「シェアリングこそ、農業の未来を前向きにする鍵だ」23歳の実業家が示す『シェアグリ』という価値観

農業分野のみならず、昨今多く耳にする言葉に「シェアリング・エコノミー」というものがある。
インターネットを通じて、場所やスキル、物を共有することで成り立つ経済システムを指し、ここ数年で幅広い分野に波及している。
その新しいシステムを「人手のシェアリング」という形で、農業界に提示するのが「シェアグリ」というサービスだ。

今回は株式会社シェアグリにインタビューを行った。そこで語られたのは、今まで誰も話してこなかった「前向きな日本の農業の姿」だった。


農業人材のシェアリング&マッチングサービス「シェアグリ」


取材現場に現れたのは、想像以上に若々しい代表取締役社長、井出飛悠人氏。年齢を聞くと23歳、2019年に大学を卒業したばかりだという。シェアグリが企業としてスタートしたのは2018年のこと。つまりリリース当時、井出氏は大学生だったというのだ。

どうしても気になってしまう井出氏の人物像だが、まずは改めてシェアグリのサービスを振り返りたい。


シェアグリは、農業体験に興味を持つユーザーと、農家の短期雇用をマッチングする農業人材シェアリングサービスだ。繁忙期に人手を必要としている農家と、農業に興味のあるユーザーを結びつけることを目的としており、誰もが農業をもっと身近に感じられるような世界を目指している。

農家はスマートフォンアプリ内にて作業者を「超短期求人」として募集でき、シェアグリ利用者は興味のある求人に問い合わせる。互いの条件が合えばマッチング完了で、農家は人手を確保し、利用者は農作業を通じて給与が支払われるという仕組みだ。
2019年現在、アプリに登録している生産者およびユーザーは併せて1,500人。登録農家も全国的に徐々に増加中という。



「今こそ農業を変えたい」種苗会社4代目の決心


「私の実家は長野県・佐久市で代々続く種苗会社なのです。今は祖父と父が経営をしていますが、将来的には私も継いでいきたいと考えています」

実は種苗会社の4代目にあたるという井出氏。祖父、父の背中越しに見えてきた家業の経営および日本の農業は、業界を通じた年間スケジュールや関与する団体や企業、業界内における金銭的な動きなど、昔から形を変えないものだったという。

「家業を継ぎたいという希望がありながらも、今のままでは、これまでと同様に変わることのない会社経営となってしまうと危機感がありました」

井出氏曰く、王道とされる跡継ぎのルートは、大学卒業後に農業関連の企業に勤め、実績とキャリアを作ったのちに跡を継ぐというものだった。しかし井出氏は、今までに全くなかった道のりを歩み始めた。それが現在のシェアグリの源流にある、「農業×シェアリング」という新たなビジネスモデルだ。


シェアリング精神は、高校時代の寮生活より


大学では農学部に所属しながら、人工衛星を利用した農業分野のリモートセンシングについて研究していたという。自身の専門分野に特化し、当初取り組もうと思ったのが農機具のシェアリングサービスだった。

「農業に限らず上の世代を見ていて、“モノを所有するために働く”という感覚を色濃く感じました」

例えば、農業分野においては、年に数回しか使わない農機具であっても、個人が所有する傾向にある。気象条件など不確定要素の多い産業だからこそ、いつでも自分が使いたいタイミングで利用できるのは最大のメリットだが、非常に高額な機器を購入するために借金をするという従来の形に疑問を抱いたと語る。

「所有せずにシェアすることで、多くの農家がより幸せになれるのならば、そちらの方がいいと思うんです。私が研究していたリモートセンシングの技術を活用し、所有することでしか解決できなかった課題を紐解こうと考えていました」

それが当初の構想にあった「農機具のシェアリングサービス」だった。

そもそも井出氏がシェアリングという考え方に出会ったのはいつだったのか? という質問には、首を傾げながら「何かの出来事で決定的に出会ったというわけではないんですよね……」と呟く。「強いて挙げるとするならば……」と教えてくれたのは、高校のサッカー部時代の体験だった。

「私はずっとサッカーをしており、年始に行われる高校サッカー選手権大会に出場するレベルの強豪校へ進学したんです。なので高校1年生から寮に住んでおり、部屋も家電も何もかも仲間と分け合って暮らすような生活を送っていました。そんなライフスタイルがいつしか普通になり、かつ『合理的でいいな』と感じるようになったのです」

シェアリングの価値観は井出氏にとって日常的なものとなり、卒業後もシェアハウスに住むなど、実践してきた。

「それまで、『労働』はモノを所有するためだったものが、シェアリングという考え方を通して見ると、全く違うように見えてくるんです」

彼がそう示すように、現在カーシェアやシェアハウス、シェアオフィスといった「シェアリングエコノミー」という考え方は、社会全体に浸透しつつある。だからこそ「農業界にも新風を」と、農業界に飛び込んだ。しかし、農業は想定以上に旧態依然だったという。

「思っていたよりも農機具のシェアリングは受け入れられず、難色を示されるケースばかりでした……」


農家と語らい知った、彼らが本当に困っていること


ヒアリングを続けるも想定以上に話は難航した。だが、農家や農協、地域商社の話を聞き続けていくうちに気付いたことがある。それが「時期的な人手不足」という問題だった。

「ご存じの通り、農家には閑散期と繁忙期があり、育てる農作物によっても違ってきます。例えばお米農家だと、田植え時期や収穫時期が繁忙期にあたりますね。そのときは親族や近所の方を援農という形で呼んで、大勢で作業を進めるのです」

だが現実には、都市部への人口流出や農業人口の高齢化といった国内農業の課題により、慢性的な人手不足に陥っているのだ。

「そこで結びついたのが、『人手のシェアリング』という考え方でした」

直接話を聞くことで見えてきた「農家が本当に困っていること」。現場が導いた先こそ、シェアグリの原型だったのだ。


その後、ソーシャルメディアとシェアリング・エコノミーで課題解決を目指すスタートアップ企業、株式会社ガイアックスが主催するコンペ「スタートアップスタジオ」にシェアグリのコンセプトを持ち込んだところ、見事資金調達に成功。トントン拍子でリリースする運びとなった。

「このスピード感は当初全く想定してませんでした。タイミングと良い出会いがあったからこそです」


シェアグリの世界観は「おばあ×学生」


2020年1月時点でシェアグリの利用者は、農家と援農側を合わせて1500人にのぼる。その中で農家として登録している人の平均年齢は35歳、援農側の平均年齢はなんと29歳だという。日本の農業界では決して聞くことのなかった平均年齢の若さに、筆者は驚きを隠せなかった。

シェアグリではもちろん、労働の対価として各農家が設定した報酬が支払われる。だが、このサービスの醍醐味はここではない。

「全国各地の農家さんと、普段は農業と交わることのなかった人々が出会える場所がシェアグリなんです」


彼が思い描く世界観を具体的に体現しているコミュニティが沖縄県にあるという。それが有機栽培でマンゴーを育てるひとりの高齢女性農家と、シェアグリを通じて彼女を支える琉球大学の学生たちだ。

「マンゴーを育てているその“おばあ”は、慢性的に人手が足りない状態でした。そこへ手伝いに駆けつけたのが近くに住まう学生たち。授業の空きコマにおばあの元へ行って、農作業はもちろん、時にはパソコンやスマホの使い方などを教えたそうです。そこには金銭的な繋がりを超えた、ひとつのコミュニティがあると感じました」

それは世代や業種、立場を飛び越える手段としての農業、そして援農という形だ。農家にとって、人手が増えることは間違いなく助かる。しかし援農側へもたらす恩恵も多大だ。普段の生活では出会うことのできなかったフィールドや人と関われることで、従来の形では生まれることのなかった関係性が誕生するからだ。

人手をシェアリングすることは、都市と地方の関係人口のみならず、世代間や業種間の関係人口さえ生み出してしまう。シェアグリの真髄は、まさにここにある。


未来の農業は、皆でシェアすることで完成する


2018年に走りだしたばかりのシェアグリだが、思い描いているのは10年、20年、そしてずっと先の未来だ。

「まずシェアグリのミッションとして、『誰もが気軽に使えるようなサービスとなり、もっと流動的に人材が動くこと』が挙げられます。農家さん側も人手を囲うことなく、援農側も好きな農家さんを応援できるような世界観の構築です」

達成することでまず解決に近づくのは人手不足の問題だ。しかし、シェアグリの力だけでは、今の農業は変えられないと井出氏は言う。

「私は企業の在り方にも、シェアリングという考え方を用いて考えています。ひとつの大企業がすべての分野をフォローするのではなく、それぞれの分野に特化した中小企業が連携し、ひとつの業界を支えるような構図です」

だからこそ井出氏は、自らが描く世界観に共感する企業と手を取り合って、日本の農業を支え、変革をもたらしたいというのだ。

理想の世界観を語りながらも、鋭い慧眼の持ち主でもある井出氏は20年先をこう語る。

「おそらくその頃には、生産現場として野菜工場が主流になり、より効率的で安定的な供給が実現されていると思います。だからこそ、実際に土をさわって作物を育てる『農業』は、より哲学的なものになっているでしょう」

そんな未来がやってきたときに、シェアグリが問いかけたいのは「農業をそばに感じられているか? 」ということ。だからこそ、シェアリング通じて、世代間や業種を乗り越えた“農業”という営みを培うのだ。

取材しながら最も印象的だったのが、シェアグリはもちろん井出氏が、冷静に、そして前向きに未来を捉えていることだった。

スマート農業において多く語られがちなのが、既存の課題を最新の技術で解決することだった。シェアグリも人手不足解消という点で貢献しているが、課題解決は彼らの通過点に過ぎない。

これからさらに加速するであろうスマート農業化の波を見通し、農業と人の新たな関わり方を探る。新世代による農業革命の狼煙が上がった——そう感じずにはいられなかった。



株式会社シェアグリ
https://sharagri.studio.design/

【連載】スマート農業に挑む企業たち
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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  2. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX(現在登記準備中)を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  3. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  4. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  5. 藤本一志
    ふじもとかずし。大学・大学院の6年間を通して地域づくりと農業の活動に関わる。1年間のサラリーマン生活の後、学生時代から活動していた地域に移住し、2拠点居住を開始する。移住支援を通じた地域づくり活動に取り組む傍ら、兼業農家として稲作に取り組む。