農業に転用したい自動運転技術「LiDAR」とは?【窪田新之助の農業コラム】

北海道鹿追町で2019年9月に開かれた、キャベツを自動で収穫したり鉄製コンテナを運搬したりするデモ機の視察会。直後のシンポジウムで、研究の代表を務める立命館大学理工学部の深尾隆則教授が紹介した光センサー技術「LiDAR(ライダー)」は印象的だった。

「ライダー」とは「Light Detection and Ranging」の略。レーザーを全方位に飛ばしてその散乱光や反射光を観測することで、周囲にある対象物の輪郭やそこまでの距離を把握する技術である。

この技術が昨今注目されているのは、自動車の自動運転において。一定の空間における障害物を検知し、事故を起こすことなく自動車を安全に走行させることが期待されている。自動車メーカーからの需要の高まりから、2025年には3000億円を超える市場になるという。

※写真はイメージです

フォークリフトの鉄コン検知に

トヨタグループと自動車の自動運転の技術を開発している深尾教授は、ライダーを農機の自動化に転用しようとしている。

その一つがロボットのフォークリフト。作業の流れに関する詳細は「北海道のスマート農業」をテーマにこれから始める連載に譲りたいが、ここで知ってもらいたいのは、このフォークリフトが畑の出入り口まで運搬してきたロボットの台車から鉄製コンテナをもらい受け、畑の外で待つトラックに運び込むまでの役割を持つことだ。

この時、フォークリフトに装備した「ライダー」が台車や鉄製コンテナ、人や障害物を検知。まるで眼があるかのように鉄製コンテナの輪郭を把握し、フォークを上下させながら上手にそれを載せた後、トラックまで運搬するといった作業を自動化することを目指している。


トラクターの自動走行で障害物の検知に

同じく十勝地方にある更別村も「ライダー」に注目している。同村は2018年度に内閣府「近未来技術等実装事業」に応募して採択された。同事業では地方創生に最新のテクノロジーを活用するため、省庁の壁を超えてさまざまな規制を緩和し、さまざまな実証試験ができる。

そこで同村が検討しているのが、「ライダー」をロボットトラクターに装着して、農地と農地の間を行き来させること。現行の道路交通法では人が乗車していないロボットトラクターの農地間の移動は認められていない。ただ、これが実現できないと、ロボットトラクターによる農作業の効率化は大して期待できない。

農林水産省は農機の自動化で3つの段階を想定している。その最終段階こそ無人で走行するロボットである。この時、人は農機に乗ることも圃場で見守ることもなく、遠隔地からモニター画面で監視するだけ。そんな世界を到来させるには、安全性の確保が第一に求められる。

もちろん農機メーカー各社は、障害物を検知するセンサーを開発中だ。ただ、わざわざ開発すれば時間も費用もかかる。先行している自動車の自動運転の技術を用いることができるなら、それに越したことはない、というのが同村の見解だ。

スマート農業の進展とともに農業ロボットの開発がさまざま始まっている中、ライダーはほかでも転用を検討していい技術かもしれない。


【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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