1カ月から利用できる菜園シェアサービス「ハタムスビ」で、マイファームが描く“自産自消”の未来の形とは?

地産地消ならぬ”自産自消”を掲げ、農業を通じて人と物を結び続けてきた「マイファーム」。

2007年の創設以来、貸し農園や農業学校など幅広いサービスを通じて、マイファームの思い描く世界観を具現化してきた。さらに2020年には、畑のマッチングサービス「ハタムスビ」をリリースするという。

自産自消の輪で農業を支え続けてきたマイファームが描く、次世代の農業のカタチとは? 今までのこと、これからのこと、お話をうかがった。

ヒトとコトを農で結ぶマイファーム

マイファームという名前を耳にして、最初にどんな絵を思いつくだろう。「ファーム」という言葉から農業関連の企業ということはわかるが、具体的にはピンと来ない。人によっては創業のきっかけにもなった貸し農園サービスを思いつくかもしれないし、農業学校を連想するかもしれない。

「そうなんですよ、『マイファーム』という名前だけでは具体的に何をやっている会社かちゃんと理解されている方も意外と少なくて」
と、インタビューに答えてくださったのは、マイファーム ヒトユニットの田村征士さんだ。


マイファームは、貸し農園や農業スクール、農業コンサルティング、流通販売事業など、総合的に農業に関わるサービスを提供する企業だ。
抱える事業は多岐にわたるが、すべてに通ずるのは会社としての理念”自産自消”という考え方だという。

「自産自消というのは、自ら作物を作り、自ら消費していくような仕組みを指します。自然と触れる楽しさや面白さを知り、生まれた産物を丸ごといただく。そんなサイクルが根付くことにより、最終的には日本の農業を支えられると考えています」

2007年に事業をスタートさせたマイファームが最初に着手したのは、貸し農園事業だった。

国内農業において課題とされているのが、人手不足と高齢化、耕作放棄地の増加だ。マイファームは耕作放棄地を活用し、貸し農園としてリニューアル。土と触れ合いたい人々が手軽に農業に携われるようなサービスを展開した。

しかし、2011年に大きな変化が訪れる。それが東日本大震災だった。

「楽しんでやる野菜作りや農業だけでなく、学ぶ場と機会が求められたり、必要であったりということに気づくきっかけのひとつでした。」

そこで生まれたのが、社会人向けの農業学校「アグリイノベーション大学校」だった。入学者数は年々増加しており、大学校以外にも農業者向け経営塾や、移住就農支援など幅を広げ、農に携わる人々を全面的にサポートしている。

「農地と人材」という大きな2本柱の他に、法人向けの農業コンサルティングや流通販売、さらには農業支援として中国市場にも進出するマイファームだが、すべては自産自消の世界観を実現するための手段にすぎない。

「私たちにはメインの事業という考え方がないんですよね。マイファームの考える世界観を実現するために、常に手段を考え続けて、具現化していく。だから1年後、いや半年後に何をしているかは私たちもよくわからないんです(笑)」

ふんわりと笑う田村さんだったが、着実に年々規模を拡大するマイファームを見れば、勢いは一目瞭然だ。

畑のマッチングサービス「ハタムスビ」

意欲的に突き進むマイファームだが、2020年代に照準を定め、満を持して新サービスをリリースする。それが畑のマッチングサービス「ハタムスビ」だ。

「ざっくりと言うと、畑のフリーマーケットサイトのようなイメージです」


ハタムスビは、畑で作物を育てたい利用者と、土地活用にお困りのオーナーを結びつけ、利用されていなかった空き地を農地として活用するサービスだ。

オーナーとなる企業や地主が持っている未利用の土地を畑として登録出品する。「ハタムスビ」のWEBサイト上で利用可能として表示され、近隣に住む利用希望者が野菜作りの場として利用料金を支払い、家庭菜園を営むことができるというもの。

まずユニークなのが、ターゲットに定める利用者の性格だ。

「ハタムスビでは、農業イベントに参加する人たち、すでに家庭菜園を楽しんでいる人たちをあえてターゲットから外しています。

今回焦点を当てているのは、以前家庭菜園を利用していて今はやっていない人たち、興味があるがやったことのない人たち。今までスポットライトを当ててこなかった人へのアプローチを狙っています」

潜在的ではあるが具体的に農業人材には、利用できていない・離脱してしまった理由をそれぞれ抱えている。それらを踏まえた上で展開するのが同サービスという。

「大きな特長は4つあります。まず近くて通いやすい畑をWEB上で探せる点。二つ目に、月単位での利用ができる点。三つ目にスマホやPCを中心に育て方や農業知識の勉強ができる点。四つ目に農作業道具やセンサーなど搭載できる『ハタムスビBOX』を設置した点です」

①近隣の畑をWEB上で検索


すでにベータ版がリリースされている「ハタムスビ」は、2020年に本格的に始動しはじめる。まず続々と増加する予定なのが、利用可能な農地だ。

ハタムスビ公式サイトより

今後も首都圏を中心に展開していく予定で、利用希望者は自宅や職場から通いやすい畑を選択できるという。
これにより、従来の貸し農園の課題としてあった「畑までアクセスしづらい」という問題を払拭できるのだ。

②月単位での利用が可能


「貸し農園では年間での契約が一般的です。しかしそこが利用開始のハードルとなっているのも事実でした。ハタムスビでは基本的に月単位での利用(最短2カ月契約)となっています」

初めて貸し農園を利用する人や、育てたい野菜を絞った数カ月間だけの利用も可能となる。

さらに面白いのが、「栽培に失敗したケース」だ。

「仮に年間契約の貸し農園で作物の栽培に失敗した場合、心もかなり痛みますし、同時に足も遠のきます。しかしハタムスビであれば、月契約なので”試しに”家庭菜園に挑戦できます。そのため、失敗してしまった、向いていなかったという場合でも、従来の契約に比べて負担は軽くなりますよね」

田村さんは「野菜作りは難しいということがわかる。それも自産自消へつながってる」と言う。

「例えばブロッコリー。当たり前のようにスーパーに並んでいますが、家庭菜園でビギナーが栽培するのはけっこう難しいんです。ハタムスビでブロッコリーを栽培し、失敗してしまったユーザーが、スーパーで『こんなにキレイなブロッコリーがたくさんある!』と感動する。それも私たちが思い描く自産自消の一種です」

目的は直接的な生産者を増やすことではなく、農について考える人が増えること。その上で、ハタムスビは強力な切り札となる。

3. 動画配信や高精度天気予報で、効率良く野菜を栽培できる

それまでマイファームが運営してきた貸し農園には、各畑に管理や野菜作りのアドバイスをするスタッフが常駐していた。だが、ハタムスビにはそのようなスタッフはおらず、時折定期巡回をするスタッフが訪れる程度だという。

そのため利用者は、育てたい作物について自ら事前に勉強し、畑へ訪れる必要がある。その際に一役買うのが、野菜作りのコツやノウハウを伝える動画の配信だ。

Youtubeチャンネル ハタムスビ野菜作りムービーより

利用者向けの情報サービスとしてリリースし、複数のユーチューバーを起用し、各作業のやり方やコツがわかるよう3分程度にまとめている。

「貸し農園のように、直接スタッフから教えてもらえるというのは、わかりやすくいい面もあります。しかし、ハタムスビがターゲットにしているのは、日々忙しく働いていたり、家事や子育てに追われている人々。すきま時間で的確に作業をしたいと考えているユーザーに対して、一番適切なのが動画での配信だと考えています」

他にも、区画ごとにピンポイントで天気を予想する気象システム、HALEX Dreamの「ピンポイント菜園日和予報」も利用可能。最も効率が良い形で野菜作りに携わることができるのだ。

4. 拡張機能を取り揃えた「ハタムスビBOX」

同サービスの象徴的なアイテムが『ハタムスビBOX』だ。各区画に一つずつ設置されており、農作業道具を収納できるのだが、ここで特筆すべきポイントはフタの内側に印字されているQRコードだという。

「畑に到着したらまず利用者はQRコードを読み取り、作業を開始します。これにより利用者がどういった頻度で畑へ来ているのか、クラウド上で管理できるという仕組みです」


さらに、ハタムスビBOXはITテクノロジーの拡張にも一役買う。

「今後オプションで、Webカメラやドローン、自動草刈り機、防犯・セキュリティのためのGPS、さらには水分や土壌の状態を測定するセンサーの貸し出しなども視野に入れています」

農家だけではなく、家庭菜園のレベルでも気軽にデバイスを利用し、野菜作りに挑戦できる。次世代の農業をすぐそばに実現する取り組みだ。


人を育てるスマート農業へ

インタビューを続ける中で印象的だったのが、今まで良しとされてきた物事に対して真逆の解決法を示し、新たな価値を提供している点だった。

例えば、常駐スタッフについて。

よく貸し農園で耳にするのが、「農作業を通じて、スタッフや利用者とコミュニケーションできる」ということだった。だが、ハタムスビでは動画配信という180度逆の解法で、新たな価値をもたらしている。

動画配信により、人とのコミュニケーションが減少すると指摘される可能性がありながら、一方でコミュニケーションと農作業を切り分けることによって、今まで浮上しなかった潜在的な人材に光を当てることができるのも事実だ。


さらに、利用の敷居を下げた「月額利用」システムや、無人で訪問記録を残せるQRコードシステムなど、テクノロジーのみならずサービス考え方が効率的でスマートだ。

「一般的にスマート農業は、人材不足を補完するために利用されています。しかしハタムスビは、テクノロジーを利用することで、農業人口の増加へつなげていく。それが最大の特長です」


「人手不足を補うもの」だったスマート農業を、農業人材の育成に駆使し、結果的に一次産業の底上げを図る。この柔軟な発想は、やはり今までもひとつの理念に基づき、さまざまなサービスをリリースしてきたマイファームだからこそなせるものだろう。

「2020年代という近い未来を考えた時に、私たちの思う自産自消を最も具現化できるのが、この『ハタムスビ』でした。しかしこのサービスが今現在正解であっても、今後変わっていく可能性は大きくあります。

だからこそ常に動き、考え続けるのが私たちの在り方です。なので、10年後のビジョンは見えないんですね。もちろん良い意味で」

時代や価値観、課題が常に変化していく中、マイファームは”自産自消”に向けて、最善のサービスを常に展開し続けていく。

スマート農業は決してテクノロジーのレベルのみを指すのではない。柔軟性と新しい価値の提供をし続ける力、それも日本に必要なスマート農業だ。


マイファーム
【連載】スマート農業に挑む企業たち
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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