スマート農業で日本の農業の匠の技術を輸出【渡邊智之のスマート農業コラム 第6回】

過去に例を見ない日本の農産物の輸出総額

日本食は、「ヘルシーで美しくて美味しい」という理由で世界各国でブームになっている。その結果、海外において日本食レストランも爆発的に増加の一途をたどっている。それに加えて日本の食料品の輸出は現在9068億円程度(2018年実績、農林水産省調べ)と、2013年の時点では5505億円であったのでここ数年で倍増している。

もともと日本の生産物の海外需要(特にアジア)は十分にあったが、2013年6月14日 の日本再興戦略の閣議決定などにより国策として取り組みはじめた。その結果、多くの規制緩和がなされ、震災における福島の原発事故による風評被害を受け、国内需要は大幅な打撃を受けたにもかかわらず、食品関連の輸出額が年々過去にない伸びを示している。

政府は日本の食品の輸出総額目標として、当初2020年までに1兆円という目標を立てていたが、年々右肩上がりに増えている状況を見てそこまで待たずに達成しそうと判断し、「未来投資戦略2018-「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革-」(2018年6月15日)では2019年に前倒しするとして計画を見直した。前倒しで達成するということは、政府目標としてはかなり珍しいことであろう。



高品質な農産物の輸出、日本企業の海外進出が加速

今後、現在全体の1~2%ほどの事業収入5000万円以上の農業経営体が増加すれば、さらに輸出額を増やすことができると筆者は考えている。過剰になり生産調整されていた農業生産物を、今後人口が大幅に増加することにより、需要が増大する海外に輸出していくのである。

またその結果、高クオリティ・高付加価値で高価な農業生産物は、海外(特に富裕層の人口が日本の総人口程度存在していると言われている中国など)の富裕層に流れ、日本国民の大多数は海外からの輸入食材と大量生産にて生まれた安価な農業生産物を購入することになる。

同時に、国内農業企業は海外に生産拠点を設けるといった方向になっていくだろう。

結果的に、食・農業の農林水産業の世界でも空洞化が起こる可能性は大いに秘めていると筆者は考えている。これは日本経済が停滞しており、国民の節約手法の第一に食費が挙げられ、安心・安全よりも販売価格が消費者の選択の重要なファクターになっているという理由からも推定できる。


「日本産」ではなく「日本人が作るから」こその信頼と安全

「日本の農業生産物は、安心・安全」と各方面で表現されている。しかしながら「日本で作っているから安心・安全だ」という「イメージ」だけでは、海外からあらゆるチェックを通って入ってくる激安で比較的安心・安全な生産物に勝つことは難しいだろう。

要するに、中国産に安全性に問題のある食品が多数存在した事実が、国産の安全性を保証するものではないことは当然であるが、日本では信仰にも似た国産への傾倒が顕著である。これはマスコミによる過剰な報道や日本人独自の特性が関係していると考えられている。しかも、その根拠は必ずしも明確ではない。国内産の食品も、生産段階及び小売段階で安全性を損なう危険性が多分にある。

また、過去にも多くの事故や事件が発覚している。生産段階では、農業生産者による無許可農薬の使用や、農薬の規制回数をオーバーするといった事象である。小売段階では、要冷商品の非冷販売や偽装表示などが行われる危険性がある。

海外から見て、日本の農業生産物が安心・安全と謳われているのは、日本の国土で作られているからではなく、日本人の真面目で試行錯誤や創意工夫を厭わず、繊細で最高の物を作るという気質に価値を感じてくれているのである。農業者の世界ランキングをつけるとなれば、日本の農業生産者が世界ランキングの上位のほとんどを占めるに違いない。

この日本の農業生産者の生産方法をスマート農業の実現によって「日式農法」(筆者造語)として確立できれば、世界のどこで生産しても日本の農業生産物と同じような生産方法によって高品質の農産物が生産され、結果的に市場では高いプライオリティで扱われる。


農業ビッグデータの解析で「日式農法」の確立を

国策としても、現在ここ数年間で蓄積された「農業ビッグデータ」を解析することで、日本の農業の匠の技術を明文化して、「日式農法」を明らかにしようという取り組みが日本各地で始まっている。今更ながらではあるが、「ジャパンブランド」を維持・発展させるために、日本人が作る、安心・安全な生産物の生産方法をマニュアル化することにより、「日式農法」として我が国ならではの生産方法を確立し、「ジャパンブランド」の農業生産物と一緒に輸出していくことを日本は目指している。

筆者もこの施策自体は、間違っているとは思わない。しかしながら筆者の感覚では、まだまだ時期尚早であると言わざるを得ない。「日式農法」をモデル化するにあたり、気候条件が全く違うエリアのデータを集め、相関を取っても日本国内でさえどこにも当てはまらないモデルができてしまう。

他産業はともかく、こと農業に限ってはエリアに閉じられた気候や土壌をキーにしたノウハウやナレッジが重要であり、それらを確立することが地域の生産物のブランドを確固たるものにする太鼓判(証明)になるのである。


未来投資戦略 2018 ―「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革―(PDF)

【コラム】渡邊智之のスマート農業/農業DXコラム
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WRITER LIST

  1. よないつかさ
    1994年生まれ、神奈川県横浜市出身。恵泉女学園大学では主に有機栽培について学び、生活園芸士の資格を持つ。農協に窓口担当として5年勤め、夫の転勤を機に退職。アメリカで第一子を出産し、子育てをしながらフリーライターとして活動。一番好きな野菜はトマト(アイコ)。
  2. syonaitaro
    1994年生まれ、山形県出身、東京農業大学卒業。大学卒業後は関東で数年間修業。現在はUターン就農。通常の栽培よりも農薬を減らして栽培する特別栽培に取り組み、圃場の生産管理を行っている。農業の魅力を伝えるべく、兼業ライターとしても活動中。
  3. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  4. 沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  5. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。