大規模化する農業へのロボット活用が不可欠に【渡邊智之のスマート農業コラム 第19回】

2015年10月に第三次安倍改造内閣にて「一億総活躍社会の実現」というスローガンを掲げていたことを覚えている方も多いだろう。これはGDPの数値改善や健康寿命延伸による医療費削減という思惑からであることは容易に想定できる。

今までは、農業といえば「きつい・汚い・危険」と表現され、重労働であるというイメージが強く、高齢者や女性が取り組みにくい職業の代表であった。しかし、現在国が労働力として期待しているのは、高齢者や女性、障がい者、若年無業者(いわゆるニート)、外国人である。


今、農業生産の現場においては、生産者の高齢化などにより、就農人口は年々大幅に減っており、今後も下降していくことが予想されている。

にもかかわらず、日本の農業の労働生産性は数十年前と比較しても依然としてほとんど改善されていない。また、日本の人口も今後大幅に減っていくと予想されているため、作業における人間の負担を軽減してくれるであろうロボット技術の進歩に非常に期待が寄せられている。


スマート化が進んでいる農業界

2018年にドラマとして放映され話題となった「下町ロケット」で描かれていたように、ロボット農業機械(以下、ロボット農機)については劇的な進化を遂げており、有人監視下で無人による自動運転作業が可能なロボット農機が各農機メーカーから続々と販売が開始された。2018年はロボット農機元年と言えるだろう。

2019年からは農林水産省の「スマート農業実証プロジェクト」にて採択された各コンソーシアムにより、日本全国で多くのロボット農機が走りはじめた。

これらロボット農機は各種センサーが搭載され、機械の傾きや位置を測定し、旋回や作業機の上げ下げといった作業を自動化することができる。随伴する農機に乗車した作業者がタブレットに表示されたロボット農機の映像を確認しながら複数台で協調作業することで、1人でも複数台の農機を使用する作業が可能となり、より効率的に作業が行えるようになる。

また、これら大型のロボット農機だけでなく、小型の生育状況を見回るロボット、トマトやイチゴの収穫ロボットなどさまざまなロボットが続々と世に出始めている。


ロボットのサポートで、農作業の負担が軽減

フューチャアグリ株式会社では、低コスト小型農業用ロボットとして「栽培見回りロボット」や「自律移動台車ロボット」の開発に既に成功しており、「自律移動台車ロボット」についてはキットとして2020年に製品化された。

「栽培見回りロボット」はAIを搭載しており、自動でビニールハウス内を1日3回動き回り、高性能センサーでハウス内部のそれぞれのポイントの温度や湿度、照度、二酸化炭素濃度など各種環境データを収集する。また、現場の画像を撮影し生育具合を解析したり、害虫や病気の発生を検知したりもする。これにより、ハウス内のエリアによって異なる温度や湿度などのムラの把握が可能となるのだ。



特に四季のある日本においては、地域によって気候風土が異なるため、その地域の環境特性にあった閾値の設定が、このロボットの活用により可能となる。ハウス内のCO2濃度がポイントによって、150ppmもの差があるといったことが発見できたという事例もあったそうだ。

同じことを固定型のセンサーを使って行おうとすると、1haのハウスで100個も必要になる。これらをセンサー付きの栽培見回りロボットがハウス内をくまなく走行して各種データを取得し、クラウド環境へ蓄積してくれれば、最適な閾値の設定などにも貢献してくれる。

「自律移動台車ロボット」のユースケースは、収穫作業時に「取った野菜を入れたカゴを台車に乗せて押す」という場面である。超音波センサーで作業者を認識し、その動きに合わせて作業者と一定の距離を保ち離れてくれる。搭載されている重量を絶えずチェックし、一定の重さになったら、自動的に集荷場に向かう。また、収穫した農業生産物を人間の移動に合わせて、一定の間隔を保ちながら運搬してくれる。これにより、収穫時の労働生産性が2倍以上も向上し、収穫時の98%の軽労化に役立つということがデータで確認できている。この2種類のロボットの相乗効果により相当な作業負荷の軽減が可能となるのだ。


スポーツの世界では、選手の動作をAIやビッグデータで解析し、フォームや体重移動などについての選手の欠点を見出し、最大のポテンシャルが発揮できるよう改善指導ができるほどに進化している。このテクノロジー自体は、十分に農業の分野にも応用が可能である。

確かにまだすべての作業をロボットに置き換えることは難しい。しかし、ロボットが、ベテランの農業者の視線や動作を常に意識し、その補完として自分の行うべき作業を判断し、タイムリーに効率的に正確な動きができるようになる時代もすぐそこに来ているのだ。


誰でも“ラクに”農業に取り組める未来へ

筆者が農林水産省の職員時代に総理官邸にドローンが落ちてから、ドローンを飛ばすのにも規制ができてしまい、許可申請が必要となった。そのため、人口集中地域において一般人が趣味で飛ばすというのは、かなり難しくなってしまったが、その中でも比較的飛ばす条件をクリアしやすいのが農地である。

現時点で、農業においてドローンが主に活用されているシーンは、農薬の散布、害虫の駆除、マルチスペクトルカメラを使った撮影によるリモートセンシングなどである。

以前は衛星画像などを使って行っていたリモートセンシングも、ドローンが登場したことでより簡易に行えるようになった。

マルチスペクトルカメラにて撮影された画像は、AIを使った解析により、圃場内の栄養分のバラつきを把握し、その結果精緻な施肥設計を行い、その場所に応じた肥料をピンポイントで散布できるようにまでなっている。これにより、肥料代のコストを低減できると同時に、適切な施肥により、農業生産物の品質も向上し(例えば、二等米が一等米になるなど)、結果的に収益の増加につながっているのだ。

ドローンの一番のメリットは、プログラミングにより、人が制御をしなくても自動で飛んで行けるという点である。そのため夜間でも作業ができ、農業生産者の作業効率向上に明らかに役立っている。こういった技術は10年もかからず、実現できるのではないかと考えられる。ぜひ、新しい技術を農業者たちが次々に取り入れてくれることに期待したい。

近い将来 、農業は“体力や若さを兼ね備えた人しか取り組めない職業”といった枠組みから外れるのではないだろうか。

ロボットやドローンが圃場や施設の見回り、24時間365日タイムリーに各種センシングを行い、耕耘、播種、除草、肥料散布、農薬散布、収穫など多くの作業がロボットやドローンが人間の代わりに働いてくれる。さらに、AIが発展していけば、ロボット同士・ドローン同士が自律的な動作が可能となり、人間の感覚値で行っていたさまざまな作業をも担ってくれるようになるだろう。どうしても人間がしなければならない作業はアシストスーツを着ることで10分の1の力で実施でき、重労働からも解放されるはずだ。

将来的には、ロボットによって障害のある方々が農業現場で働きやすくなるという支援にもなるとよい。

【コラム】渡邊智之のスマート農業/農業DXコラム
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  3. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  4. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  5. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。