「ジャパンブランド」をさらなる高みに!【渡邊智之のスマート農業コラム 第13回】

農業の匠と呼ばれる日本の農業生産者は日々、よいものを作ろうと懸命に努力をされており、「味では負けない、品質では負けない、技術では負けない」と語られ、国内の他の地域をライバルと意識し常に戦われている。

しかしそれは、「自分は日々努力をしている」という自信から語られており、自分の農業生産物ならではの特徴を明確に伝えられているとは言い難い。

こうして日本の農業生産者が、国内の地域間競争に相当の労力をかけて戦っているのをよそ目に、海外では「ジャパンブランド」のプレゼンスの高さを利用し、さまざまな日本産をイメージさせるブランドが生まれてしまっている。「和牛」がその代表例である。


「ジャパンブランド」の価値を正しく伝えるためには

平昌オリンピックにて、カーリング女子チームが試合中の補助食品として食べられていたイチゴが、もともとは日本で品種改良された物であったという報道はまだ記憶に新しいのではないだろうか。

参考・韓国イチゴに農水相「日本品種が流出」カーリングで注目|朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASL324Q0QL32ULFA00R.html


このような事情を消費者が知ってくれていればよいが、日本にて血の滲むような努力の末に生まれたすばらしい品種が、その後なんらかの事情で海外にて生産され、その国独自のものとしてブランド化されてしまったり、逆に「和牛」のように日本産として誤認識するような名前で流通し、食した結果「美味しくない」という感想を持たれてしまうと、「ジャパンブランド」のイメージダウンにつながることが危惧される。

また、現在の「ジャパンブランド」は「場所」に紐付いており、その地域で収穫されたことがブランドとされているために、生産者の違いによるクオリティのばらつきが発生することは否めない。結果的にクオリティの低い農業生産物を最初に手に取った海外の消費者は、「ジャパンブランド」に対する不信感を持つことになるのだ。

したがって、農業生産物の輸出を考えた場合、最初は海外の富裕層をターゲットとし、クオリティを制御し、さらには細かなランク設定を行って、最高級ランクの物だけを出していくという戦略が必要である。富裕層にしっかりとファンを作ることができたら、次のステップとしてセカンドクオリティ品を中間所得層に展開していくというのが正解であろう。


国内の産地間競争が無駄な労力になっていないか


日本の農産物は、場所に紐づいた○○県産などを謳い、その結果、国内において都道府県間の産地間競争を生み、足の引っ張り合いを生んでいる。

世界地図で見たらほぼ同じ地点に位置するエリアで、ブランド名の違いにより大きく販売価格に違いが出ているのである。多くの一般の方々は、その味の違いはおそらくわからないにもかかわらず、だ。この小さなエリア内での過当競争は、海外から見れば意味のないことに映るであろう。

多くの外国人は、「日本産」ではなく、「○○県産」という日本の都道府県を言われてもそこがどこなのかピンと来ないというのが正直なところではないだろうか。そういった現状にもかかわらず日本における農業生産物のトップセールスは、各都道府県の知事が海外に出向いて行っており、これも島国日本での無駄な産地間競争を生む火種になっている。

また、政府も目標に掲げるのは輸出額だけであり、その実現ストーリーが政策としてはっきりとしていない。

したがって、ブランド・アイデンティティー(Brand Identity)が明確になっていない状況下において、パンフレットやのぼりを作ったり、イベントを仕掛けたりして知名度を上げようとすることで、多額の費用をはじめとする多くの無駄を生んでいるのが実情である。

これは、知名度を向上させることがブランド化であると多くの方が勘違いしているからだ。その労力を、少しでも生産方法の確立やさらなる品質の向上に使っていただきたい。


「ジャパンブランド」の保護のためにテクノロジーを生かす

日本の農業生産物はどれを取っても世界最高レベルであるにもかかわらず、その“どんぐりの背比べ”の中で無駄な戦いをして多くの人々が疲弊しているように見受けられる。

「日本が目指すべき農業」は、イタリアやフランスのワイン同様に「どれをとっても素晴らしい、中でも自分の好みはこれだ」となることであり、国内での不毛な争いではない。ラグビー日本代表の「ONE TEAM」のように、それぞれの産地が手を組み日本というチームの一員としてジャパンブランドの付加価値を皆で向上させることを目指すべきである。

したがって、「ジャパンブランド」の農業生産物が、なぜ安心・安全で優れているのかというブランドの太鼓判(証明)が押せる手法(模造品と差別化できる根拠やツール、スキル等)を生み出していく必要がある。偽物が発生するリスクも容易に想定され、農業生産者には「自分の生産物かどうか見極めるスキルや根拠」が必要になってくる。

対象にはクオリティだけでなく生産手法等も含まれる。今ある最先端技術の各種センサー等を使って個々のブランドのクオリティを数値化することができる。

生産手法等については、「グローバルGAP」や「地理的表示保護制度」(GI)、さらには機能性表示食品の取得、特許取得などで明文化を行い権利化することで保証するなど、ブランド保護対策についても、「スマート農業」の実践による担保が早急に求められているのだ。


【コラム】渡邊智之のスマート農業/農業DXコラム
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WRITER LIST

  1. よないつかさ
    1994年生まれ、神奈川県横浜市出身。恵泉女学園大学では主に有機栽培について学び、生活園芸士の資格を持つ。農協に窓口担当として5年勤め、夫の転勤を機に退職。アメリカで第一子を出産し、子育てをしながらフリーライターとして活動。一番好きな野菜はトマト(アイコ)。
  2. syonaitaro
    1994年生まれ、山形県出身、東京農業大学卒業。大学卒業後は関東で数年間修業。現在はUターン就農。通常の栽培よりも農薬を減らして栽培する特別栽培に取り組み、圃場の生産管理を行っている。農業の魅力を伝えるべく、兼業ライターとしても活動中。
  3. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  4. 沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  5. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。