次世代の農業生産者「スマートファーマー」の人物像とは【渡邊智之のスマート農業コラム 第4回】

日本の農業生産者をとりまく現状と課題

現在、農業を営むに当たり、医師や弁護士と同じような国家資格は存在しない。

そのため、農業高校を卒業して、親の農業を継ぐもの、大学の農学部にて生育に関する専門的な知識を得るもの、社会人をしながら休日に農業を学びその後、農業の世界に入って来るもの、大手の企業が新規産業の一つとして農業に参入し、その従業員として農業に携わるものなど、バックボーンは多種多様である。

従って、これらすべての農業者に適した仕組みを作るのは、ICTソリューションを開発する企業にとって非常に高いハードルの一つになっている。ある1人の農業者向けに作ったソリューションは、別な農業者には全く当てはまらないということが多々発生してしまうからである。

このように、現在に至っても100人いれば100通りの農業が行われているのが、実状である。

前述のように資格がないことも一つの要因とは思うが、農業は「自分の好きなタイミングでできる職業」というイメージが強い。企業に勤める会社員などが、憧れとして語る。大企業においては、精神疾患の社員の病状改善のカンフル剤として期待されている。

その結果、農業法人の若者の中には、他の職業に就いてみたが向かなかった人材が「農業ならばきっと自分にもできるだろう」という安易な考えで門を叩くシーンが多い。

しかしながら、ビジネス農業はそうは甘くない。


例えば、どんなに炎天下でも大雨であっても、よっぽどのことがなければ顧客との約束が一番の重要事項で、決められた期日に決められた量を納品するために、日没後もクルマのヘッドライトを頼りにしてでも収穫を行う、なんてことは多々ある。結果的に、ゆったりとした職業のイメージと現実の乖離を知った若者たちは、あっという間に辞めていってしまうのである。

農業生産者には、環境、種苗、生育、在庫、市況、人材、農機など、全方位のあらゆる感性やスキルが求められ、高品質な農業生産物を生産するために多くの知識と経験が必要とされる。そんな状況にもかかわらず、日本における農業という職業のプレゼンスが低すぎると筆者は、感じている。

農業は体力だけでなく知力も重要であり、さまざまなことを代表者1人で判断しなければならないことが多い。さらには、現在日本の農業高等学校や大学の農学部、農業大学校の大多数の学生は、卒業しても食品関連企業などの企業に勤めてしまい、新卒時に就業先として農業を選択する若者はごくわずかである。

これは前回のコラムでも書いた通り、農業という職業が創意工夫や試行錯誤が対価として認められにくく、「努力が報われない」職業であることが、プレゼンスを大きく下げている原因であると筆者は分析している。

また、農業高等学校や大学の農学部、農業大学校では、農業生産物の生産に関わる所や農学の専門的な知識は学んでも、経営に関するカリキュラムは十分とは言えない状況にある。その結果、いざ就農してみると多くのことを学ばなければならない必要性を知り、困窮してしまうのである。

その中でも農業大学校は、比較的就農を意識した方が通っているとは言え、従来型の農業に就くことを前提にしたカリキュラムで進められており、大規模化が進み従業員を多く雇うような農業など、さまざまな社会情勢を反映した教えにまだまだなっていないのが実情である。

今後必要となるのは次世代の農業生産者「スマートファーマー」


今後高齢化による農業生産者の大幅減により、大規模化が進む農業経営組織には、生産技術だけではなく、経営やマーケティング、その他の起業に必要なスキルとICTおよび各種データ分析スキルも身につけた次世代の農業生産者(スマートファーマー)が必要とされている。

このスマートファーマーは、「かっこよく・感動があり・稼げる新3K農業」の実現者であり、下記に列挙した条件も含めた、八面六臂に農業現場で起こりうるさまざまなリスクを最低限に抑え、最大限の収益を得ることができるスーパー農業生産者のことを示している。

スマートファーマーの条件
1.気候や土壌や作物の状態と市況を意識するだけではなく、顧客との契約納期を必ず守る。
2.病気や害虫の発生のリスクにもいち早く対応し、歩留まりの向上、生産ロスを減らす努力をしている。
3.センサー等から蓄積されたさまざまなデータを分析し、自身ならではの生産方法を裏付け、生育手法の明文化(マニュアル)をすることで、各種リスクを回避した採算性の良い農業を実現している。
4.コスト意識を常に持ち、生産期間中に積み上がるコストを日々管理し、なんらかのミスや事故によりコストが跳ね上がる事があってもスピーディーにリカバリを行い、リスクを最低限に抑えることができる。
5.多くの従業員を雇うことにより、地方で雇用を生んで地域活性化・地方創生に貢献している。心身に障害を抱えている方も多く採用し、ロボットなどを活用することで健常者と同じ以上の作業効率で仕事ができる職場を作りあげる努力をしている。
6.地域で取れた農業生産物は、その地域でなるべく消費できるような工夫をし、それと並行して、遠方からの観光客を呼び込むような工夫をしている。
7.未来の日本の人々のことも考え、最大限環境に配慮した農業を実施している。

あらゆる場面においてこれら思考の元に判断をするスマートファーマーが日本全国に増えることで、日本の農業はいままでにない進化を遂げるのは間違いない


【コラム】渡邊智之のスマート農業/農業DXコラム
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WRITER LIST

  1. よないつかさ
    1994年生まれ、神奈川県横浜市出身。恵泉女学園大学では主に有機栽培について学び、生活園芸士の資格を持つ。農協に窓口担当として5年勤め、夫の転勤を機に退職。アメリカで第一子を出産し、子育てをしながらフリーライターとして活動。一番好きな野菜はトマト(アイコ)。
  2. syonaitaro
    1994年生まれ、山形県出身、東京農業大学卒業。大学卒業後は関東で数年間修業。現在はUターン就農。通常の栽培よりも農薬を減らして栽培する特別栽培に取り組み、圃場の生産管理を行っている。農業の魅力を伝えるべく、兼業ライターとしても活動中。
  3. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  4. 沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  5. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。