地力にムラがある十勝地方で、可変施肥により肥料削減&収量アップ【特集・北の大地の挑戦 第1回】

頭の中で計算していささか驚いた。北海道鹿追町の西上経営組合は“その技術”を導入したことで、栽培面積が50haのてんさい(ビート)で肥料代を400万円以上減らせたことになるからだ。収量が増えたことも含めれば、経済効果は軽く500万円を越えることになる。

その技術、つまり「可変施肥」とはどういう内容で、どんな効果が期待できるのか。十勝地方の関係者を訪ねた。


十勝地方は畑の地力がまばら

「農業・環境・まちづくり」をテーマに総合コンサルタントとして多角的な事業を展開している株式会社ズコーシャ(帯広市)。本社2階にある会議室でアグリ&エナジー推進室の横堀潤室長(農学博士)が可変施肥について紹介してくれた。


北海道の農業経営の大規模化は、周囲の離農とともに、これからその勢いに拍車がかかることが予想されている。残る農家が放出されてくる農地の受け皿になるとして、気にしたいことの一つとしてあげられるのは、栽培管理が行き届くのかどうかである。農地一枚ごとでも地力にはムラがある。道内のように一枚の面積が大きければなおさらだ。

そこで注目されているのが、地力のムラを踏まえて量を微妙に調整しながら肥料を散布する「可変施肥」なのだ。

「特に十勝地方は地力のムラが多い」。そう言って横堀室長が見せてくれたのは、何も植えていない畑を上空から撮影した写真。土の色が黒と茶でまだら模様になっている。


「これが十勝の土なんです。火山灰土と赤土が混ざっているのが特徴。色がまばらになっているのは、地力にムラがあることを示しているんですね」

地力に応じて肥料の量を調整する場合、多くは土壌診断の結果に頼っている。ただ、それはあくまでも全体の地力を把握する手段に過ぎない。結果、一枚の畑で肥料を均一にまくことになる。より緻密に管理する手法として最近普及してきたのが、可変施肥だ。

ズコーシャのサービスは次のようになっている。

何も植えていない田畑の上空をドローンで撮影し、地力のムラに応じて黒や茶、黄、緑、青などの色を使い分けながらデータ上の地図で色分けする。そのデータを顧客である農家に提供。農家はそのデータを可変施肥機に取り込む。あとは可変施肥機を田畑で走らせるだけだ。


ズコーシャのドローン


試験での経済効果は10aあたり2万3000円

気になるのはその経済効果。横堀室長が見せてくれたのは、北海道の輪作四品目のうち、てんさいとばれいしょについてだった。

まず。てんさいをみると、三つの圃場での試験データがある。最も効果があったところこそ、冒頭で紹介した農事組合法人・西上経営組合だ。農家8戸が共同経営する同法人が可変施肥を試したところ、10a当たりで肥料代は8528円を減らせた。さらに収量は1万4771円増えた。経済効果は総計で2万3000円になる。

てんさいで試験したのは、他の輪作品目よりも肥料をより多く必要とするから。西上経営組合によると、一般的に10a当たりに投じる肥料はばれいしょが60kgなのに対し、てんさいは160~200kgにもなるという。

西上経営組合の経営面積は300ha。このうちてんさいは50haで、ほぼ全面積で可変施肥を導入した。50haのほぼ全面積で実践しているとなると、肥料代だけで400万円以上減らせたことになる。

収量の増加は試験時がとりわけ好成績だったようで、10aで1万4771円増えたということを50haにそのままあてはめることはできない。それでも肥料の削減と収量の増加による経済効果は累計で500万円を超えるだろう。

この結果を受け、西上経営組合は可変施肥をてんさいのほかばれいしょと小麦でも導入した。経済効果ついては算出していない。ズコーシャが別の農家のところでそれを算出したところ、10a当たり1万4500円となった。

可変施肥機の価格は300~400万円と高額だ。ただ、これから規模が拡大することが確かな未来として到来するのであれば、導入を検討する余地があるのではないだろうか。


総合コンサルタント 株式会社ズコーシャ
【特集】北の大地の挑戦~スマート農業の先進地にみる可能性と課題
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  4. 大槻万須美
    大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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