青果卸に参入する農業ベンチャーの勝算 〜農業総合研究所【後編】

ITの活用で青果物の流通を変革することを掲げる株式会社農業総合研究所(和歌山市)が2020年度から量販店向けに卸売事業を始める。

2007年の創業から量販店にインショップを置き、農家から集荷した農産物を委託販売する「農家の直売所」を運営してきた。その過程で構築してきたインフラを活用し、青果流通の本丸に挑む。



店舗売上全体の1割の限界を突破へ

本連載ですでにご紹介しているように、青果物の流通日数はJAから卸、仲卸を経由する一般的な方法だと3~4日かかる。

一方、同社は独自の物流網を構築し、自社で整備した集荷場に農家から青果物が届いてから店頭に並べるまでわずか1日で済ませている。鮮度が良いから客は支持する。農家は自分の判断で規格や価格などを決められ、販路の拡大も含めて所得の向上が図れる。

現在、集荷場は31道府県に92カ所備える。2020年度2月末現在、会員の農家は8850戸、取引先の店舗数は1536店舗。2019年通期での物流総額は96億円、売上高は31億円。いずれの数字も右肩上がりで増えている。

ここで、限界もみえてきた。インショップはその店舗の青果物の売上全体の1割が上限だと経験的にわかってきたのだ。事業を拡大するには本丸である通常の棚を狙うしかない。つまり卸売事業だ。

農業総合研究所 坂本大輔取締役(写真:窪田新之助)
坂本大輔取締役は「新たな農産物の流通の形をつくるという理念を掲げている中で、まずは直売所コーナーでの販売で産地と小売を繋ぐ物流とシステムを構築してきた。これを活用する形で今度は卸売り事業を展開することにした」と語る。

その覚悟ができたのは「農家の直売所」でサプライチェーンの地盤が固まったから。

会員も、大規模な農業経営体が増えてきた。そこから一定量の青果物を長期にわたって出荷してもらうことで、品切れをなくして棚を確保する。もちろん1戸の経営体だけでは出荷できる量も時期も限られてしまうため、集荷場や地域を超えた周年出荷の仕組みを構築していく。

それができるようになったのは全国に集荷場を設け、市場流通よりも儲けられることを示したことで大勢の農家が会員となったからだ。ある程度の生産規模と物流網があるからこそできる試みである。


適正な出荷量や品目の構成を自動算出するシステムの構築へ

しかし、スーパーにとっては新たな試みだけに不安やリスクが伴う。商品を切らさないのは大前提として、既存の仕入先である卸売業者や仲卸業者と取引する以上の価値が欲しい。

そこで農業総合研究所が試すのが、過去の出荷量とPOSデータから各店舗の在庫と売り上げを把握し、販売率を日ごとに確認することで、適正な出荷量や品目の構成を自動的に算出するシステムの構築だ。

坂本取締役は「スーパーの担当者は割と経験と勘で仲卸に発注しているところがまだまだ残っていると思います。結果、欲しい品目が足りなかったり、逆に多すぎて廃棄したりすることになる。弊社で開発中のシステムで需要と供給をマッチングさせれば、それがかなり解消できるのではないかと考えています」と語っている。

2020年度中の実用化を目指すそうだ。


折しも、卸売市場の開設や運営を取り締まる卸売市場法の改正が6月21日に施行され、業界再編が始まるとみられている。

その中で農業総合研究所が今回の試みを通じてどういう存在に発展していくのか、関心は尽きない。


株式会社農業総合研究所
https://www.nousouken.co.jp/
【連載】スマート農業に挑む企業たち
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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