二度目のお米はおいしい? 農家自身が語る「再生二期作」の食味と成果 【千葉県東庄町・いなさくたかやすの事例・前編】


一度稲刈りをした株から、もう一度お米が穫れるらしい

──そんな不思議な噂が、食に敏感な人たちの間で広まっています。

田植えをしない二度目のお米への期待は膨らむ一方で、
「そんなこと本当にできるの?」
「そのお米って美味しいの?」
「どれくらい収穫できるの?」
と、誰もが疑問に思うはず。

この消費者が知りたい問いに答えてくれる人がいました。千葉県東庄町(とうのしょうまち)で再生二期作に挑戦している、株式会社いなさく たかやすの髙安敏郎さんです。

誰もが気になる新しい栽培技術と、そのお米の品質について本音で語ってくれました。

株式会社いなさく たかやす 代表取締役の髙安敏郎さん(写真:SMART AGRI編集部)

再生二期作に踏み出せた理由 ──オプティムとの連携


取材に訪れたのは、千葉県のほぼ最東端、利根川河口近くに位置する香取郡東庄町。古くから利根川とその支流である黒部川の豊かな水に恵まれ、盛んに米づくりが行われてきた名産地です。髙安さんは同地で60haもの農地を3名の従業員と家族で経営する、米作りのプロフェッショナルです。

「この辺りは、基本的には粘土質の湿田です。ただ半数以上の田んぼには、1970年頃に利根川下流の浚渫工事で掘削土を田んぼに噴いたりして、土壌改良した歴史があります。ですから今でも作業をしていると貝殻が出てくる田んぼも少なくありません。一枚一枚の田んぼに個性があるんです!」と、髙安さんは語り始めました。

有名な早場米の産地であり、個性豊かな田んぼが広がるこの地で、髙安さんはなぜ再生二期作という新しい挑戦を始めたのでしょうか。その背景には、オプティムとの出会いがありました。

オプティムといえば、ITやAI、ドローンといった最先端技術で日本農業が抱える課題解決に取り組む「農業界の駆け込み寺」的な存在です。

「オプティムとのつながりは5年ほど前、AI解析とドローンを活用して必要な場所だけに農薬を散布する『ピンポイントタイム散布(PTS)』での防除が始まりでした。

当初は、『IT企業だし、僕ら農家とは縁の遠い存在だろう』と思っていました。ところが実際にお付き合いを始めてみると、スタッフは皆若くて農業への情熱がすごい! 僕が『こんなことをやってみたい』と相談すると、必ず『面白い、やってみましょう!』と返してくれて、一緒に汗をかいてくれるんです」

髙安さんが特に共感したのが、「スマートアグリフードプロジェクト」。AIやIoT技術を活用して付加価値の高い農産物を栽培し、販売まで支援する取り組みで、栽培したお米はオプティムが買い取り、自社ブランドとして展開しています。

こうした販売面での支援が、髙安さんの次なる一歩を後押ししました。


「再生二期作の米、買い取ってくれますか?」


他の地域で営農している知人から、「再生二期作は、想像以上に美味しいお米が獲れるよ」と聞いた髙安さんは、再生二期作に興味を持ちました。ただ、新しい栽培方法に取り組むには、販売面や作業面での不安もありました。そこでオプティムに相談したのです。

「もしも僕が再生二期作に挑戦したら、お米を買い取ってくれますか?」

このひとことが挑戦の始まりでした。

しかし、実際に取り組むには課題もありました。

「二期作目のための追肥を撒く時期は、他の田んぼの稲刈りの真っ最中にあたります。60haを経営する当社では、その時期に追肥作業まで手が回りません」

そこで髙安さんは、二期作目の追肥散布をオプティムに依頼できないか相談しました。オプティムも再生二期作という新たな取り組みに協力し、追肥散布を支援。販売面での安心感に加え、栽培面でのサポートも得られたことで、髙安さんは再生二期作への挑戦に踏み出したのです。


二期作目の米の食味は? ──農家の率直で意外な声


そうしてできたお米の品質は、実際のところどうだったのでしょうか。

「そもそも、当地は早場米産地で他の地域よりも早く田植えをしています。再生二期作では、通常よりもさらに早い田植えが重要。なので、例年よりさらに早い、4月12日頃に移植による早植えをしました。一期作目のお米は完璧! 早植えの悪影響は全くありませんでした」

一期作目は品質も収量も申し分なかったそうですが、やはり興味があるのは二期作目の出来。特に品質については一期作目よりも劣るであろうと予想していたそうです。

「二期作目は、一期作目と並べて見比べれば『微妙に小粒かな』と感じます。それでも、お米単体で見れば、作った僕ですら一期作目と二期作目を見分けることができるとは言い切れないくらい、十分に高品質なお米だと感じました。

実際に『ふるい』にかけて選別もしましたが、しっかりとした粒が残りました。米卸やお米専門店といったお米のプロでもない限り、違いはわからないでしょうね」

二期作目で収穫した米粒。品質は一期作目と特に違いがなかったという(写真:いなさくたかやす)
さらに注目したいのは、二期作目では“あること”を一切せず、省力的に栽培できたという点です。

「実は二期作目では、追肥はしたものの、防除は一切行いませんでした。あとはほとんど手をかけず、収穫まで様子を見るだけでした」

残念ながら、一期作目で一部の株が倒伏した影響もあり、二期作目の収量は一期作目の2割ほど。ですが、残留農薬は不検出で、スマート米の基準もクリアしています。今後は再生二期作で収穫したお米として、オプティムから販売される予定になっています。

一期作目の収穫後の田んぼ。倒伏した箇所からは再生していない(写真:オプティム)

再生二期作は広がるのか ──現場から見えた可能性


この再生二期作という技術は、「温暖化を逆手に取る」栽培方法でもあります。地球温暖化によって稲の生育可能な期間が長くなれば、再生二期作が可能な地域は東日本にまで広がると考えられているからです。

また、省力的な栽培が期待できる点も特徴の一つです。今回の取り組みでは、オプティムが担当したのは二期作目の生育調査をもとにした追肥のみ。結果として、防除を行うことなく収穫までたどり着くことができました。

田植えを控える2026年の圃場を前に土を確認する髙安さん。2回目の工夫も考えているという(写真:SMART AGRI編集部)
「現場での人手不足は続いていますし、資材費・肥料費も高止まりしています。日本農業の未来は、決して明るいとは言えません。だからこそ、省力的にお米を2回収穫できる再生二期作は、農家にとって希望の光だと思います。追肥の時期や量を変えたり、土づくりをもっと工夫したりと、まだ試してみたいことはたくさんあります。これからも挑戦していきますよ!」と、髙安さんはさらなる改善への意欲を見せてくれました。

取材の最後に髙安さんは、「スマート米のような舞台があるからこそ、僕たち農家は安心して新しい技術に挑戦できるのです。オプティムは本当にありがたい存在です」と話してくれました。その言葉からは、新しい栽培技術に挑戦するうえで、販売や栽培を支えるパートナーの存在が大きな支えになっていることがうかがえました。

新しい技術と髙安さんの熱意、それを受け止めたオプティム……こうして生まれたのが、この再生二期作のお米です。もしかしたら将来、私たちの食卓に当たり前のように再生二期作の二期作目が並ぶ日が来るかもしれません。


後編では、再生二期作の取り組みについて、農家目線からより具体的な栽培内容にさらにフォーカス。2026年の取り組みに向けた改善点や工夫についてもご紹介します。


【特集】水稲栽培のノウハウ集
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。