農業用ドローンで農業の就労構造を変えていく──株式会社エンルート

スマート農業スマートアグリ)に取り組んでいる農業関連企業の数は、年々増加してきている。そのいずれもが、農家や日本の農業のために工夫を凝らした製品やソリューションを生み出してきている。

そこで今回より、スマート農業に取り組んでいる企業を訪問し、スマート農業に取り組んだきっかけやサービスを紹介していく。

第1回は、農業用ドローンの国内メーカーとしてトップシェアを誇る株式会社エンルートを訪問した。

スマート農業において欠かせないドローン技術。現在最も盛り上がっている分野のひとつで、近い将来には自動航行化が実現すると言われている。

農業用ドローンのフロントランナー

取材当日、インタビューのために通された会議室の中央には巨大なドローンが置かれていた。全幅1530mm、機体重量11.9kg。まず驚かされたのは、そのスケールだ。

「こちらはAC1500という機体です。1ha分の液剤散布をわずか10分で完了できます」

そう話すのは代表取締役社長の瀧川正晴氏。エンルートでリリースしている農業用ドローンは2種類ある。ひとつがこの「AC1500」で、9kgの液剤を搭載できる大型ドローンだ。全長は大きいが、アームを折りたたむことで軽トラックの荷台に積み込みでき、離れた圃場にも持っていくことが可能。「AC1500」よりも一回り小さい「AC940D」は狭小地での機動性を発揮し、小規模の農耕地で活躍する。両者とも人の手では叶わなかった効率的な薬剤散布を可能にする画期的な機体だ。

株式会社エンルート 代表取締役社長の瀧川正晴氏

「農業用ドローンが普及する前までは、無人ヘリコプターが主流でした。『AC1500』も大きいように感じますが、無人ヘリの場合は全長3mで重さは110kg、値段も1000万円以上とドローンとは比較にならないほど高価です」

エンルートが農業用ドローン分野に着手したのは2013年頃のこと。それまでエンルートでは測量用や災害用といった産業ドローンを中心に開発・製造してきた。農業分野はまだ各社未開拓だった当時、それまで無人ヘリで農薬散布を請け負ってきた事業者から「農業用ドローンを開発してくれないか」と、提案されたのがはじまりだったという。

「多くの農家さんが『農薬散布の肝はタイミング』だと話されます。つまり、小回りが利くことが大切なのです。事業者に委託する場合は事前予約をしなければならないため、気象条件が変わり、適切なタイミングに散布できない事態も発生していました」(瀧川氏)

そうして2014年に農業用ドローンを開発。これが国内の農業分野におけるドローン事業の第一歩だった。以来、エンルートをはじめ国内外の農機具メーカーやドローンメーカーが開発に乗り出し、現在の市場規模まで到達したのである。

「第一に使い勝手」日々進化するドローン技術

無人ヘリとは対照的に、ドローン所有者の多くは個人での農家だという。散布したいときに行える手軽さや、手作業では実現できなかった効率性で成果を上げながらも、さらなる使いやすさと安全性の向上を目指し、エンルートでは日々アップデートを図っている。

「農家さんからの要望で一番多いのは、やはりバッテリーの持ち時間についてですね」

と話すのは、農業機開発チーム兼ソフトウェア開発部の吉田聖氏だ。実際にドローンを使用する農家の声をまとめあげ、ハード・ソフト両面からの開発研究を進めている。

開発本部 機体開発運用部 農業機開発チーム兼ソフトウェア開発部の吉田聖氏

「飛行可能時間についてはドローンメーカー各社がしのぎを削っている部分ですね。積載重量とバッテリー容量という縛りがある中で、最大のパフォーマンスを発揮するには機体本体の重量を軽くしなければなりません。しかし安全性を損ねてはならないため、耐久性も確保する……それぞれのバランスを保ちながら最高のクオリティを目指し、試作とテストを繰り返しています」

と、少々難しい話もありながら、「農家さんが第一に使い勝手がいいと感じてもらえれば」とユニークな工夫も教えてくれた。

「例えば2019年モデルから、ドローンを収納するケースが金属製のケース(ジュラルミンケース)から折りたたみ可能な強化段ボールに変わりました。ケース未使用時にはコンパクトに収納できるなど、取り回しがより楽になりました」

他にも、ワンタッチでバッテリーを交換できる新設計のキャノピーや折りたたみ式のプロペラ、操縦の肝となる離着陸をアシストする機能など、2019年の最新モデルには手軽さと安全性にこだわった機能が満載だ。

「年に数日しか使わない農家さんもいるからこそ、手軽かつ安全に使用できることが大切だと考えています。今後もヒアリングを続けながら、よりよいものに改良していきたいですね」(吉田氏)

ちなみに個人の農家が農業用ドローンを導入したいと考えた際には、一体どのような手続きが必要なのだろうか。

「まずは最寄りの代理店で機種の説明や、ドローンオペレーター講習の詳しい話を聞いてみてください。導入が決まったら3日間の講習を受け認定書を取得し、各書類を提出。その後でいよいよ購入という流れになります」

導入の手続きを行うのは休耕期間がオススメだという。講習や購入、操作方法の確認を閑散期に済ませてしまい、翌年の田植えと同時に運用開始するのがスムーズだ。

自動航行にAI技術との融合──加速するスマート農業

農業用ドローンと聞いて未来を感じていたのも束の間、業界内にはすでに自動航行の機運が高まっているという。

「エンルートからも来年度(2020年)には自動航行機能が搭載されたドローンが登場する予定です」と瀧川氏も語った。そう、はるか遠い未来の話だと思っていた先進的なスマート農業が、実はもうすぐそこまで来ているのだ。

「今年の4月から、GPSに対応したドローンとAI技術を掛け合わせた、スマート営農ソリューションの実証実験がはじまりました」

代表取締役副社長の井上智之氏が話すのは、NTTグループとふくしま未来農業協同組合、日本農薬株式会社が協働するスマート農業化に向けたプロジェクトだ。準天頂衛星みちびきに対応したドローンとAI技術を活用し、農作物の収量増加と品質向上を図る。

代表取締役副社長の井上智之氏

さらに、エンルートの取り組みはハード面のみに留まらない。吉田氏は「農家さんの負荷を軽くするため」のソフト面からのアプローチも教えてくれた。

「現在多くの企業や団体と手を組んで、ITソリューション的な分野でも働きかけをしています。弊社の目標は『スマート農業に対する農家さんの敷居を下げる』ことです」

例えば、ドローンによる画像分析の事例でよく見かける、生育状況や温度によって色分けされたマップがあるが、これを渡された農家が、次に何をすべきかがピンとこないことも多いだろう。最新技術が生み出した結果を農作業へ確実に落とし込むため、「農家の目線」で共に活用方法を考えていくのが目的だ。

「データの蓄積はもちろん継続していますが、現在の技術力では、まだまだ農家さんに積極的に使い込んでもらう必要性があります。そのため農家さんが少しでも快適に挑戦できるよう、サポートの在り方を追求することも私たちの役割です」(吉田氏)

就労構造の革命に向けて、エンルートが見据える未来

農業用ドローンの先駆者として業界を牽引してきたエンルート。ICTやAIの活用などスマート農業化が加速度的に進む中で、企業としてどんな未来の形を目指しているのか。

「第一に言われるのは、農業従事者の高齢化問題の解決です。だからこそ、若い世代を増やすことが、現代農業の命題でしょう。その中で農業用ドローンは、従来のイメージをガラリと変化させる可能性を持っています。ボタン一つで安全に効率的に農作業が行える、それだけで就農するきっかけにもなりうると思いますし、何より就労構造ががらりと変わるのではないでしょうか」

あらためて問いかけた中で、瀧川氏の言う「就労構造を変える」という言葉が印象的だった。農業における技術革新は、可視化できる成果物のみならず、業界全体に流入する世代や業種の変化をももたらすと語る。

「それを見据えつつ、まずは機体の軽量化と、バッテリー持続可能時間を改善すること。さらに今後は操縦も自動化の流れをたどるため、使用者の誰もが安心できるように日々アップデートしていきたいですね」(井上氏)

目前の課題としての軽量化や自動航行化。それは先に見据えた「就労構造革命」がもたらす未来のスマート農業に繋がっているのだ。ドローンのように上空から一次産業を見渡している企業こそ、エンルートであった。

<参考URL>
株式会社エンルート
準天頂衛星みちびき対応ドローンとNTTグループのAI技術を活用したスマート営農ソリューション実証実験に参加(エンルート ニュースリリース)

【連載】スマート農業に挑む企業たち
  • 農業用ドローンで農業の就労構造を変えていく──株式会社エンルート
ドローンパイロットシェアリングサービス
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WRITER LIST

  1. 大坪雅喜
    おおつぼまさのぶ。1973年長崎県佐世保市生まれ。FARM DOI 21代表(農業者)・アグリアーティスト。 早稲田大学第一文学部史学科考古学専修卒業。学生時代に考古学、水中写真、自然農という世界を覗き込む。2006年9月、義父が営む農業の後継者として福岡県大川の地で就農。農業に誇りを持ち、未来には普通となるような農業の仕組みやサービス(カタチ)を創造していくイノベーションを巻き起こしたいと考える。縁のある大切な人たち(家族)と過ごす物心ともに満たされた暮らしの実現こそが農業経営の最終的な目的。現在、佐賀大学大学院 農学研究科 特別の課程 農業版MOT 在籍中。
  2. 柴田真希
    管理栄養士。㈱エミッシュ代表取締役。Love Table Labo.代表。27年間悩み続けた便秘を3日で治した雑穀や米食の素晴らしさを広めるべく、雑穀のブランド「美穀小町」を立ち上げる。現在はお料理コーナーの番組出演をはじめ、各種出版・WEB媒体にレシピ・コラムを掲載する他、食品メー カーや飲食店のメニュー開発やプロデュースなどを手がける。『私は「炭水化物」を食べてキレイにやせました。』(世界文化社)、『はじめての酵素玄米』(キラジェンヌ)など著書多数。
  3. 大城実結
    おおしろ みゆう。フリーランス編集ライター、大城文筆事務所所長。一次産業ほか地域文化、アウトドアなどお天道様系分野を専門に編集・執筆している。自転車で鍛えた脚力を活かし、農家さんのお手伝いをしながらインタビュー取材を積極的に行う。玉掛け免許と床上式操作クレーン免許所持。
  4. 井中優治
    いちゅうゆうじ。株式会社収穫祭ベジプロモーター。福岡県農業大学校卒。オランダで1年農業研修。元広告代理店勤務を経て、新規就農6年目。令和元年5月7日に株式会社収穫祭を創業。主に農業現場の声や九州のイベント情報などを発信している。
  5. 中田馨
    一般社団法人 離乳食インストラクター協会代表理事、中田家庭保育所 施設長。息子が離乳食を食べてくれないという経験から、離乳食に興味を持つ。保育士目線の離乳食講座は5年で3000人が受講。黄金色のかつお昆布だしから作られる「和の離乳食」を推奨している。

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