日本人の農法を「農業法人ブランド」に【渡邊智之のスマート農業コラム 第2回】

農家の高齢化、労働力不足の本質とは

5月の11日、12日に新潟にてG20農業大臣会合が開催され、その中で日本が誇る最先端の「ロボットトラクター」がお披露目された。これは、日本の「スマート農業」について諸外国にアピールを狙ったものだと思われるが、筆者としては多少物足りなさを感じる結果となってしまった。

先進国を除いた諸外国の農業大臣たち(先進国では同等なものが作れるという見解)に日本の最先端技術をアピールするのには十分良い題材であったが、本来、日本の農林水産大臣に誇っていただきたかったのは、世界各国から安心・安全で高品質として一目置かれている日本の素晴らしい農産物である。

これは単に美味しい農産物を諸外国の大臣に食べてもらうということではなく、日本の匠の農業者の技術を後世に残すために、日本はどんなチャレンジをしていて今現在どんなことができているのか、確立した生産手法は、世界に輸出することで未来永劫「ジャパンクオリティ」の高付加価値な農産物を諸外国でも食べることができるんだということを、アピールしてもらえたら良かったのにと思ったからである。


農業における代表的な問題として、従事者の高齢化による労働力不足が取り沙汰される。その問題を解決すべくロボットや外国人、女性の活躍となるのは十分に理解できる。しかしながら、なぜ高齢化し従事者が減ったのかという本質的な理論にはなぜ触れないのであろうか。

筆者の周りにいる農業者のロボットトラクターに対する多くの反応は、「あんなに高額なものは買えない」もしくは「自分の営農規模では必要ない」といったところが主な感想であろう。

確かに広大な農地を使い、大規模に生産を行う農業法人は急増を続けている。今後もこの傾向は変わらず、耕作放棄地を活用してさらに増加していく見通しである。

しかしながら現時点、ロボット農機は公道を無人で走行することは許されていないために、トラックに搭載して対象圃場まで運搬(これは圃場を移動するごとに必要)するか、そこまで農業者が運転して持って行き、圃場の中に入ったら自動走行させるという運用しかできないのが現状だ。

結果的に、ロボット農機が圃場内で動作している間、その場に縛られるといったことが発生し、一人で複数台の農機を操るといったことをしない限り、現時点ではコスト面で大きな効果には至らない。農機倉庫から圃場まで、圃場と圃場間の移動を考えると、ロボット農機である程度の効果を得るには最低1ヘクタール程度の広さが必要だが、本州以南の農地は猫の額のような農地がまだまだ多く、実態に即してないと筆者は感じている。

本州以南の大規模農業者の耕作農地の例

ロボットの導入というのは、どうしても作業の効率化に意識がいってしまう傾向にあるが、ロボットの導入により、リスクが減り歩留まりが向上もしくは品質が向上し、さらには収益が増大することも同時に考えなければならない。

現時点においてもまだ少数派のスマートファーマー(筆者造語:生産だけでなく経営やITにも精通した次世代農業者)は、経営者も含めすべての従業員の作業時間をすべて計上し、常に作業の効率化によるコストダウンを意識している。さらにはリスクや品質にも気を配っている。従って、彼らが補助金などに頼らずロボット農機を購入し始めたら、「費用対効果」があると判断したと思っていい。

日本人の農法を生かした「農業法人ブランド」

そもそも、日本の農産物が安心・安全と謳われているのは日本の国土で作られているからではなく、日本人が生産していることに理由がある。この日本人の農産物の作り方を「日式農法」(筆者造語)として確立できれば、世界各国どこで生産しても日本の農産物と同じように高いプライオリティで扱われるようになる。

これにより、現在の「場所」に紐付いたブランドではなく、「農業法人ブランド」というのが少しずつだが出て来ると予想している。



宮城県の山元町でイチゴの生産をしている農業生産法人 株式会社GRAの取り組みはその先駆けと言っていいだろう。GRAの「ミガキイチゴ」というブランドは、品種ではなく生産方法を重要視したブランドであり、日本の至るところだけでなく、世界のどこで作っても「ミガキイチゴ」として名を付けて出荷ができるというビジネス戦略だ。

現に、すでにインドやドバイといった諸外国での展開を進めている。結果「日式農法」で作られたイチゴとして、非常に高付加価値がついて販売されている。


日頃から日本の素晴らしい農産物を食べている日本の国民にはピンと来ないかもしれないが、諸外国の人々および海外に旅行や出張の多い方々は、「日本の農作物品質は他国の品質とは比べ物にならないほど素晴らしい」と口を揃えて話される。この匠の農業者の素晴らしい生産ノウハウを、一つでも多く明文化して未来に残すという重大なミッションが、現在進行中と筆者は考える。

従って、日本のテクノロジー企業は、総力を上げて日本の農業の匠の生産方法明文化を支援し、農業生産者は、元気なうちに自分の農業生産や経営のノウハウを明文化し、事業承継に向けた準備を急ぎ進めてほしい。

<参考URL>
農業生産法人 株式会社GRA

【コラム】渡邊智之のスマート農業/農業DXコラム
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WRITER LIST

  1. よないつかさ
    1994年生まれ、神奈川県横浜市出身。恵泉女学園大学では主に有機栽培について学び、生活園芸士の資格を持つ。農協に窓口担当として5年勤め、夫の転勤を機に退職。アメリカで第一子を出産し、子育てをしながらフリーライターとして活動。一番好きな野菜はトマト(アイコ)。
  2. syonaitaro
    1994年生まれ、山形県出身、東京農業大学卒業。大学卒業後は関東で数年間修業。現在はUターン就農。通常の栽培よりも農薬を減らして栽培する特別栽培に取り組み、圃場の生産管理を行っている。農業の魅力を伝えるべく、兼業ライターとしても活動中。
  3. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  4. 沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  5. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。