農家の確定申告に革命を! 「freee」が目指す「農家が農業に集中できる世界」

年が明けと同時に、多くの個人事業の農家が頭を抱えるイベントがある。

農家として生計を立てている以上、避けては通れない作業──「確定申告」だ。

農業経営者ならば申告は必須だが、日々の帳簿付けや確定申告書類の作成は煩雑と同時に専門性も高く、精神的にもかなり気が重いのがまた事実。

……というような現状に一石を投じたのが、「会計freee」(フリー)という会計ソフトだ。

会計freeeは個人事業主から500名規模の法人までを対象とした、クラウド型の会計ソフトサービス。「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、2013年よりサービスを開始した。PCのみならずスマホやタブレットで帳簿づけできる気軽さや、経理の専門知識を有していなくても簡単に利用できる設計が人気を博し、利用者は年々増加。2019年12月に東証マザーズに上場した。

そんな会計freeeから農家向けのサービスがリリースされているのをご存じだろうか?

「農家の確定申告もかなり面倒くさいものです。だからこそ経理工数を削減して、本業に集中してもらいたい。そう考えて開発を進めました」と、答えてくれたのは、freee株式会社 ユーザー事業本部 個人事業部に所属する森成徳さん。


農家の確定申告の実情から、これからのスマートな農業経営まで、会計ソフト界における新進気鋭のブレーンにインタビューした。

”農業用”クラウド型会計ソフトとは?


そもそも聞き慣れない「農業用クラウド型会計ソフト」という言葉だが、既存の会計サービスと一体どのような違いがあるのだろうか。

大きく分けてポイントは四つあると森さん。全ての要素が、”会計処理の心理的負担を軽くする”という最終目的へ一貫しているのが特長だ。



「まず一つ目のポイントとして、クラウド型という点が挙げられます。今までのPC用の会計ソフトの多くはダウンロード式といって、システムをパソコンにダウンロードし使用するタイプが主流でした。しかし会計freeeは、ブラウザもしくはスマートフォンのアプリ上で操作します。そのため、記入したデータは全てクラウドに同期され、どの端末からも最新の数字を確認できるのです」

森さん曰く、例えば家のPCで入力した数字を、出先からスマホで確認でき、帳簿付けが発生する買い物をした直後に、スマホやタブレットから入力できるようにもなるのだ。このことにより、ユーザーはまるで家計簿アプリを操作している感覚で、簡単に帳簿付けができる。

二つ目に登録した銀行口座やクレジットカードの入出金を自動で取り込み、仕訳を自動化したという点が挙げられる。このことにより、今まで紙の領収書をアナログで手入力していた作業工数を、大幅に削減した。

ここまでが他業種とも共通する会計freeeの強みだ。

”農業用”として活躍するのは三つ目の「農業用勘定科目の設定」と、四つ目の農業所得の決算書作成に対応したという点が該当する。

「会計freeeでは2018年度より農業会計を専門に行う『農業モード』を実装しました。これにより、農業所得の決算書を楽々作成できるようになりました」

クラウド型の会計ソフト、農業決算書を作成できるソフト、それぞれ別々のサービスとして存在していたものの、この四ポイント全てを兼ね備えたサービスは、第一線を駆け抜けてきたfreeeだからこそなし得たと言えよう。

このように推薦したいポイントはたくさんあるものの、最も注目すべきはUI(ユーザーインターフェイス)と森さんは語る。

「会計freeeの最大の特長は、専門知識を持っていなくても簡単に操作できるソフト設計という部分ですね。他の会計ソフトだと、機能的に便利ではあっても、簿記の知識がある程度必要となってしまうケースもあります。その点、freeeは知識がない方でも、バックオフィスの工数削減に役立つと思います」


「楽に、簡単に」が農業経営を底から支える


ここまで森さんが「より楽に、簡単に」と唱える会計ソフトだが、実際に導入することによる具体的なメリットはどのようなものなのか。
インタビューを通じて見えてきたのは、日々の小さな業務改善が最終的に農業経営の健全化へつながるということだった。

年内着地を知り、節税対策を


「こちらを見てください」

と森さんが見せてくれたのは、年間を通じてインターネットで検索されるワードのボリューム数「Google Trends」のグラフだった。


その中で「確定申告」という文字は、年明けの1月から急激に伸びはじめ、確定申告の提出期限まで凄まじい検索ボリュームを記録していた。

「農家さんはもちろん、一般の方々も年明けから確定申告準備をされている方が多いというのが現状です。理想を言うならば、年内に今年の見通しを立てておき、着地予想をしておけば、利益分を積極的に設備投資へ回すなどして節税効果を得ることもできます」

それでもなぜ、人々は着地予想をできていないのか。答えは「とにかく後回しになってしまうから」だという。

「その現状を打破するのがfreeeです。日々、しっかりと帳簿付けし、年内の売り上げを確認できていれば、健全で賢い経営判断ができるようになります」


さらには、今年度から始まった軽減税率も非常に複雑で、例年よりも処理で戸惑うことが予想される。会計freeeでは最新の税制にも対応しているとのことで、今年度より導入するというのも良いタイミングかもしれない。

複数の直販サイトとの取引があっても、会計処理はシンプルに


また昨今、生産者と消費者を直接結ぶECサイトも急激に増えつつあり、複数のサイトへ卸すケースも考えられる。そうした場合に、紙ベースによるアナログ処理だと、経理部分がかなり煩雑なものとなってしまう。

「『農家として個性を出したい』と考えている方が、活躍しやすい環境となってきました。だからこそバックオフィスの業務が負担になってはいけません」

freeeであれば一括して処理が可能。自身が目指す事業展開がより、現実味を帯びるというのだ。


青色申告で農家として事業拡大を


農家に限った話ではないが、申告方法として主に『白色申告』と『青色申告』の2つがある。

白色申告は記帳方法は簡易記帳で、提出する決算書は不要。一方、青色申告は控除額が最大65万円となるが、それを得るためは複式簿記で貸借対照表と損益計算書といった決算書類の作成が必要となる。

パッと聞いただけでも、青色申告は耳慣れない単語がみっちり並び、反射的に頭が痛くなってしまう。だが、控除額のみならず受けられる恩恵はかなり大きい。
専従者の給与額を必要経費として算入できたり、損失額の繰越ができる。事業の安定的な経営という観点から考えると、積極的に青色申告をしていきたいものだが、実情はなかなか厳しいと森さん。

しかし農業分野に限っただけでも、青色申告を行うことで得られるメリットはかなり大きいことが分かる。

「農業経営者のみなさん 青色申告を始めましょう」リーフレット|農林水産省より

一例として農林水産省が施行している農家向けの「収入保険」が挙げられる。加入者は保険期間の収入が基準収入の9割を下回った場合に、下回った額の9割を上限として補填されるというもので、加入条件として、過去1年分の青色申告書類を提出する必要がある。

さらに農家向けの税制上の特別措置「農業経営基盤強化準備金制度」も青色申告を行うことによって受けられる。これは農業経営改善計画に従い、交付金を準備金として積み立てた場合、必要経費に算入できるというもので、節税対策として大きな切り札となる。

千里の道も一歩からを体現しているように、日々の小さな積み重ねこそ、将来的な経営の健全化につながっているのだ。


代替わりのタイミングで導入する人も


2018年度より始動した会計freeeの農業モードだが、構想はリリースのずっと前から動き出しており、ようやく満を持してサービス開始にこぎ着けたという。

「農家さんは一般的な確定申告とは異なり農業用決算書へ記入する必要性があります。開発を進める中で、直接農家さんにヒアリングを重ね、ようやく皆さんに利用していただける段階となりました」

利用者の年齢層は50代以下の若年層がメインを占めており、先代から経営権を譲渡された方も多いという。

「具体的に言えば、先代からお財布を譲り受けたタイミングですね」

経営知識は要らないというものの、デジタルでの金銭管理から疎い人にとっては、導入はじめのハードルはなかなか高いかもしれない。それでも「安心してほしい」と森さん。

「もし操作に不安があるのであれば、freee農業モードの使い方ヘルプページをご覧ください。またYouTubeチャンネルでも過去に配信した使い方解説動画が無料で見られるようになっています」


さらにfreeeの特長として、ヘルプページの“厚み”が特筆できるだろう。使用していて分からないことがあれば、ほぼfreeeのヘルプページが解決策を網羅しているといっても過言ではない。


会計freeeマニュアル【農業(個人事業主)の経理編:概要】より

サービスのリリースが目的ではない。最終的なミッションの「スモールビジネスを、世界の主役に。」を果たすためのアフターフォローの手厚さも、freeeが支持される所以なのかもしれない。

願いは「本業に集中できる世界」


「私たちの命題は、煩雑な経理工数を減らし、どんな職業の皆さんにも本業に集中いただける世界を作ることです」

多くの自営業はその道の専門職と言い換えることができる。

農家も例外ではなく「作物を育てるプロ」であり、他業種と同様、本職以外の業務はできるだけ軽減したいものだ。より畑で作業する時間を増やすために、中長期的に安定的な経営を実現するために、会計freeeは強力なツールとなるだろう。

スマート農業と聞くと、ドローンやAI、IoTなど、大規模・ハード面でのイメージが先行してしまい、個人単位で従事する農家にとっては非現実的に感じてしまうものだ。けれど実際は、細やかなソフト面の進化も、目に見えないところで日本の一次産業を支えている。

今よりも作物と向き合う時間を効果的にもたらしてくれるのは、最新鋭のマシンでもなく、会計freeeというサービスなのかもしれない。




農業経営基盤強化準備金 ~農業者向け Q&A~|農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/kobetu_ninaite/n_seido/pdf/qa.pdf
「個人事業の経理と節税」 (著:青木茂人 成美堂出版)
http://www.seibidoshuppan.co.jp/product/9784415321134/

【連載】スマート農業に挑む企業たち
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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