衛星×ドローン×AIによる生育履歴データで連作障害を防ぐ【特集・北の大地の挑戦 第12回】
北海道における農業生産の問題の一つに、同じ畑で同じ作物を何年も作り続けることで生育が悪くなる「連作障害」なるものがある。
この問題の要因は、どの畑に、どのくらいの面積で、何が植えてあるかといったデータを毎年正確かつ迅速に取れないことにある。農協が農家に適切な営農指導をできないのだ。
道内随一の畑作地帯の農協とベンチャー企業のスペースアグリ株式会社(帯広市)らは、その解消に向けて2019年度、一連のデータを効率的かつ高精度に把握する実証試験を始めた。利用するのは衛星データとAIだ。
本連載で繰り返し述べた通り、全国的に農家は経営する規模が拡大し、農地の枚数を増やしている。それなのに大多数はどの農地に何を植えたかという過去の記録を残していなかったり、紙に入力していて使い勝手が悪かったりする。このため、国内最大の畑作地帯である十勝とオホーツクの両地方のうち、たとえばJAグループの十勝農業協同組合連合会(以下、十勝農協連)は、農家に代わって一連のデータの収集と管理をしている。そのデータを基に農家に輪作を促すのだ。
それでも連作障害が解消されないのは、毎年のようにデータの収集に時間と手間がかかるためである。十勝地方の農協の連合体である同農協連によると、過去のデータを整理して農家に還元するのが、その年の7月や8月になることもあるという。あるいは古いデータが更新されないこともあるそうだ。
加えて、収集したデータが正確さを欠く場合が多々ある。というのも、農家は畑の区画を毎年のように変えるし、植えている作物もしかりである。農協の職員は毎年春になると区画を把握するため、一枚一枚の畑を回り、区画を計測している。ただ、同農協連によると、農協によってその精度はまちまち。緻密に取っている農協もあれば、そうでない農協もあるそうだ。
そして、このデータ収集の問題は、とにかく手間がかかることである。ある農協では1カ月弱で延べ140人の手を要するという。前塚考査役はその大変さを次のように説明する。
「十勝地方の農家戸数は5200戸。彼らが経営している農地を筆数にすれば、25万筆になるでしょう。その筆数の中身は毎年変わるので、全農協の職員が毎年マッピングするわけです。それは大変な作業になるんですよ」
しかし、実際の区画と筆ポリゴンの区画を照合してみると、一部で合わない箇所が見つかった。つまり筆ポリゴンも完全ではなかったのである。
そこで今回の実証試験では、筆ポリゴンや衛星データ、ドローンでの撮影データ、トラクターの走行履歴といった複数のデータを組み合わせ、AIを活用して畑の区画を特定する。さらに時系列の衛星データと品種ごとの成長曲線データをAIで解析することで、その区画に何が植えてあるかを把握する。
スペースアグリは2017年から衛星データを解析し、生育の状況を地図上で一覧できるウェブサービスを展開。利用者にはそれを基に可変施肥等につなげてもらっている。今回の実証試験を通じて農地の区画や面積、植えている作物のデータを自動で更新する仕組みをつくり、農協連に提供して、適切な営農指導に役立ててもらう。
「農家だって本当はしたくないけど、畑作4品目を適地適作でうまく回すのは結構しんどい」
繰り返しになるが、北海道の農家は経営面積が拡大しているものの、労働力は足りていない。それでも面積をこなすとなれば、どうしても手間のかからない作物に偏重するようになる。結果、同じ畑で同じ作物を作り続けるようになり、連作障害につながっていく。
今回の実証試験は、農家に危ない畑を示すという意味では有意義だ。ただ、連作障害を解消するには多方面からのアプローチが必要になる。
その一つは、本連載でも取り上げた自動化や無人化であり、そこから始まる新たな作業体系の構築である。一連の成果が結集して、道内の生産性が上がることを期待したい。
筆ポリゴンダウンロードページ|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/tokei/porigon/hudeporidl.html
スペースアグリ株式会社
https://www.space-agri.com/
この問題の要因は、どの畑に、どのくらいの面積で、何が植えてあるかといったデータを毎年正確かつ迅速に取れないことにある。農協が農家に適切な営農指導をできないのだ。
道内随一の畑作地帯の農協とベンチャー企業のスペースアグリ株式会社(帯広市)らは、その解消に向けて2019年度、一連のデータを効率的かつ高精度に把握する実証試験を始めた。利用するのは衛星データとAIだ。
膨大な生育履歴データを正確に収集する難しさ
連作障害が起きていることは道内の畑作地帯ではよく聞く話である。ばいれしょのある産地では、過去20年で収量が20%落ちたという。それを防ぐには定期的に植える作物を変えればいい。ただ、事はそう簡単ではない。本連載で繰り返し述べた通り、全国的に農家は経営する規模が拡大し、農地の枚数を増やしている。それなのに大多数はどの農地に何を植えたかという過去の記録を残していなかったり、紙に入力していて使い勝手が悪かったりする。このため、国内最大の畑作地帯である十勝とオホーツクの両地方のうち、たとえばJAグループの十勝農業協同組合連合会(以下、十勝農協連)は、農家に代わって一連のデータの収集と管理をしている。そのデータを基に農家に輪作を促すのだ。
それでも連作障害が解消されないのは、毎年のようにデータの収集に時間と手間がかかるためである。十勝地方の農協の連合体である同農協連によると、過去のデータを整理して農家に還元するのが、その年の7月や8月になることもあるという。あるいは古いデータが更新されないこともあるそうだ。
加えて、収集したデータが正確さを欠く場合が多々ある。というのも、農家は畑の区画を毎年のように変えるし、植えている作物もしかりである。農協の職員は毎年春になると区画を把握するため、一枚一枚の畑を回り、区画を計測している。ただ、同農協連によると、農協によってその精度はまちまち。緻密に取っている農協もあれば、そうでない農協もあるそうだ。
そして、このデータ収集の問題は、とにかく手間がかかることである。ある農協では1カ月弱で延べ140人の手を要するという。前塚考査役はその大変さを次のように説明する。
「十勝地方の農家戸数は5200戸。彼らが経営している農地を筆数にすれば、25万筆になるでしょう。その筆数の中身は毎年変わるので、全農協の職員が毎年マッピングするわけです。それは大変な作業になるんですよ」
筆ポリゴンも加えて高精度に農地情報を収集
そこでスペースアグリが目を付けたのは、農林水産省が無償で提供している農地の区画データ「筆ポリゴン」。この区画データが使えれば、先に挙げた問題が解消されると踏んだ。しかし、実際の区画と筆ポリゴンの区画を照合してみると、一部で合わない箇所が見つかった。つまり筆ポリゴンも完全ではなかったのである。
そこで今回の実証試験では、筆ポリゴンや衛星データ、ドローンでの撮影データ、トラクターの走行履歴といった複数のデータを組み合わせ、AIを活用して畑の区画を特定する。さらに時系列の衛星データと品種ごとの成長曲線データをAIで解析することで、その区画に何が植えてあるかを把握する。
スペースアグリは2017年から衛星データを解析し、生育の状況を地図上で一覧できるウェブサービスを展開。利用者にはそれを基に可変施肥等につなげてもらっている。今回の実証試験を通じて農地の区画や面積、植えている作物のデータを自動で更新する仕組みをつくり、農協連に提供して、適切な営農指導に役立ててもらう。
連作障害には多方面からのアプローチを
以上、今回の実証試験の中身を紹介した。気になるのは、試験の成果を基に適切な営農指導がなされ、その後に連作障害は解消されるのか、ということである。これに関しては北海道で連作障害が起きる理由について、複数の人から返ってきた答えが耳に残っている。「農家だって本当はしたくないけど、畑作4品目を適地適作でうまく回すのは結構しんどい」
繰り返しになるが、北海道の農家は経営面積が拡大しているものの、労働力は足りていない。それでも面積をこなすとなれば、どうしても手間のかからない作物に偏重するようになる。結果、同じ畑で同じ作物を作り続けるようになり、連作障害につながっていく。
今回の実証試験は、農家に危ない畑を示すという意味では有意義だ。ただ、連作障害を解消するには多方面からのアプローチが必要になる。
その一つは、本連載でも取り上げた自動化や無人化であり、そこから始まる新たな作業体系の構築である。一連の成果が結集して、道内の生産性が上がることを期待したい。
筆ポリゴンダウンロードページ|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/tokei/porigon/hudeporidl.html
スペースアグリ株式会社
https://www.space-agri.com/
【特集】北の大地の挑戦~スマート農業の先進地にみる可能性と課題
- 収量低下で気づいた生育環境データの価値(後編)【特集・北の大地の挑戦 最終回】
- 収量低下で気づいた生育環境データの価値(前編)【特集・北の大地の挑戦 第13回】
- 衛星×ドローン×AIによる生育履歴データで連作障害を防ぐ【特集・北の大地の挑戦 第12回】
- ISOBUSの普及により、これからは作業機がトラクターを制御する時代へ【特集・北の大地の挑戦 第11回】
- 作業機とトラクターのデータ連携に不可欠な規格「ISOBUS」とは何か【特集・北の大地の挑戦 第10回】
- ロボットトラクターはなぜ畑作で使えないのか──帯広畜産大学畜産学部 佐藤禎稔教授に聞く<後編>【特集・北の大地の挑戦 第9回】
- ロボットトラクターはなぜ畑作で“使えない”のか──帯広畜産大学畜産学部 佐藤禎稔教授に聞く<前編>【特集・北の大地の挑戦 第8回】
- 岩見沢市におけるスマート農業は「技術」ではなく「経営戦略」【特集・北の大地の挑戦 第7回】
- 岩見沢市のロボトラ協調制御のカギは5Gにアリ【特集・北の大地の挑戦 第6回】
- 自動収穫機とロボットトラクターの伴走で、畑作の作業時間短縮へ【特集・北の大地の挑戦 第5回】
- 農業ロボットにどこまでヒトと同じ精度を求めるか【特集・北の大地の挑戦 第4回】
- 鹿追町のタマネギ生産におけるロボット化の意義と課題【特集・北の大地の挑戦 第3回】
- キャベツの収穫、運搬、集荷、出荷までをまかなう農業ロボット【特集・北の大地の挑戦 第2回】
- 地力にムラがある十勝地方で、可変施肥により肥料削減&収量アップ【特集・北の大地の挑戦 第1回】
- 【新連載・北の大地の挑戦~スマート農業の先進地にみる可能性と課題 第0回】北海道におけるスマート農業の利用実態
SHARE