スマート農業が食品ロス削減や貧困層救済にも貢献!【渡邊智之のスマート農業コラム 第12回】
新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言の発令がされ、小学校の臨時休業や外食の営業時間短縮されている。
その結果一部の農作物は行き場を失い農業生産者の収益減および食品ロス(フードロス)につながる可能性が出ている。
買い取り価格が1年を通して一定であれば、豊作は農業収入を増大させる。しかし、農産物価格は、政府などによる価格維持政策がないかぎり需要に対する供給量によって、上下する傾向をもっており、豊作時には大きく下落する。
その場合、農業生産者は自家消費予定分までも販売して収益を確保しようとするが、これもまた価格の下落に結びつき、農業生産者の生活が一層悪化する。
これを恐れた農業生産者は、圃場でまだ青々と収穫を待つばかりの農業生産物を収穫せずにトラクターなどで土地にすき込んでしまう。このように、価格暴落防止のために「産地廃棄」をするという事象が現に発生しているのである。
また、ある作物で成功し、多額の収益を得た事例(農業界では「○○御殿が立った」などと表現されることが多い)があった翌年に、皆がその作物を作付してしまうことでも大いに発生しうる。
こういった生産物の産地廃棄は政府の統計上あまり出て来ない数字であり、食品ロスの数字としても計上されにくい。したがって、食品ロス削減話題においても扱われず、対策についてもほとんど議論されていないのが実情である。
なお、世界規模でみれば、年間約13億トンの食品がなんらかの事象で廃棄されている。これは世界で1年間に生産される食糧の実に3分の1に相当するのである。
日本国内で見ると年間621万tであり、これは国連世界食糧計画が1年間に実施する食料援助量の約320万tの2倍近い数字である。国民1人当たりに換算すると1人が毎日、茶わん1杯分のご飯を捨てている計算になるらしい。
このロスを少しでも減らそうと、「フードバンク」が日本全国に作られ、賞味期限切れで本来なら廃棄される食材を子ども食堂などへマッチングするといった取り組みがされ、貧困層救済につながっている。
政府で農林水産省が主体となって構築を進めている農業データ連携基盤(WAGRI)においても、将来像の姿として「スマートフードチェーン」と名付け拡張を検討を推進している。
最近では、民間企業においても例えば、株式会社kikitoriでは、生産と消費を結びつける為の取っ掛かりとして、生産者と青果流通事業者を結ぶアプリ「IchibA(イチバ)」をリリースしている。このように、生産現場と周辺ステークホルダーを結ぶことに重要性を感じている企業が近年増加していると感じる。
将来、生産者と消費者の双方のニーズを的確に把握し、生産物のマッチングが精緻に行われることにより、上記でも記載した価格暴落回避目的の産地廃棄などの食品ロス(フードロス)の低減、農業生産物の価格の安定化、さらには高付加価値作物の生産・販売の増加につながると筆者は想定している。
そして、農業生産者は多種多様な品種の生産物を生産し、消費者はその多様性の価値を楽しむという新たな市場の形成と発展が期待される。また、流通企業もニッチなニーズに対応できる少量多品種供給体制を構築できるのである。
このような次世代の食・農情報流通基盤が構築されることで、食材の適材適所が実現する。その結果、生産から消費までの全工程で発生する食品ロス(フードロス)の削減にも貢献するのである。
農業生産者の皆さんは、収穫できた野菜がさまざまな規格で選別されているのはご存じと思うが、消費者はほとんど知らないのが実情である。
代表的な事例として、本来キュウリは曲がる性質でありながら梱包や運搬の都合により、まっすぐに育つように品種改良が繰り返され、それでも生産過程で発生する曲がったキュウリは、規格外として扱わる。
さらに、キャベツは、通常は買い物カゴに入れる際に、皆さんが剥がしてスーパーのゴミ箱に捨てる葉っぱ(鬼葉と呼ばれる)の有無が重要な商品基準になっているのである。この鬼葉が最低2枚以上あることが青果で販売するための規格であり、鬼葉がなければ加工品として扱われ、青果の半分程度の値段になってしまう。
要するに鬼葉に虫がついてやむをえず葉を剥がしてしまうと、食べることができる部分はほとんど変わらないにもかかわらず、半値になってしまうのである。
実際の圃場では鬼葉だけではなくさらに中の葉も食べられてしまうことも多いが、このようなものは青果市場や流通企業が扱ってくれない。少しの量であれば農業生産者が自家用として個人消費するが、ほとんどが産地廃棄となる。
また、ほとんどの農業生産物は、大きさや外観などでクオリティを振り分けられており、食べるものでありながら、鮮度や味、農業生産者のきめ細やかな試行錯誤、創意工夫、こだわりといった生産物におけるストーリーは、まったく情報として管理されていない。これでは努力が報われず若者がやりたい、魅力ある農業にはつながらない。
スマート農業を実践する次世代の農業生産者(スマートファーマー)は、日々の作業記録を精緻に記録し続けることで、創意工夫や試行錯誤の結果を蓄積し、結果的に自社ならではの生産方法とクオリティの創造につなげている。
これが最終的には自社ブランドの構築につながり「儲かる農業」が実現されるのである。
「食品ロス」の原因と最新の取り組みとは? コロナ禍で変わる食への意識
その結果一部の農作物は行き場を失い農業生産者の収益減および食品ロス(フードロス)につながる可能性が出ている。
数字に表れない食品ロス「産地廃棄」の問題
ところで皆さんは「豊作貧乏」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 天候に恵まれ豊作だったために市況価格が低落し、不作時と同様に農業生産者収入が大幅に減少することである。買い取り価格が1年を通して一定であれば、豊作は農業収入を増大させる。しかし、農産物価格は、政府などによる価格維持政策がないかぎり需要に対する供給量によって、上下する傾向をもっており、豊作時には大きく下落する。
その場合、農業生産者は自家消費予定分までも販売して収益を確保しようとするが、これもまた価格の下落に結びつき、農業生産者の生活が一層悪化する。
これを恐れた農業生産者は、圃場でまだ青々と収穫を待つばかりの農業生産物を収穫せずにトラクターなどで土地にすき込んでしまう。このように、価格暴落防止のために「産地廃棄」をするという事象が現に発生しているのである。
また、ある作物で成功し、多額の収益を得た事例(農業界では「○○御殿が立った」などと表現されることが多い)があった翌年に、皆がその作物を作付してしまうことでも大いに発生しうる。
こういった生産物の産地廃棄は政府の統計上あまり出て来ない数字であり、食品ロスの数字としても計上されにくい。したがって、食品ロス削減話題においても扱われず、対策についてもほとんど議論されていないのが実情である。
なお、世界規模でみれば、年間約13億トンの食品がなんらかの事象で廃棄されている。これは世界で1年間に生産される食糧の実に3分の1に相当するのである。
日本国内で見ると年間621万tであり、これは国連世界食糧計画が1年間に実施する食料援助量の約320万tの2倍近い数字である。国民1人当たりに換算すると1人が毎日、茶わん1杯分のご飯を捨てている計算になるらしい。
このロスを少しでも減らそうと、「フードバンク」が日本全国に作られ、賞味期限切れで本来なら廃棄される食材を子ども食堂などへマッチングするといった取り組みがされ、貧困層救済につながっている。
食材の適材適所を実現して食品ロスを削減
筆者は、「スマート農業」の実現により、市場のニーズ情報と農産物の作付け・生育状況等の情報をつないで一元的に管理することができるようになると想定している。政府で農林水産省が主体となって構築を進めている農業データ連携基盤(WAGRI)においても、将来像の姿として「スマートフードチェーン」と名付け拡張を検討を推進している。
最近では、民間企業においても例えば、株式会社kikitoriでは、生産と消費を結びつける為の取っ掛かりとして、生産者と青果流通事業者を結ぶアプリ「IchibA(イチバ)」をリリースしている。このように、生産現場と周辺ステークホルダーを結ぶことに重要性を感じている企業が近年増加していると感じる。
将来、生産者と消費者の双方のニーズを的確に把握し、生産物のマッチングが精緻に行われることにより、上記でも記載した価格暴落回避目的の産地廃棄などの食品ロス(フードロス)の低減、農業生産物の価格の安定化、さらには高付加価値作物の生産・販売の増加につながると筆者は想定している。
そして、農業生産者は多種多様な品種の生産物を生産し、消費者はその多様性の価値を楽しむという新たな市場の形成と発展が期待される。また、流通企業もニッチなニーズに対応できる少量多品種供給体制を構築できるのである。
このような次世代の食・農情報流通基盤が構築されることで、食材の適材適所が実現する。その結果、生産から消費までの全工程で発生する食品ロス(フードロス)の削減にも貢献するのである。
曲がったキュウリ、鬼葉のないキャベツは価値が下がる?
農業生産者の皆さんは、収穫できた野菜がさまざまな規格で選別されているのはご存じと思うが、消費者はほとんど知らないのが実情である。
代表的な事例として、本来キュウリは曲がる性質でありながら梱包や運搬の都合により、まっすぐに育つように品種改良が繰り返され、それでも生産過程で発生する曲がったキュウリは、規格外として扱わる。
さらに、キャベツは、通常は買い物カゴに入れる際に、皆さんが剥がしてスーパーのゴミ箱に捨てる葉っぱ(鬼葉と呼ばれる)の有無が重要な商品基準になっているのである。この鬼葉が最低2枚以上あることが青果で販売するための規格であり、鬼葉がなければ加工品として扱われ、青果の半分程度の値段になってしまう。
要するに鬼葉に虫がついてやむをえず葉を剥がしてしまうと、食べることができる部分はほとんど変わらないにもかかわらず、半値になってしまうのである。
スマート農業により産地廃棄の必要ない「儲かる農業」を
キャベツなどはハウス栽培ではなく露地栽培がほとんどなので、出荷するまでどこも虫に食べられないようにするのは大変な努力を必要とする。実際の圃場では鬼葉だけではなくさらに中の葉も食べられてしまうことも多いが、このようなものは青果市場や流通企業が扱ってくれない。少しの量であれば農業生産者が自家用として個人消費するが、ほとんどが産地廃棄となる。
また、ほとんどの農業生産物は、大きさや外観などでクオリティを振り分けられており、食べるものでありながら、鮮度や味、農業生産者のきめ細やかな試行錯誤、創意工夫、こだわりといった生産物におけるストーリーは、まったく情報として管理されていない。これでは努力が報われず若者がやりたい、魅力ある農業にはつながらない。
スマート農業を実践する次世代の農業生産者(スマートファーマー)は、日々の作業記録を精緻に記録し続けることで、創意工夫や試行錯誤の結果を蓄積し、結果的に自社ならではの生産方法とクオリティの創造につなげている。
これが最終的には自社ブランドの構築につながり「儲かる農業」が実現されるのである。
「食品ロス」の原因と最新の取り組みとは? コロナ禍で変わる食への意識
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