機を国内で普及するため、公益財団法人とかち財団(帯広市)が事務局となって2018年8月に設立されたのが、ISOBUS普及推進会である。
同財団ものづくり支援部の田村知久課長に、スマート農業を推進するうえで欠かせない課題であるISOBUSについて聞いた。
作業履歴の記録を残す
――「ISOBUS」とは何か、教えてください。ISOBUSは、メーカーを問わずにトラクターと作業機との間で行われる、データ通信の相互接続性を担保する世界標準のことです。
トラクターも作業機も電子制御化が進み、相互にさまざまなデータのやり取りをしながら、農作業の高度化がはかれるようになりました。しかし、トラクターと作業機との間で通信制御の方法が異なると、データ連携ができなくなってしまう。その場合は通信制御の方法が同じトラクターか作業機かを買い直さなければ、農作業を高度化できない。あるいは作業機側にセンサーを取り付け、トラクターの動きを感知して作動するようにしてきました。
そうした課題を解消するために、両者のデータ通信の国際規格としてできたのが「ISO 11783」です。
この国際規格を普及する業界団体として「国際農業電子財団」(AEF)があります。そしてAEFがISO 11783の実装に向けて定めた統一仕様こそが「ISOBUS」なんですね。
AEFの活動としては相互接続性に関する適合テストを用意し、トラクターや作業機を認証する仕組みを導入しています。AEFには世界の主要な農機メーカーが会員となっていて、ISOBUSは事実上の世界標準規格になっています。
作業履歴の記録や可変施肥、施肥の重複防止
一つのターミナルでいずれの作業機にも対応
――ISOBUS仕様のトラクターや作業機で具体的に何ができるのでしょうか。メーカー問わずトラクターと作業機との間でデータ連携ができるほか、市販されているいずれのターミナル(筆者注=トラクターや作業機を操作するタッチパネル式の端末)を用いても作業機の操作が可能となります。つまり、ひとつのターミナルで異なる作業機、あるいは複数の作業機を操作できるようになるということです。作業機を付け替えたとしても、それに対応した画面がターミナルで出てきます。
このほかに次の三つのことができるようになります。
まず、作業の履歴をデータとして残せる。営農支援管理システムと連携させれば、たとえば“どこに、いつ、どれだけの農薬や肥料をまいたか”、それに“どれくらいの時間がかかったか”といったデータが記録できるわけです。ちなみに十勝地方の6割以上の農家はJAグループの十勝農協連がサービスを提供する営農支援管理システムを使っているとされ、このシステムは数年以内にISOBUS対応になると聞いています。
二つ目は、圃場の地力ムラのマップを踏まえて可変施肥機でまく肥料の量を調整できる。これにより肥料の節約や作物の収穫量の低下を防げるというわけですね。
三つ目は、GPSやGNSSの位置情報を踏まえた作業機のセクションのコントロール。重複した作業を避けることが可能となります。たとえばブーム・スプレーヤーの場合、一度まいた箇所にまかないよう、散布ノズルの開閉を自動で行うことができます。農薬や肥料の散布は田畑を往復しながらこなす。特に三角形など変な形状をした畑だと、作業していて農薬や肥料をまいたかどうかがわからなくなってきますから、この機能は大事なんです。三角形や、変な形の畑はまいたかまいていないかがわかりにくいですから。
北海道で普及するISOBUS仕様の機種
以上、田村課長から、トラクターと作業機がISOBUS仕様になることで可能になることの概要をうかがった。現時点において、ISOBUS仕様の商品が開発されているのは海外製で、国内の農機メーカーは国内市場向けにはほとんど出していないという。とはいえ、北海道ではISOBUS仕様の海外製トラクターや作業機の導入が、主に大規模な畑作地帯で進んでいる。もともと海外製の農機を購入する農家が多く、ISOBUSに関する情報を得やすかったことに加えて、経営耕地面積が大規模なため、データを自動的に収集できることで、経営の管理がしやすいということを実感していたからだ。
田村課長によると、「若い世代を中心に導入がどんどん増えている」とのこと。ただ、道庁によれば、現時点でISOBUS仕様の作業機として開発され、普及しているのは可変施肥機のみ。そこでISOBUS普及推進会は会員のメーカーや大学、研究機関とともにほかの作業機の開発を進めている。
ところで、ISOBUSではこれまでトラクターが作業機を制御してきた。それが、作業機がトラクターを制御する動きが出てきているという。それを披露する舞台が11月にドイツであったばかり。これから何が可能になるのか。次回紹介したい。
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