本当に役に立つ「スマート農業」とは? 生産者が不安視する「5つのギモン」から考える

AIやロボット、ドローンなどを用いて、効率的で高収益が見込める農業を実現するための技術や製品を指す「スマート農業」は、日本でもかなり多くのサービスが登場し、普及してきています。

しかし、その効果や実効性に疑問を持つ人もまだまだ多いのではないでしょうか。

「仕組みがよくわからず、自分にとって本当に役に立つかがわからない……」
「実際に導入してみたけれど、慣れない分だけ労力軽減にならなかった……」
「初期費用はかかったものの、効果はいまいちだった……」
「結局のところ、売上は上がらなかった……」

などなど、「スマート農業」の技術や製品をどのように評価すればいいのか、初めて触れる生産者には難しい部分もあります。

そこで今回は、「スマート農業」は本当に生産者の役に立つのか、2022年時点での「スマート農業」が本当に役に立っているのか、生産者の皆さんが素朴に感じていることを「5つのギモン」と題して、SMART AGRIの中でこれまでご紹介してきた事例を引用しながらまとめてみました。

流行語としての「スマート農業」ではなく、実効性のある「スマート農業」の本当の価値を、ぜひ読者のみなさんも考えるきっかけになれば幸いです。

(1)本当に「コストダウン」になるのか


多くの生産者にとって、スマート農業を導入したい大きな動機のひとつは、「コストダウン」でしょう。

普段作っている農産物の価値が、ある日突然何倍にもなるということはほとんどありません。価格が変動したとしてもそれは豊作・不作などの状況による一時の相場の変化のみ。あまり一気に儲かりすぎても、翌年の納税額が怖いことになったりもするので、それはそれで問題です。

そういった理由もあり、生産者自身の収益をアップさせるためには、経費を削減したり無駄な作業を省力化して手取りを増やすことが手っ取り早いですよね。

大前提は、栽培作業を効率化・省力化しても、できあがる農産物の質や量は変わらないこと。短時間で仕事を終えられれば、余った時間でこれまで作れなかった農作物に挑戦したり、別の仕事をすることもできます。


コストダウンにつながるスマート農業としては、以下のようなものがあります。
 
コストダウンを実現するためにするべきは、これまで人間が行ってきた農作業をAI・ロボット・センサーなどに代行してもらうることです。生産者がすべきことは、適切に動作させるための設定や環境を整えることだけになります。

ただし、ひと口に自動化といっても「全自動」を期待するのは時期尚早です。

農業には、必ず種、土壌や水、そして気候という要素があります。自然環境と対話しながら、日々判断しなければならないことがたくさんあるからです。製造業のようにボタンひとつで設計したまったく同じ精度の部品がオートメーションされるようなものではありません。

また、「コストダウン」を考える際には、「イニシャルコスト」(導入コスト)だけでなく、「ランニングコスト」も関わってきます。導入時は高額であっても、その後長期間にわたってコストを削減(減価償却)できるのなら、検討する価値はあります。逆に、導入コストは安いものの、長きにわたってランニングコストがかかるとしたら、長い目で見て損か得かは微妙です。

こうしたことを検討する前提としては、日々の作業時間や回数をデータとして把握しておくこと。どんぶり勘定だったり、家族営農で自分が犠牲になって頑張ればどうにかなる、といった考え方では、どれだけ便利なスマート農業を導入しても実効性が見えてきません。そして、それらが「スマート農業」の導入でどう改善できるのかを判断しなければなりません。

(2)本当に「労力」を削減できるのか


生産者にとっての「労力」として、どんなものが挙げられるでしょうか。

まずは、定型的な単純作業があります。栽培の過程で必ず行う「播種」や「育種」、圃場の「耕起」、農薬などの「散布」、作物に必要な水分や栄養分を与える「灌水(水やり)」や「施肥」、そして出荷するための「収穫」や「選果」や「梱包」と、ひとつの農産物を出荷するまでには、たくさんの工程が必要です。


労力を軽減するためのスマート農業には、以下のようなものがあります。

  • 収穫ロボットによる、農産物の生育状況の確認と収穫作業
    「ロボットトラクター1台でばれいしょの無人収穫を実証 収穫労務費を4割削減」
    https://smartagri-jp.com/smartagri/1489
  • スマートグラスによる、ベテランから新規就農者へのノウハウ継承・作業分担
    「スマートグラスが高齢農家にもたらすもの【富有柿農家・水尾学のスマートグラス活用日記 第2回】」
    https://smartagri-jp.com/smartagri/64
  • 自動運搬ロボットによる、重量の大きいの収穫物の運搬
    「果樹用ロボットで生産者に寄り添うスマート農機ベンチャー【生産者目線でスマート農業を考える 第2回】」
    https://smartagri-jp.com/smartagri/1690
  • 衛星やドローンによる、自治体単位に及ぶ広範囲な作付け確認
    「わずか1時間で300haを空撮! 農地の未来を映し出す、固定翼ドローンの飛行をレポート」
    https://smartagri-jp.com/smartagri/3098

特に、トラクターを運転したり、ドローンを飛ばしたりといった「慣れ」や「経験」が必要な業務のアシスト、力仕事が難しい高齢者などをサポートする運搬ロボット、そして人の力だけでは限界のある確認作業(リモートカメラやドローンによる画像撮影)などでの活用が求められています。

いずれのケースでも重要なのは、生産者自身が無駄だと感じている作業を軽減できる製品やサービスを選ぶこと。使いこなすことでどれだけ労力を軽減できるかを、導入事例や知り合いの声などをチェックして、しっかり事前に調べることが必要です。

(3)本当に農薬や肥料の使用量を削減できるのか


近年、世界規模で農薬や化学肥料の使用をやめる、もしくは減らす動きが盛んになっています。

背景にあるのは、生産者個人の収穫量や収益、健康被害などの問題ももちろんですが、世界的にみると未来にわたって自然環境を守らなければならないという、地球規模での環境問題への危機意識の方が大きいと言えます。


環境問題への意識については、水資源も自然も豊かで、島国のため他国との資源の取り合いも深刻化していない日本に暮らしていると、実感しにくい面もあるかもしれません。しかし、国境を接した国と資源を共有し、近隣諸国との協調が必要とされるアジアや欧州の国々は、日本以上にひとつの地球に暮らすという意識が日常的に高まっています。

こうした状況を改善できるのも、スマート農業です。実はスマート農業は、有機栽培や自然栽培といった、生産者の頑張りが必要な部分にこそ、大きな意義を発揮できるとも言われています。

環境を守りながら農業を営むためのスマート農業としては、以下のようなものが考えられます。


最もわかりやすいのは、圃場全体に散布していたものを、病害虫の影響がある場所にだけピンポイントで散布する技術でしょう。事前にドローンなどで圃場を撮影し、AIで分析することで、作物の微妙な色の変化や肉眼では見つけにくい雑草の芽などを的確に見つけ、効果のある場所にだけ施肥できます。

その次の段階としては、農薬を「減らす」のではなく、極力「使わない」こと。そのために病害虫のセンシングなどを駆使したり、農薬に代わる技術なども研究が進められています。

農薬や肥料を使用した慣行栽培と比べると、有機栽培は収量や農作物の品質・見た目を維持することが難しいと言われていますが、これから日本がターゲットとするのは、日本国民だけではなく、世界の市場になっていくでしょう。見た目や品質についても、日本の評価基準ではなく、相手先国のニーズに合わせたものが求められるかもしれません。

ニーズに応じた農作物を作るようになってこそ、本当の意味で有機野菜が国内でも普及するようになっていくと考えられます。

(4)本当に農業を知らない人でも就農できるのか


スマート農業の目標のひとつとして、新規就農者を増やすことが挙げられます。そのために必要なことは、農業に関する知識や経験が乏しい人でも、失敗することなく栽培し、きちんと収穫できることです。


こうした新規就農者でも成功できそうなスマート農業とはどんなものかを考えてみましょう。


営農管理アプリのように、生産者自身が導入できるものもありますが、スマート農業を使うだけで、まったくの素人が今日から農業生産者になれるというほど、農業は甘くはありません。

しかし、日本料理の修行のように、農業も年数を重ねなければいい作物が作れないかと言えば、そうとも限りません。農作物の植生を知り、科学的な分析に基づいた適切な防除や施肥を行うことで、その作物にとって最も理想的な環境で栽培すること自体は、経験と勘ではなく、科学的根拠に基づいて画像診断なども組み合わせてできるようになっていくでしょう。

知識も経験もとても大切ですが、それらがなければなにもできない、という時代は終わりつつあります。これまで篤農家たちが培ってきたノウハウを、農業が持続可能な一次産業となるための礎として、農業という職業がもっと身近な選択肢になるような世界がやってくるはずです。


(5)本当に日本の農業は儲かるようになるのか


最後は、スマート農業によって農業が「儲かる産業」になれるのか、という点です。

現時点でも、北海道のようにもともとの区画が広い地域の生産者や農業法人は、規模の経済によって、すでに「儲かる産業」になっていると言えます。


一方、先祖が切り開いてきた圃場を大切に守る、という思いを持った中小規模の生産者が多い日本では、そのことの裏返しとして、離農しても土地をうまく活用できなかったり、耕作放棄地となってしまっているケースも後を絶ちません。

また、日本では栽培は得意な生産者が多い反面、より価値を高めて売るという方法論と、海外も含めた売り先の開拓はまだまだ課題と言えます。そのため、個々の生産者の努力ではなく、農業のニーズ調査や安定供給のための体制づくりといった、農業市場全体を俯瞰したマーケティング的視点も求められ始めています。

すべてのスマート農業は本来、「いまよりも儲けるため」にある技術ではありますが、あえて「儲かるため」という目的を掲げるとしたら、以下のようなスマート農業が挙げられます。


農作物に付加価値をつけることや、労働力をいまよりも効率よく短期間だけ集めると言った工夫にも、スマート農業が生かされています。また、スマート農業を栽培に限定しなければ、国が進める「農地バンク」や、農産物流通の仕組みづくりも、広義でのスマート農業と考えていいでしょう。

日本は10年近くデフレ経済に陥っており、金利は長らく0%のままです。100円ショップなどの安い商品ばかりが人気となり、給与も一向に上がる気配がありません。

本来、物価が上がることは、家計にとっては厳しいものではありますが、販売者側の利益が上がれば、他の商品の購買意欲も高まり、「安かろう悪かろう」から「価値あるものを買いたい」という消費マインドに変わっていくとされています。

かといって、農作物の価格を引き上げれば儲かるというほど簡単な状況でもありません。大事なのは、生産者の努力が正しく価値として還元されること。栽培はもちろん、流通や法制度、そして消費者の価格への意識なども含めて、総合的な改革が求められます。


スマート農業で持続可能な農業を実現するために大切なこと


ここまでさまざまなスマート農業の製品やサービスをご紹介してきましたが、一口に「スマート農業」と言っても目的も機械も様々であり、これを導入すればすべて解決する、というソリューションはありません。ドローンやロボットトラクター、完全制御の栽培施設などであっても、栽培の過程の一部分を代行しているに過ぎないからです。

こうしたことを踏まえて、失敗も成功もひととおり経験してきたいま、日本の生産者が「スマート農業」を活用する上での心構えとして、以下のようなことが言えると思います。

  • スマート農業は万能ではない
    スマート農業は、まったくの素人がいきなり巨万の富を得られるような技術ではありません。
  • スマート農業を使いこなすのは「人」
    いかに自動化が進んでも、AIやロボットがすべてではありません。人間にも継続的な努力が必要です。
  • スマート農業はあくまで高収益・労力軽減のためにあるべきもの
    導入や運用にコストがかかりすぎるスマート農業は本末転倒です。
  • 農業は進化し続けるもの
    昔ながらの農業を続けていく価値もありますが、多収・高利益のために新技術や栽培方法も学ぶことが大切です。

スマート農業自体はまだまだ発展途上の技術です。最近では、より広義の意味として「農業DX」(デジタルトランスフォーメーション)といった言葉も聞かれるようになり、単に栽培技術を高度化するだけではなく、流通や販売にも改革は及んでいます。

スマート農業技術は、人が幸せになるためにあるものです。成果を上げることができれば、生産者も、技術開発している人・会社も、消費者は当然として、国レベルや地球環境にとっても、誰もがプラスになる社会が実現できるでしょう。

きっと少し先の未来、いまこれだけ苦労したり議論を交わしていることが嘘のように思える時代が来ると思います。いまは「産みの苦しみ」の時期であり、旧来の「生産者側」を中心とした農業から、「消費者側」を中心とした農業への転換期と言えます。

10年、20年先の日本の農業のために、農業に関わるひとりひとりがいまできることを頑張っていくことで、結果的に未来の農業が当たり前に持続可能な産業になっているはずです。

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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。