自然災害にもスマート農業は有効か?【渡邊智之のスマート農業コラム 第7回】
農林水産省が10月27日までに各都道府県から受けた被害報告の集計では、9月に上陸した台風15号の被害額は509億2000万円、10月の台風19号は1221億7000万円。この二つの台風により、計約3万3000ヘクタールの農作物や果樹、67万匹を超える家畜のほか、農業用ハウスなどでも約2万6000件の被害があったらしい。
農地の損壊は約8000カ所、農業用施設の被害は約9000カ所で確認されており、その中でコメやりんごなど農作物の被害はおよそ1万4000ヘクタールにおよび、被害額は106億円となっているとのことだ。台風19号の被害額は、浸水の被害が広範囲に及んでいる地域を中心に、今後、さらに増える見通しである(朝日新聞等報道情報より)。
このような台風も含めた異常気象による自然災害によって、多くの農地が河川氾濫などで被害に遭う事象が昨今増えている。その結果、高齢化し、後継者のいない農業生産者は、離農という選択をする傾向にあり、結果的に農業生産者減に拍車をかけている。
こうなると「スマート農業では自然災害には太刀打ちできない、結果的に農業は一か八かのギャンブルから今後も離脱できない」となりそうだ。
確かに、今起きているすべての自然災害に対応できる魔法のようなテクノロジーは、現時点ではまだ存在はしないが、普段から精緻にデータを取得し、管理された農業を行うことで、被害を最小限にする工夫はできると私は思っている。
台風など自然災害時等による被害に幅広く補償するNOSAI(農業共済)の災害補填の場面において、現状では被害に遭った農業生産者が明確な被害額を計上できず、明確に示せないことから、スムーズに処理が進まず、共済金の支払いまでに時間がかかり、結果的に事業再建に間に合わず、離農につながるという事例が発生している。
ここでも、匠と呼ばれるベテラン生産者は、基本的に被害が少なく保険金を受けることも少ないと、関係者から聞いたことがある。これら匠は、目前に迫りくる自然災害に対し、万全の準備や対策をして臨むことによって、被害を最小限に抑えるノウハウをも持ち合わせているということになる。
それと同時に、これら崩壊したハウスの多くは、耐久年数をオーバーして使われていたという話も聞いている。ビジネス感覚を持った匠の農業生産者は、これら耐久年数を意識して厳守し、時期を見て設備の入れ替えなどを確実に行うことで、自然災害の影響を最小限にとどめることができたのだ。
このようなことの一つ一つの積み重ねが、農業というビジネス(事業)を永続的に続ける(サステナブル)ことにつながっている。
東日本大震災のあった同年である2011年1月、宮崎県では新燃岳が噴火し、私が農業現場の実情を知るために研修に入っていた農業生産法人有限会社新福青果の管理している多くの圃場にも、火山灰が降り注ぐという事象が発生した。
その時、新福青果の新福秀秋社長(当時)は、従業員に「災害によって発生した追加作業や、仕方なく破棄することになった野菜の被害額をすべて計上するように」と即座に指示されていた。
圃場やハウスに積もった火山灰の除去作業、収穫したキャベツに対しては、灰の洗浄や灰の入り込んだ外側の葉をはぐといった、通常では発生しない作業が増えた。また、外側の葉(鬼葉と表現される)をはぐことによって、青果としての流通が難しくなり、加工用キャベツとなってしまうことにより、販売価格も約半額まで下がってしまったのである。
こうしたコストアップおよび売価半減の要因をすべて精緻に計上することで、どんぶり勘定農業では把握できない明確な(収入減も含めた)被害額が算出された。その結果、共済金請求も容易に行うことができ、結果的に早期に共済金を受け取ることにつながり、リカバリーの実現に貢献したのである。
このようなビジネス農業の姿勢が、流通や小売企業等のステークホルダーに対し、組織および個人の評価向上にも貢献するのだ。こうして普段から精緻な「スマート農業」を実践している農業生産者は、次世代農業人材(スマートファーマー)として日々レベルアップすると同時に、信頼度も積み重ねていく。
こうして自然災害の場面においても、「スマート農業」の実践によって、災害で発生した作物の被害額(廃棄、価格の下落など)はもとより、各種のリカバリーにかかった人件費や資材費など、明確な根拠のある数値を即座に示すことができる。
そして、早期に災害保険による補填がされ、ステークホルダーからの信頼を勝ち取り、結果的に事業継続を可能にするのである。
農地の損壊は約8000カ所、農業用施設の被害は約9000カ所で確認されており、その中でコメやりんごなど農作物の被害はおよそ1万4000ヘクタールにおよび、被害額は106億円となっているとのことだ。台風19号の被害額は、浸水の被害が広範囲に及んでいる地域を中心に、今後、さらに増える見通しである(朝日新聞等報道情報より)。
このような台風も含めた異常気象による自然災害によって、多くの農地が河川氾濫などで被害に遭う事象が昨今増えている。その結果、高齢化し、後継者のいない農業生産者は、離農という選択をする傾向にあり、結果的に農業生産者減に拍車をかけている。
蓄積したデータで自然災害による被害を最小限に
2019年度から農林水産省が約50億円を投じて実証を行っている日本全国の多くの現場でも、この自然災害の影響は大きい。結果的に、ロボット農機やドローンを導入したことによる効果測定や、各種分析等に影響が出てくるのは間違いない。こうなると「スマート農業では自然災害には太刀打ちできない、結果的に農業は一か八かのギャンブルから今後も離脱できない」となりそうだ。
確かに、今起きているすべての自然災害に対応できる魔法のようなテクノロジーは、現時点ではまだ存在はしないが、普段から精緻にデータを取得し、管理された農業を行うことで、被害を最小限にする工夫はできると私は思っている。
台風など自然災害時等による被害に幅広く補償するNOSAI(農業共済)の災害補填の場面において、現状では被害に遭った農業生産者が明確な被害額を計上できず、明確に示せないことから、スムーズに処理が進まず、共済金の支払いまでに時間がかかり、結果的に事業再建に間に合わず、離農につながるという事例が発生している。
ここでも、匠と呼ばれるベテラン生産者は、基本的に被害が少なく保険金を受けることも少ないと、関係者から聞いたことがある。これら匠は、目前に迫りくる自然災害に対し、万全の準備や対策をして臨むことによって、被害を最小限に抑えるノウハウをも持ち合わせているということになる。
自然災害に対応できる生産者
2014年2月に記録的大雪が降り、山梨県をはじめとした関東エリアにおいて、多くのビニールハウスが崩壊する事象があったことを覚えているだろうか。この時も数百億円の農業被害が発生し、今回の台風と同様に多くの離農者を出す結果となった。それと同時に、これら崩壊したハウスの多くは、耐久年数をオーバーして使われていたという話も聞いている。ビジネス感覚を持った匠の農業生産者は、これら耐久年数を意識して厳守し、時期を見て設備の入れ替えなどを確実に行うことで、自然災害の影響を最小限にとどめることができたのだ。
このようなことの一つ一つの積み重ねが、農業というビジネス(事業)を永続的に続ける(サステナブル)ことにつながっている。
東日本大震災のあった同年である2011年1月、宮崎県では新燃岳が噴火し、私が農業現場の実情を知るために研修に入っていた農業生産法人有限会社新福青果の管理している多くの圃場にも、火山灰が降り注ぐという事象が発生した。
その時、新福青果の新福秀秋社長(当時)は、従業員に「災害によって発生した追加作業や、仕方なく破棄することになった野菜の被害額をすべて計上するように」と即座に指示されていた。
圃場やハウスに積もった火山灰の除去作業、収穫したキャベツに対しては、灰の洗浄や灰の入り込んだ外側の葉をはぐといった、通常では発生しない作業が増えた。また、外側の葉(鬼葉と表現される)をはぐことによって、青果としての流通が難しくなり、加工用キャベツとなってしまうことにより、販売価格も約半額まで下がってしまったのである。
こうしたコストアップおよび売価半減の要因をすべて精緻に計上することで、どんぶり勘定農業では把握できない明確な(収入減も含めた)被害額が算出された。その結果、共済金請求も容易に行うことができ、結果的に早期に共済金を受け取ることにつながり、リカバリーの実現に貢献したのである。
このようなビジネス農業の姿勢が、流通や小売企業等のステークホルダーに対し、組織および個人の評価向上にも貢献するのだ。こうして普段から精緻な「スマート農業」を実践している農業生産者は、次世代農業人材(スマートファーマー)として日々レベルアップすると同時に、信頼度も積み重ねていく。
こうして自然災害の場面においても、「スマート農業」の実践によって、災害で発生した作物の被害額(廃棄、価格の下落など)はもとより、各種のリカバリーにかかった人件費や資材費など、明確な根拠のある数値を即座に示すことができる。
そして、早期に災害保険による補填がされ、ステークホルダーからの信頼を勝ち取り、結果的に事業継続を可能にするのである。
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