ITを活用して流通日数をわずか1日に短縮した農業ベンチャー 〜農業総合研究所【前編】
青果物の流通業界では近年になって新規参入が相次ぎ、従来の市場流通とは別のルートを開拓して、農家に売り先の選択肢を増やしている。
各社どんな事業を展開しているのか。まずは先駆者ともいえる農業総合研究所を紹介したい。
(写真提供:農業総合研究所)
産地で畑の近くの集荷場に届いてから都市部にあるスーパーの店頭に並ぶまでJAから卸、仲卸を経由するという一般的な方法だと3~4日かかるからである。
もっと短縮できないか――。
消費者だけではなくスーパーや農家のそろっての願いを叶えたのは、及川智正氏が2007年に「ITを活用して農産物の流通に変革を起こす」ために設立した株式会社農業総合研究所(和歌山市)。従来の流通ルートを省くことで、流通日数を1日にまで縮めたというから画期的である。
2016年に農業ベンチャーとして初の上場を果たした農業総合研究所。その主要事業こそがスーパーにインショップを置き、農家から集荷した農産物を委託販売する「農家の直売所」である。
集荷場や流通網は自社で構築し、前日あるいは当日の朝に取れたばかりの青果物を翌日の開店時には各店舗に並べる。都市部で農産物を売るのに八百屋を開かずスーパーのインショップにした大きな理由は集客力。スーパーなら肉や魚など食材が豊富にそろっているので、直売所を開くにはうってつけだと判断した。
自社の集荷場を北は北海道から南は沖縄まで全国31道府県に92カ所備える。主要な取引先はイオンやサミット、阪急オアシス、リテールストア、いなげや、コーナン商事、ダイエー、ヤオコー、ヨークベニマル、イズミヤ、小田急商事、西友、平和堂、東急ストアなど数えれば切りがない。
関係者のメリットを整理しておこう。
農家は自分の判断で規格や価格などを決められ、販路の拡大も含めて所得の向上が図れる。では、実際にどの程度儲かるのか。
農業総合研究所の試算によれば、一般的な市場流通の場合、たとえば末端価格が100円であれば農家の手取りは30円。対して「農家の直売所」であれば末端価格は95円で農家の手取りは60円になる。
この説明に関しては2点留意してもらいたい。
まず末端価格が「農家の直売所」の場合に100円ではなく95円に設定しているのは、「会員の農家はスーパーの通常の棚に置いてある同じ品目の野菜よりも少し安く価格を設定する傾向にあるから」とのこと。要は、自分の商品を買ってもらえるように価格で差をつけようとするからだ。
2点目の留意点は、JAではなく「農家の直売所」に出荷する場合、選別や包装、箱詰めなどは農家が自らしなければならないということ。この手間を経費として差し引けば、「農家の直売所」の農家の手取りと市場流通の手取りとの差は多少縮まる。
市場に出荷する場合、そもそも流通が多段階にわたっていて日数がかかるほか、途中段階で留め置かれることもよくある。農家はそれを見込んで完熟の状態ではなく、少し早い時期に収穫する。結果、美味しさは損なわれてしまう。
それが農業総合研究所の流通なら、集荷場から店舗までの流通にかかる日数が1日と決まっている。これについて坂本大輔取締役は次のように強調する。
農業総合研究所 坂本大輔取締役(写真:窪田新之助)
「農家にとっては店頭に並ぶまでの時間を逆算できるので、鮮度、熟度ともに一番美味しい状態の青果物を消費者にお届けできます。それは農家のやりがいにもつながるわけです」
スーパーにとっても鮮度のいい青果物を扱うインショップがあることで集客力を上げることができる。
いずれの数字も右肩上がりで増えてきていることからも、農家にもスーパーにも消費者にも支持されていることがわかる。
それにしても市場を経由せずにこれだけの規模の流通をどうやって実現させているのか。さらに商品の管理や安全の担保はどうしているのか。
これに関しては、「ITを活用して農産物の流通に変革を起こす」ことを理念に掲げるだけに、データが大いに活用されている。次回紹介したい。
株式会社農業総合研究所
https://www.nousouken.co.jp/
各社どんな事業を展開しているのか。まずは先駆者ともいえる農業総合研究所を紹介したい。
(写真提供:農業総合研究所)
従来の流通日数3~4日を1日に短縮
野菜の美味しさを大きく左右するのは鮮度だ。農村であれば親戚や知人、あるいは直売所で新鮮な野菜は手に入りやすい。ただ、都市部だとなかなかそうはいかなかった。産地で畑の近くの集荷場に届いてから都市部にあるスーパーの店頭に並ぶまでJAから卸、仲卸を経由するという一般的な方法だと3~4日かかるからである。
もっと短縮できないか――。
消費者だけではなくスーパーや農家のそろっての願いを叶えたのは、及川智正氏が2007年に「ITを活用して農産物の流通に変革を起こす」ために設立した株式会社農業総合研究所(和歌山市)。従来の流通ルートを省くことで、流通日数を1日にまで縮めたというから画期的である。
2016年に農業ベンチャーとして初の上場を果たした農業総合研究所。その主要事業こそがスーパーにインショップを置き、農家から集荷した農産物を委託販売する「農家の直売所」である。
集荷場や流通網は自社で構築し、前日あるいは当日の朝に取れたばかりの青果物を翌日の開店時には各店舗に並べる。都市部で農産物を売るのに八百屋を開かずスーパーのインショップにした大きな理由は集客力。スーパーなら肉や魚など食材が豊富にそろっているので、直売所を開くにはうってつけだと判断した。
自社の集荷場を北は北海道から南は沖縄まで全国31道府県に92カ所備える。主要な取引先はイオンやサミット、阪急オアシス、リテールストア、いなげや、コーナン商事、ダイエー、ヤオコー、ヨークベニマル、イズミヤ、小田急商事、西友、平和堂、東急ストアなど数えれば切りがない。
市場流通にかかる経費分を農家の手取りアップに
関係者のメリットを整理しておこう。
農家は自分の判断で規格や価格などを決められ、販路の拡大も含めて所得の向上が図れる。では、実際にどの程度儲かるのか。
農業総合研究所の試算によれば、一般的な市場流通の場合、たとえば末端価格が100円であれば農家の手取りは30円。対して「農家の直売所」であれば末端価格は95円で農家の手取りは60円になる。
この説明に関しては2点留意してもらいたい。
まず末端価格が「農家の直売所」の場合に100円ではなく95円に設定しているのは、「会員の農家はスーパーの通常の棚に置いてある同じ品目の野菜よりも少し安く価格を設定する傾向にあるから」とのこと。要は、自分の商品を買ってもらえるように価格で差をつけようとするからだ。
2点目の留意点は、JAではなく「農家の直売所」に出荷する場合、選別や包装、箱詰めなどは農家が自らしなければならないということ。この手間を経費として差し引けば、「農家の直売所」の農家の手取りと市場流通の手取りとの差は多少縮まる。
新鮮な野菜を届けることは「やりがい」に繋がる
もう一つ強調したいのは、流通にかかる日数が1日で済むことで、農家のやる気につながるということだ。市場に出荷する場合、そもそも流通が多段階にわたっていて日数がかかるほか、途中段階で留め置かれることもよくある。農家はそれを見込んで完熟の状態ではなく、少し早い時期に収穫する。結果、美味しさは損なわれてしまう。
それが農業総合研究所の流通なら、集荷場から店舗までの流通にかかる日数が1日と決まっている。これについて坂本大輔取締役は次のように強調する。
農業総合研究所 坂本大輔取締役(写真:窪田新之助)
「農家にとっては店頭に並ぶまでの時間を逆算できるので、鮮度、熟度ともに一番美味しい状態の青果物を消費者にお届けできます。それは農家のやりがいにもつながるわけです」
スーパーにとっても鮮度のいい青果物を扱うインショップがあることで集客力を上げることができる。
ITを活用した農産物流通の新しいかたち
2020年2月末現在、会員の農家は8850戸、取引先の店舗数は1536店舗。2019年通期での物流総額は96億円、売上高は31億円になる。いずれの数字も右肩上がりで増えてきていることからも、農家にもスーパーにも消費者にも支持されていることがわかる。
それにしても市場を経由せずにこれだけの規模の流通をどうやって実現させているのか。さらに商品の管理や安全の担保はどうしているのか。
これに関しては、「ITを活用して農産物の流通に変革を起こす」ことを理念に掲げるだけに、データが大いに活用されている。次回紹介したい。
株式会社農業総合研究所
https://www.nousouken.co.jp/
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