必ず“うまい”が届く、産直お取り寄せサービスへ─「ukka」
生産者から直接農産物を購入できるECサイトは今、スマート農業という枠組みの中でも、インターネットやクラウドの技術を用いた流通に関して盛り上がりをみせる分野のひとつだ。
その中に、独自の展開を行う「ukka」というサービスがある。2015年に誕生した際には、農産物のオーナー制度を主軸とした「OWNERS」というサービス名で話題を集めていたが、今年都度購入やサブスクリプションにも対応し、「ukka」としてリニューアルを果たした。
消費者は、ukka上で農家・漁師等の生産物を様々な形で購入できる。オーナー制度改め「Farm Membership」に加え、都度発送、予約注文、定期便など多彩な購入方法が用意され、それぞれの農産物にとって最適な形で届けられるというもの。
ukkaが流通させるのは、物だけにとどまらない。生産者、商品、産地について深掘ったストーリーが紹介されていることに加え、収穫までの期間は、生産者から共有される農産物が育つ姿などを通じて、互いの関係性を深め合うこともできるとしている。
商品のみならず、その裏側を理解するためのコンテンツも流通させ、美味しさの裏側を理解するための場を提供している。
各社がしのぎを削る農産物の直販ECサイトは、今まさに激戦区と言えるだろう。その中でひときわ異彩を放つのがコミュニケーション型の産直サービス「ukka」だ。
先述の通り、ukkaの前身はOWNERSというオーナー制度プラットフォーム。消費者は応援したい農家のオーナーとなり、収穫の数カ月前から事前注文と決済を行う。収穫までの期間では農産物が育つ姿などを通じて、互いの関係性を深め合い、とれたての食材が農家から直接届く仕組みだ。
消費者にとって“ストーリーを通じておいしい食材と巡り会える”サービスでありながら、生産者にとっては農業経営の安定化を図れるという大きなメリットがあるという。代表取締役・共同創業者の小林俊仁氏はこう語った。
代表取締役・共同創業者の小林俊仁氏
「例えば希少品種の育成に挑戦したい農家がいるとします。ukkaでは、まずその農産物がほしい消費者を事前に募り、目標注文数に達成したら、一度生産者さんにお支払いします。事前に買い手がついている状態となるため、生産者さんにとっても計画生産が可能となり、結果的に農業経営も安定するのです」
事前注文が生産者にもたらすメリットはそれだけではない。閑散期と繁忙期の平準化にも一役買う。
「事前注文やオーナー制度の場合、農閑期に注文の手続きを行うため、通常は収穫期に集中してしまう受注作業を別の時期に分散できます。事前注文を取ることで、繁忙期は収穫と発送に集中できるという仕組みです」
2015年から始まった同サービスは、登録生産者数は110件(2019年10月現在)。2019年秋に全面リニューアルオープンし、サービス名を「ukka」へ変更した。
リニューアルを通じて、コミュニケーションの面では、消費者が生産者に送る「応援コメント」、生産者が生育状況や地域の情報を発信する「手づくり日誌」、消費者がどのように食べたかを生産者に伝える「ごちそうさまコメント」など、生産者と消費者がより密にやりとりするための機能がブラッシュアップされた。
生産者が投稿する「手づくり日誌」の画面
販売面においては、「都度購入」と「定期便」機能の新設が挙げられる。「都度購入」により待たずに購入できるようになったことに加え、「定期便」により気に入った生産者のものを定期的に届けてもらうような買い方もできるようになった。
「事前注文を推し進める一方で、歯痒さもありました。例えば、食べて美味しいと思った方がSNSでシェアしてくれたとしても、事前注文のみだと収穫時には購入できないので、シェアを見た人は何もできません。それだとなかなか厳しいと感じ、『都度購入』の導入を決定しました。また、ファンコミュニティが生産者を経済的にも支えていく仕組みを実現するためには、『定期便』の導入は不可欠でした。」
おいしそうな食材を試しに購入し、味わいはもちろん生産者の人柄や考え方のファンになり、オーナーへ。そんな導線も新たに築かれたそうだ。
青々と広がる田んぼにぽつんと立つ1人の女性。
非常に印象的なこの写真は、「ukka」の前身である「OWNERS」のウェブサイトのバナー画像だ。写真を見せながら、小林氏は少し照れくさそうに「実は、彼女は僕のばあちゃんなんですよね」と教えてくれた。
「僕の実家は米農家を営んでいまして。この写真で祖母が立っている場所より後ろの水田は、地元の農協に卸すためにつくったお米です。一方、彼女より前に広がる水田は、家族や親戚、近所に配る用に、農薬や化学肥料などを使用せずにつくったお米なんです」
小林氏の祖母は時折「農薬を使わなくてもお米はつくれるんやぞ」と自慢げに語っていたという。
「仮に祖母が『好きなつくり方でお米を作っていい』と言われたら、絶対に後者の農法をすると思うんですよね。農家さんが一番したいつくり方でできた食材を売りたい——それが僕の原体験です」
ukkaに登録する生産者は主に中小規模の農家だという。そこにはつくり方へのこだわりや場所の必然性、持続可能な農林水産業を志す生産者が集う。
「ukkaというサイトは、他の農産物直販系のECサイトと比較してもキュレーション色が強いと思っています。消費者が『確実にうまいものを食べたい』と思ったら、とりあえずukkaで注文、というようなポジションを築いていきたいな、と」
とにかく“うまい”もの、それは味だけの話だろうか。小林氏の示す美味しさは、味わいだけの話に留まらず、食という体験を通じた「うまさ」なのではないだろうか。
作物が育つ様子や生産者とのコミュニケーションといった時間軸が、食卓にプラスされることで、今までの次元を越えた美味しさへ変化する。本当に“うまい”ものを届け、噛みしめたい人々が集うプラットホームの礎は、ひとりの米農家の姿だった。
一方で、新サービスが続々登場し機能拡張を繰り広げる農産物のECサイト市場。戦乱の最中にリニューアルを加えたukkaは、果たしてどのような生存戦略を練っているのだろう。しかし小林氏は意外にも穏やかだった。
「どのサービスも登っている山は同じなんですよね。ただ登山口が違うだけで」
氏曰く、ukkaのポジションはハレとケの“ハレ”だという。特別な時に食べたい食材が集まるものの、日常的に口にする食材は他社サービスの方が長けているというのだ。
「例えば、ukkaはオイシックスさんと併用されている方が結構いらっしゃいます。日々の食材としてオイシックスさんのお野菜、ホームパーティーやお祝いでukkaの果物や肉、といった形で利用シーンにより使い分けしていただけていると思います」
しかし、オーナー制度だけだったukkaが都度購入を設け、直販ECサイトのポケットマルシェが事前予約制度を取り入れるなど、機能拡張をする中で少しずつ似通ってきていることも事実だ。そのときに小林氏が指摘するのは、「当初の土台を忘れてはならない」ということだった。
「僕らは、確実にうまいものを届け、ストーリーやコミュニケーションでファンを作ることを軸にサービスを展開していきます。これは今後も大切にするukkaの源流です」
ukkaのような農産物直販サイトは、流通という分野に対しての一種のスマート農業のかたちとも言えよう。それまで場所があることで成り立っていた「マルシェ」が、クラウドというネットワーク上の販売所によって取引できるようになったからだ。
今後さらに加速すると考えられるスマート農業の波へ、ukkaは「伝え方の多様性」という乗り方をしたいと話す。
「今後、農作物のモニタリングサービスを導入する農家さんも増えていくと思います。例えば、その内容をukka上で見ることができたら『ああ、こんなに大変なんだな』と共感して頂けたり、何か別の価値が生まれる可能性がありますよね。スマート農業が加速することで、農家の農作物のつくり方をもっと多様な表現方法で伝えられるようになります」
一般的には「労力を減らし、収益を増大させる」ことが目的とされているスマート農業。ukkaはここに「表現方法」という意味合いを持たせ、新たなコミュニケーションツールとして活用しようとしている。
ふたりの代表取締役(左)小林俊仁/(右)谷川佳
「今後成立していく農業は2つあると考えています」
ひとつ目が大量生産し、大量消費を続ける「食糧を得るための農業」だ。これは現に、農協や市場を通じた流通が担っている役割で、今後も必ず必要な形だ。
ふたつ目が「少量・高価値を生む農業」だという。Ukkaは後者のニーズに応えるサービスとしての展開を目指している。
「しかしながら日本では、今どちらかに振り切れている農家さんはまだ少ないのが現状です。前者は私達よりも適切な事業者さんにお任せするとして、後者、こだわりの生産者がファンを作り、経済的に成立していくことを後押しできるように、ukkaは『おいしい』を必ず届けていきたいと考えています」
氏の言葉を借りるならば、「絶対にうまいものに辿り着ける農産物の直販ECサイト」を目指しているのがukkaだ。
彼の指し示す“うまさ”とは、味わいでもあり、つくり方でもあり、コミュニケーションでもあった。そしてそれが、10年、100年先の未来に「おいしさ」を届けるひとつの答えなのかもしれない。
株式会社ukka
https://corp.ukka.green/
その中に、独自の展開を行う「ukka」というサービスがある。2015年に誕生した際には、農産物のオーナー制度を主軸とした「OWNERS」というサービス名で話題を集めていたが、今年都度購入やサブスクリプションにも対応し、「ukka」としてリニューアルを果たした。
消費者は、ukka上で農家・漁師等の生産物を様々な形で購入できる。オーナー制度改め「Farm Membership」に加え、都度発送、予約注文、定期便など多彩な購入方法が用意され、それぞれの農産物にとって最適な形で届けられるというもの。
ukkaが流通させるのは、物だけにとどまらない。生産者、商品、産地について深掘ったストーリーが紹介されていることに加え、収穫までの期間は、生産者から共有される農産物が育つ姿などを通じて、互いの関係性を深め合うこともできるとしている。
商品のみならず、その裏側を理解するためのコンテンツも流通させ、美味しさの裏側を理解するための場を提供している。
消費者にも生産者にも、それぞれのおいしさを
各社がしのぎを削る農産物の直販ECサイトは、今まさに激戦区と言えるだろう。その中でひときわ異彩を放つのがコミュニケーション型の産直サービス「ukka」だ。
先述の通り、ukkaの前身はOWNERSというオーナー制度プラットフォーム。消費者は応援したい農家のオーナーとなり、収穫の数カ月前から事前注文と決済を行う。収穫までの期間では農産物が育つ姿などを通じて、互いの関係性を深め合い、とれたての食材が農家から直接届く仕組みだ。
消費者にとって“ストーリーを通じておいしい食材と巡り会える”サービスでありながら、生産者にとっては農業経営の安定化を図れるという大きなメリットがあるという。代表取締役・共同創業者の小林俊仁氏はこう語った。
代表取締役・共同創業者の小林俊仁氏
「例えば希少品種の育成に挑戦したい農家がいるとします。ukkaでは、まずその農産物がほしい消費者を事前に募り、目標注文数に達成したら、一度生産者さんにお支払いします。事前に買い手がついている状態となるため、生産者さんにとっても計画生産が可能となり、結果的に農業経営も安定するのです」
事前注文が生産者にもたらすメリットはそれだけではない。閑散期と繁忙期の平準化にも一役買う。
「事前注文やオーナー制度の場合、農閑期に注文の手続きを行うため、通常は収穫期に集中してしまう受注作業を別の時期に分散できます。事前注文を取ることで、繁忙期は収穫と発送に集中できるという仕組みです」
2015年から始まった同サービスは、登録生産者数は110件(2019年10月現在)。2019年秋に全面リニューアルオープンし、サービス名を「ukka」へ変更した。
リニューアルを通じて、コミュニケーションの面では、消費者が生産者に送る「応援コメント」、生産者が生育状況や地域の情報を発信する「手づくり日誌」、消費者がどのように食べたかを生産者に伝える「ごちそうさまコメント」など、生産者と消費者がより密にやりとりするための機能がブラッシュアップされた。
生産者が投稿する「手づくり日誌」の画面
販売面においては、「都度購入」と「定期便」機能の新設が挙げられる。「都度購入」により待たずに購入できるようになったことに加え、「定期便」により気に入った生産者のものを定期的に届けてもらうような買い方もできるようになった。
「事前注文を推し進める一方で、歯痒さもありました。例えば、食べて美味しいと思った方がSNSでシェアしてくれたとしても、事前注文のみだと収穫時には購入できないので、シェアを見た人は何もできません。それだとなかなか厳しいと感じ、『都度購入』の導入を決定しました。また、ファンコミュニティが生産者を経済的にも支えていく仕組みを実現するためには、『定期便』の導入は不可欠でした。」
おいしそうな食材を試しに購入し、味わいはもちろん生産者の人柄や考え方のファンになり、オーナーへ。そんな導線も新たに築かれたそうだ。
「ばあちゃんのつくる米が原体験」
青々と広がる田んぼにぽつんと立つ1人の女性。
非常に印象的なこの写真は、「ukka」の前身である「OWNERS」のウェブサイトのバナー画像だ。写真を見せながら、小林氏は少し照れくさそうに「実は、彼女は僕のばあちゃんなんですよね」と教えてくれた。
「僕の実家は米農家を営んでいまして。この写真で祖母が立っている場所より後ろの水田は、地元の農協に卸すためにつくったお米です。一方、彼女より前に広がる水田は、家族や親戚、近所に配る用に、農薬や化学肥料などを使用せずにつくったお米なんです」
小林氏の祖母は時折「農薬を使わなくてもお米はつくれるんやぞ」と自慢げに語っていたという。
「仮に祖母が『好きなつくり方でお米を作っていい』と言われたら、絶対に後者の農法をすると思うんですよね。農家さんが一番したいつくり方でできた食材を売りたい——それが僕の原体験です」
ukkaに登録する生産者は主に中小規模の農家だという。そこにはつくり方へのこだわりや場所の必然性、持続可能な農林水産業を志す生産者が集う。
「ukkaというサイトは、他の農産物直販系のECサイトと比較してもキュレーション色が強いと思っています。消費者が『確実にうまいものを食べたい』と思ったら、とりあえずukkaで注文、というようなポジションを築いていきたいな、と」
とにかく“うまい”もの、それは味だけの話だろうか。小林氏の示す美味しさは、味わいだけの話に留まらず、食という体験を通じた「うまさ」なのではないだろうか。
作物が育つ様子や生産者とのコミュニケーションといった時間軸が、食卓にプラスされることで、今までの次元を越えた美味しさへ変化する。本当に“うまい”ものを届け、噛みしめたい人々が集うプラットホームの礎は、ひとりの米農家の姿だった。
キュレーション・ストーリーを携え、これからも
一方で、新サービスが続々登場し機能拡張を繰り広げる農産物のECサイト市場。戦乱の最中にリニューアルを加えたukkaは、果たしてどのような生存戦略を練っているのだろう。しかし小林氏は意外にも穏やかだった。
「どのサービスも登っている山は同じなんですよね。ただ登山口が違うだけで」
氏曰く、ukkaのポジションはハレとケの“ハレ”だという。特別な時に食べたい食材が集まるものの、日常的に口にする食材は他社サービスの方が長けているというのだ。
「例えば、ukkaはオイシックスさんと併用されている方が結構いらっしゃいます。日々の食材としてオイシックスさんのお野菜、ホームパーティーやお祝いでukkaの果物や肉、といった形で利用シーンにより使い分けしていただけていると思います」
しかし、オーナー制度だけだったukkaが都度購入を設け、直販ECサイトのポケットマルシェが事前予約制度を取り入れるなど、機能拡張をする中で少しずつ似通ってきていることも事実だ。そのときに小林氏が指摘するのは、「当初の土台を忘れてはならない」ということだった。
「僕らは、確実にうまいものを届け、ストーリーやコミュニケーションでファンを作ることを軸にサービスを展開していきます。これは今後も大切にするukkaの源流です」
スマート農業は表現方法だ
ukkaのような農産物直販サイトは、流通という分野に対しての一種のスマート農業のかたちとも言えよう。それまで場所があることで成り立っていた「マルシェ」が、クラウドというネットワーク上の販売所によって取引できるようになったからだ。
今後さらに加速すると考えられるスマート農業の波へ、ukkaは「伝え方の多様性」という乗り方をしたいと話す。
「今後、農作物のモニタリングサービスを導入する農家さんも増えていくと思います。例えば、その内容をukka上で見ることができたら『ああ、こんなに大変なんだな』と共感して頂けたり、何か別の価値が生まれる可能性がありますよね。スマート農業が加速することで、農家の農作物のつくり方をもっと多様な表現方法で伝えられるようになります」
一般的には「労力を減らし、収益を増大させる」ことが目的とされているスマート農業。ukkaはここに「表現方法」という意味合いを持たせ、新たなコミュニケーションツールとして活用しようとしている。
ukkaが100年後に届けたい味
ukkaがスローガンで掲げるのが「100年後に続く食と農のあるべき形を創る」という言葉だ。あらためてその意味を尋ねたときに、小林氏は「現状のままでは日本の農業は10年も持ちません」と言った。ふたりの代表取締役(左)小林俊仁/(右)谷川佳
「今後成立していく農業は2つあると考えています」
ひとつ目が大量生産し、大量消費を続ける「食糧を得るための農業」だ。これは現に、農協や市場を通じた流通が担っている役割で、今後も必ず必要な形だ。
ふたつ目が「少量・高価値を生む農業」だという。Ukkaは後者のニーズに応えるサービスとしての展開を目指している。
「しかしながら日本では、今どちらかに振り切れている農家さんはまだ少ないのが現状です。前者は私達よりも適切な事業者さんにお任せするとして、後者、こだわりの生産者がファンを作り、経済的に成立していくことを後押しできるように、ukkaは『おいしい』を必ず届けていきたいと考えています」
氏の言葉を借りるならば、「絶対にうまいものに辿り着ける農産物の直販ECサイト」を目指しているのがukkaだ。
彼の指し示す“うまさ”とは、味わいでもあり、つくり方でもあり、コミュニケーションでもあった。そしてそれが、10年、100年先の未来に「おいしさ」を届けるひとつの答えなのかもしれない。
株式会社ukka
https://corp.ukka.green/
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