一輪車を電動化した不整地のパイオニアが目指すもの 〜CuboRex

市販の一輪車に簡単に電動化できる「E-Cat Kit(イーキャットキット)」を開発・販売するのが株式会社CuboRex(キューボレックス)だ。

一輪車のタイヤを取り換え、付属のレバーを取り付けるだけで、重い荷物の運搬が大幅に楽になる。自ら「不整地のパイオニア」を任じる同社は、機械化の難しかった不整地での作業をどうやって楽に、かつ便利にするのか。代表取締役の寺嶋瑞仁さんに聞いた。

代表取締役の寺嶋瑞仁さんとE-Cat Kit。手にしているのは、テスト用電動クローラユニット「CuGo」(CuboRex東京ラボで)

傾斜が厳しい、狭い限られた空間でも活躍

「E-Cat Kit」では、一輪車(ネコ車、手押し車とも呼ばれる)に取り付けるだけで、作業の労力を50%、運搬時間を66%カットできる(CuboRex調べ)。傾斜角が20~30度あるような傾斜地でも使え、100kgを積載でき、3時間の充電で13km走行し、5段階の速度調節ができる。

そんなE-Cat Kitは2020年10月の発売以来、全国でおよそ600台を売り上げた。和歌山県をはじめとする柑橘の産地での使用が多く、農業に加えて建設現場でも活用されている。

傾斜地にあることが多い柑橘の園地に持って上がれる動力運搬車は、そもそもなかった。その点、E-Cat Kitは本体の重さが5kgで、一輪車が通れる幅さえあれば、使うことができる。

E-Cat Kitは、モーター内蔵ホイール、リチウムバッテリー、充電器、コントローラー、コントローラバッグ、アクセルレバー&ディスプレイがセットになっている
寺嶋瑞仁さんは、E-Cat Kitを開発した狙いをこう説明する。

「中山間地の斜面にあるような園地でも持って上がれて、かつ狭い空間、限られた空間で運用できる形態である。傾斜が厳しい状況下でも活躍できるだけの実力と性能を有する必要がある──という視点で作っています。農作業車が入れなかった場所にも、ぐんぐん入っていけるので『これなしでの作業はもう考えられない』とユーザーからよく言われます」

農家からは「これまで収穫、運搬で疲れ果てていたのが、出荷調製作業をする体力が残るようになった」「運搬作業を農作業に精通していないアルバイトにも任せられるようになった」「女性でも重い荷物の運搬ができるようになった」といった声が多く寄せられている。E-Cat Kitの販売の増加は、連携するJAなどによる販促の効果もある一方、口コミに負うところも大きい。知り合いから紹介されて購入を決める農家も多い。

女性でも重いコンテナを楽に運べる(提供:株式会社CuboRex)
なお、一輪車に後付けするだけでなく、同社オリジナルの一輪車の本体がセットに含まれる「E-Cat コンプリートパッケージ」もある。

E-Cat コンプリートパッケージはスリムに設計されており、条件の悪い園地でも使いやすい(提供:株式会社CuboRex)

目指したのは自動化の前段階である機械化

ところで、スマート農業といえば農作業の自動化を目指す動きが多い。トラクターの自動化や田んぼの水門の自動開閉、ドローンによる薬剤散布の自動化など。そんな中、CuboRexはなぜ一輪車の電動化という一見地味な技術開発に挑んだのだろう。

寺嶋さんが一つ目の理由として挙げるのが「運搬作業は不整地におけるすべての作業に共通する」ということだ。農業では季節によって使う農機が変わり、せっかく自動化しても、年間数日から数週間しか使わないことも珍しくない。そんな中、一輪車を使った運搬は年間を通じてある。特定の季節にしか活躍しないスマート農業技術もいいが「もし何らかの形で一年間貢献できたら、提供できる価値は数十倍になるわけで、それってすごいことですよね」(寺嶋さん)。

もう一つの理由として「スマート農業について自分なりの考えがある」という。それは、スマート農業はいいことだが、順番を間違えていることがままあるということだ。機械化の段階をとばして自動化に至ろうとする、つまり、機械が十分成熟しきっていないのに自動化するのは無理だと寺嶋さんは指摘する。

「中山間地農業においては、そもそも機械の導入があまり進んでいません。『機械を導入できる状況を作れていないのに、自動化ってどうやってやるの?』と思うんですね。中山間地で不整地という条件下で機械化できるしくみを作った後に自動化すべきというのが、私の考え方です」

だからこそ、E-Cat Kitの開発において自動化は目指していなかった。

「何を目指しているかというと、自動化に至る前の段階の機械化です。まず、機械化して不整地という条件で貢献できるものを作らないと、その次に行けない」(寺嶋さん)

こう考えているのだ。

E-Cat Kitは梅の産地でも使われている(提供:株式会社CuboRex)

“ガチなレゴ”で農機の常識変えたい

CuboRexの開発した製品には、E-Cat Kitに加えて汎用クローラや、クローラ式の遠隔操作ロボットなどがある。同社が最初に開発、販売した製品である「CuGo(キューゴー)」は、業界初のテスト用電動クローラユニットとして知られている。導入すれば、ロボット開発に要する時間とコストが節約でき、テスト機を手軽に試作できるのがウリだ。運搬ロボットや収穫ロボット、作物の成長を観察するロボットなどに使われてきた。

これまでの常識は、メーカーが特定の作業に特化した農機を開発し、ユーザーである農家がそれを購入するというものだ。同社は、既製品を買ってメーカーが指定する用途に使うしかない現状に、新たな選択肢を加えたいという。目指すのは「ユーザーが自分たちの使い方に合う形に機械を柔軟にカスタマイズできるという、新しい当たり前」(寺嶋さん)だ。

ニーズに合わせてモジュールを組み上げるというやり方を、寺嶋さんは玩具のレゴブロックになぞらえ「ガチなレゴ」と表現する。ただ、農家自身は栽培という集中したい作業がある。そこで、同社が組む相手として考えているのが、各地にある農機の販売代理店やJAの農機部門だ。

「彼らは、各地の農業やユーザーの状態をよく知っているわけです。そういう人たちがこの地域で使うには、こんなモジュールを組み合わせたら作業効率が良くなると考えてオリジナル製品を組み上げ、地域産業に貢献できる形で出せる――。これが、私たちの考える未来です」


株式会社CuboRex
https://cuborex.com/

【連載】スマート農業に挑む企業たち
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。