「知的財産」が農業生産者の新たな収益源に!【渡邊智之のスマート農業コラム 第18回】

安定した収益が見込めない農業

農業生産者の収入源は、主に1年間手塩にかけて来た生産物を市況に応じて販売した金額となる。

その生産物が全国的に不足している時期に出荷できれば高値となり、多くの収益を得ることになるが、豊作で市場の需要に対して多く収穫されると底値で売買されることになる。

1年間同じ努力をしているにもかかわらず自分に関係の無い所で値段が決まり、その時々の各種状況によって、損するか得するかが決まってしまうのが農業の実情なのだ。これではビジネスというよりもギャンブルと大して変わらない。確かに高値になれば俗にいう「ごぼう御殿が建った(ごぼうが高値でそのタイミングで出荷できたことによって大きな収益を得て、家が建ったという様を示す)」となるわけだが、その反対になれば、生活ができなくなる程の影響が出てくる。

したがって、現在のコスト構造における収入の増加だけでなく、高付加価値化もしくは、新たな収入源を得ることにより、農業生産者の収入増加につなげることが求められているのである。

この状況を、「スマート農業」が普及した時代に改善できないだろうか。自分達のノウハウやナレッジが明文化し、そのノウハウやナレッジを学んだAIが判断。

そうすることで、施設園芸植物工場であれば自律した環境制御による収穫時期の調整ができ、露地栽培野菜の出荷ができず市況が高くなるタイミングにちょうど収穫時期となる生産物へ各種リソースを振り分けるといったことが可能となるのである。



「農業ビッグデータ」によって明文化の可能性が見える日本の農業

「奇跡のリンゴ」で映画にもなった木村秋則さんをご存知だろうか?  農薬を使わず除草剤も散布しないで素晴らしいリンゴを作った伝説の農業生産者である。

彼の農法は、一般的には自然農法と呼ばれている。この農法は、現時点で国としての法律や規約、ガイドライン等が存在しないため、どのような物を自然農法というか明確に定義はできないが、自然環境に悪影響を与える可能性のあることは何もしないという農法をさす。この自然農法はまさに経験、勘の宝庫である。

筆者も以前、木村さんのシンポジウムに参加する機会があり、僭越ながら「スマート農業」について意見交換させていただいた。先入観では「人手をかけない農業なんてとんでもない」とけんもほろろに否定されると思っていたが、それどころか「スマート農業」は自然農法に合いそうだというニュアンスの反応をいただき、うれしく感じたのをよく覚えている。

昨今の「スマート農業」ブームで、気象データ、土壌データ、作物の生育データ、衛生データ、作業データなどの「農業ビッグデータ」が蓄積され始めている。現在政府の方針で、この「農業ビッグデータ」を解析することで日本の農業の匠の技術を明文化して、これまでの「日本式農法」を明らかにしようという取り組みが始まっている。そして確立された「日本式農法」は、農業生産物と一緒に輸出をしていこうとしているのだ。


データは「集めれば使える」というわけではない


筆者もこの施策自体は、間違っているとは思わない。しかしながら筆者の感覚では、時期尚早であると言わざるを得ないのだ。

「日本式農法」をモデル化するにあたり、気候条件が全く違うエリアのデータを集めて相関を取っても、日本国内でさえどこにも当てはまらないモデルができてしまう。他産業はともかく、こと農業に限ってはエリアに閉じられた気候や土壌をキーにしたノウハウやナレッジが重要であり、それらを確立することが地域の生産物のブランドを確固たるものにする太鼓判(証明)となる。

俗にいう「KKO(経験、勘、思い込み)」に頼っていた今までの農業は、現時点においてもそのノウハウはマニュアル化されていないものが多い。

個々の組織やエリアが自分達のものつくりの方法を確固たる物にできていないのにもかかわらず、集合データから入っても正確な知恵にならないと思うのだ。したがって未来の施策としては良いが、まずブランドの最小単位である農業法人農業協同組合の単位で、明文化の実行が先決であろう。

生産方法・クオリティ・コストをコントロールすることにより、地域や企業のブランドを生成・維持し、結果的に個々の農業生産者の事業継続・継承につながるはずだ。

これにより「安心・安全で高度な日本農業のノウハウ」は、実際の作業とそのデータ、およびその効果が結合されてルール化され、「知的財産」になり得る。また、今まで生産物だけだった農業生産者の収益源にこれら個々の農業生産者のナレッジを独自の手法として「知的財産」として権利を得て、他の農業生産者にそのモデルごとに販売することで、「ライセンス料」という比較的安定した新たな収入源が加わるのだ。

もちろんモデル販売、ライセンス料だけでなく、導入当初などは技術指導などをすればその工数の請求も可能となる。さらにその地域や企業ならではのクオリティや生産方法などの「こだわり」や「物語(ストーリー)」を明文化し、オープンデータ化、共有化することで、ブランド価値の維持・向上につながり、地域の活性化にも貢献できるのである。

なお、国策として農林水産省に於いても知的財産課を設置し、「農林水産省知的財産戦略2020」を策定している。その文中で「ICTによる農林水産業の知の抽出と財産化、およびその活用による新事業の創出」としてスマート農業を活用した農業分野の知的財産の増加や保護の推進をしている。


農林水産省パンフレット[PDF]
https://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/chizai/attach/pdf/180312-3.pdf
JAグループパンフレット[PDF]
https://agri.ja-group.jp/ipagri/wp-content/themes/ipagri/pdf/ip_guide.pdf

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WRITER LIST

  1. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  2. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  3. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  4. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  5. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。