日本の農業は規模の経済が働きにくい?【渡邊智之のスマート農業コラム 第16回】

昨今、農業法人は年々増加し、その耕作面積も大規模化しているが、日本の農業の大規模化の状況は欧米のものとは大きく異なっている。

海外ではひとつの圃場の面積が広大な大規模農場が一般的だが、1ha未満の小さな田畑(以後、圃場)をたくさん所持しているというのが、日本的大規模農業の実情なのである。

このように、小さな圃場を多く所持していることで、多くの無駄が発生している。



日本特有の大規模農業事情


例えば、農業機械も事務所からトラックに乗せて運ぶが、一つの圃場の作業が終わるとまたトラックに乗せて移動させる必要が出てくる。さらにはトラックへ乗せたり降ろしたりする作業は危険であり、1人ではなく複数人が関わるなど人的リソースも多く必要となる。

また、圃場が多く点在しているために、作業する方が間違って他人の圃場に入り各種作業をしてしまうという事例も発生している。

その結果、その農業生産物に被害が発生した場合のリスクも考えなければならない。最悪の事例としては、有機農場に農薬を散布してしまうといったこともあり得る。

このような小さな圃場を多く使って生産する日本的大規模農業生産者は、大規模になることで家族経営の農業では起こりえない未曽有の問題に直面している。その結果、歩留まりは低下し、意外だが大規模農業生産組織の10aあたりの収穫量は、人的リソース不足や優先順位の判断ミスなどにより、家族経営の小規模農業生産者を下回る傾向にあると筆者は考えている。

そこで、規模の経済の相関を見ようと、圃場の広さと作業時間の関係を10aあたりで比較したところ、相関が全く見られないという結果になった。土壌がぬかるんでいて農業機械がスタックしたり、雑草を放置しすぎて除草に大幅な時間がかかってしまったりなど、理由は様々である。

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同時に、作業される方個々のスキルも明白になっていないため、苦手な作業を継続して担うことによりかさんでしまうということも考えられる。従って大規模化による規模の経済がほとんど働かないのである。

これらを解決するには、自動で動くロボット農業機械が必要になり、しかもそのロボット農業機械たちがナンバーなどを必要とせず公道を走れるようになれば利便性は向上する。


農産物輸出額世界2位のオランダの輸入額


農業の世界において規模の経済の実現に成功し、「スマート農業」の先進国として一番に思い浮かぶのはオランダだ。

オランダは日本の九州地方同等の面積でありながら、「フードバレー」の取り組みや最先端技術を使った次世代施設園芸にて成功し、農業生産物輸出額がアメリカに次いで世界第2位に位置する国として、日本でも多くの人に知られている国である。

昨今、このオランダを日本政府の総理大臣も含めた多くの閣僚や著名人が訪問、取材を行い「これからは日本もオランダを見習わなければならない」とコメントされるシーンをよく見る。

現時点ではオランダに「追いつけ、追い越せ」の風土で進んではいるが、オランダを参考とすることが本当に日本の目指す農業の正しい姿になるとは限らない。確かにテクノロジーの面では大いに参考になるのは想定できるが、それだけではオランダのようにはなれないし、日本がオランダの農業を実践しても生産者や消費者も含めた国内の食・農業に関するステークホルダーがハッピーになるとは限らない。

その理由は、輸出量にばかり目が行き、輸入量についてはあまり語られていないということによる。

オランダは、輸出量とほぼ同等の食料品を近隣諸国から輸入していることが統計データから読み取れる。要するに、オランダは国策でトマト、パプリカ、花卉等の輸出に特化し、残りの生産物についてはすべて輸入することに国策で徹したのである(オランダ型輸出農業)。これは陸続きに隣国があるオランダだからこそ実現できる施策であり、一部の大規模農業生産者を拡大させる政策を取れた国家の決断によるものである。

その事実にはほとんど触れずに、すぐにオランダを見習って追いつけ、追い越せといったメディア主導の議論がなされているが、島国である日本においても、オランダと同じ手法で進めて行くのは危険であり、現在の日本の政策スタンスでは実現不可能である。

もし今後も同じ路線で、オランダを真似して「安価な農業生産物を大量生産する農業に特化する」という政策が推し進められ、その方向に進むのであれば、日本のブランドを支えている精緻な農業生産による安心・安全で高クオリティ・高付加価値という大きなアドバンテージを自ら捨てることになりかねない。



オランダ農業の真似は正しい?


国策として農作物の輸出を打ち立てたオランダにおいて、1996年には「グリーナリー」(The Greenery)のような、九つの卸売市場と数社の輸出入業者が統合・合併した「協同組合・会社(持ち株会社)組織」が誕生した。以降、オランダの多くの生産者は、これらの新しい組織に参画していった。

現在は、1000名を超える生産者からなるオランダ国内最大の生産者組織であるグリーナリーは、旧来の卸売市場を運営していた協同組合が、EUにおける需要の急速な変化に対応するため、さらには、大手スーパーマーケットの急速な発展に市場力が低下し、卸売業者に対するマーケティング機能と物流機能を強化していく中で、国際競争の中において価格を維持するために設立された。高品質な製品と付加価値サービス(パッケージングなど)を提供し、流通等の拡張機能を有することで、サプライチェーンや小売販売業側と強力な関係を構築するために生まれたのである。

日本のように、国としては「輸出促進」というメッセージを発信しながらも、あとは自治体や農業現場に任せるというやり方では、国策として本腰を入れてあらゆる手段を使って農業生産物輸出額世界第2位まで昇りつめたオランダと同じ施策は取れない。また、事情の違う日本で同じことを実施しても失敗に終わることが予想される。

筆者は、大規模大量生産ではなく、日本の農業の特色(高品質など)を生かした日本ならではの「スマート農業」の実現が求められていると思う。

【コラム】スマート農業コンサルタント・渡邊智之のスマートアグリコラム
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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  2. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  3. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  4. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  5. 藤本一志
    ふじもとかずし。大学・大学院の6年間を通して地域づくりと農業の活動に関わる。1年間のサラリーマン生活の後、学生時代から活動していた地域に移住し、2拠点居住を開始する。移住支援を通じた地域づくり活動に取り組む傍ら、兼業農家として稲作に取り組む。