ドローン自動飛行&播種で打込条播! アシスト二十一&オプティムが挑む新栽培技術の現状

2018年に農研機構が発表した「にじのきらめき」は、高温耐性と耐倒伏性に優れていながら「コシヒカリ」なみの良食味を備えた水稲新品種だ。その優れた特性の理解が進むにつれて、県による産地品種銘柄への登録も着々と進んでいる。

今回は、そんな「にじのきらめき」育成の地に程近い新潟県下越地域で行われている、同品種を使った新栽培技術=ドローン打込条播を紹介したい。

高温耐性と耐倒伏性に優れた新品種「にじのきらめき」


地球温暖化が米の収量と品質に悪影響を与えていることは、農業関係者にとっては周知の事実だろう。近年、猛暑日どころか酷暑日という呼び方が定着するほど、日本の夏は暑くなった。

これが登熟期にある「コシヒカリ」に悪影響を及ぼす。白未熟粒による品質低下が顕著になってきているのだ。それにより価格低下を招き、「コシヒカリ」を生産する農業生産者にとって深刻な問題になっている。

また、「コシヒカリ」は草丈が長い品種だ。そのため、収量を増やそうと多肥栽培すると倒伏しやすい。倒伏してしまうと、ここでもまた品質が低下するうえ、収穫作業を予定通り行うことができない、という別の問題も発生する。

出典:(研究成果)高温耐性に優れた多収の極良食味水稲新品種 「にじのきらめき」


「にじのきらめき」は、これら近年の温暖化により顕著になったコシヒカリの弱点を補うべく、高温耐性と耐倒伏性を持った品種を目指して開発された。開発した農研機構によると、品種の特徴は以下のとおり。

  1. 高温耐性に優れた「西南136号(後の「なつほのか」)」を母とし、極良食味の「北陸223号」を父とした交配から育成した品種です。
  2. 育成地(新潟県上越市)での出穂期は「コシヒカリ」とほぼ同じです。成熟期は「コシヒカリ」より4日から5日程度遅くなります。
  3. 稈長は「コシヒカリ」よりもかなり短くなります。穂長、穂数ともに「コシヒカリ」とほぼ同等で、草型は「中間型」です。
  4. 育成地での玄米収量は「コシヒカリ」に比べて標肥栽培で15%程度、多肥栽培で30%弱の多収です。千粒重は「コシヒカリ」よりも2g程度重くなります。
  5. 玄米外観品質 は「コシヒカリ」より明らかに優れます。食味は「コシヒカリ」と同等の評価です。
  6. 耐倒伏性は強で、穂発芽性は難、葉いもち圃場抵抗性は中、穂いもち圃場抵抗性はやや強、縞葉枯病には抵抗性、白葉枯病抵抗性はやや弱、高温耐性はやや強です。
  7. 栽培適地は、「コシヒカリ」の栽培が可能な北陸から関東以西です。
引用元:(研究成果)高温耐性に優れた多収の極良食味水稲新品種 「にじのきらめき」
冒頭で記したように、県による産地品種銘柄への登録も進んでいる。先行していたのは群馬県だが、新潟県、茨城県、千葉県、岐阜県といった東日本のほか、滋賀県、佐賀県でも作付けが始まっている。

アシスト二十一&オプティムが挑む「ドローン打込条播」で実現する持続可能な農業生産とは


この「にじのきらめき」を用いて、新栽培手法に挑んでいる農業生産者が、新潟県新発田市にいる。

新発田市は「にじのきらめき」育成の地・上越市からは北東へ約150km、県庁所在地である新潟市に隣接する、下越地区の中核都市である。東部には飯豊山・二王子岳といった山岳地域を擁しており、この飯豊連峰を源流とする加治川とその支流が平野部を貫き、流域は豊かな平野部となっている。

全国的な知名度こそ魚沼や長岡ほどではないものの、山岳地帯からの雪解け水、豊かな土壌、大きな朝晩の寒暖の差といった諸条件は、それら地域と変わらない。そのため新発田市郊外には、広々とした水田が広がっており、一大穀倉地帯となっている。

そんな新発田市で「にじのきらめき」の新栽培手法に取り組んでいるのが、農業生産法人アシスト二十一。常勤職員3名+非常勤職員5名の計8名で、60haの圃場を管理している。うち58haが水稲であり、当地でも大規模に分類される。

アシスト二十一代表の木村氏
同社の特徴は、水稲栽培における積極的な新技術導入である。2021年度は、水位センサーと営農支援アプリを活用しているほか、乾田直播・湛水直播・ドローン直播という3種の直播栽培にも挑戦している。

その中の水位センサー、営農アプリ、ドローン直播を技術面でバックアップしているのが株式会社オプティムだ。「ネットを空気に変える」というコンセプトを掲げ、インターネットを空気のように、全く意識することなく使いこなせる存在に変えていくことをミッションとして、さまざまな分野でプロダクトやサービスの開発に尽力している。
株式会社オプティムの大澤淳氏

農業分野においては、自社開発したITベースのスマート農業技術を農業生産者に無償提供する「スマートアグリフードプロジェクト」が広く知られている。AI解析機能を実装した圃場管理システムやドローンソリューションを、米の生産者に無償で提供して、栽培された作物はオプティムが全量を買い取る。それをオプティムが店舗やネット直販などで販売する。この売上の中からさらに「レベニューシェア」として、生産者に利益の一部が還元される。

今回、アシスト二十一とオプティムが挑戦したのは、「にじのきらめき」のドローン打込条播である。ドローン打込条播の実証実験については、当サイトで過去に紹介したように、石川県や青森県で行っていたが、2021年は実証から実装へ転換し、パートナーがさらに増え、石川県のほか、この新潟県など、全国8カ所にまで増やして、実際の契約栽培に導入している。そして、この技術で栽培した「にじのきらめき」は、2021年産の「スマート米」として販売する予定だ。

アシスト二十一の本拠地である新発田市でも、農業従事者の減少と高齢化により、農地の集約化が加速度的に進行している。諸般の事情で農業を継続できなくなった方などから依頼を受けて作業を請け負うアシスト二十一にとっては、育苗・移植を省略できる技術を確立できれば、少人数で大面積を管理できるようになる。そのための手段のひとつとして、アシスト二十一では乾田直播と共に、このドローン打込条播に挑戦した。

オプティムにとっても、このドローン打込条播は、ぜひとも確立したい新栽培手法。すでにドローンを活用した農薬のピンポイント散布はオプティムの代名詞とも呼べる特許技術として確立されつつあるが、ドローン×ITの適用範囲を広げることは、日本農業にさらに貢献することにつながる。


飛行から播種まですべて自動で、10aあたり5分弱


ここからは、アシスト二十一が行った自動運転・自動播種でのドローン打込条播について、詳しく説明していく。まずは播種条件から見て行こう。

  • 播種日時:2021年4月28日9時
  • 面積:90a(30a×3)
  • 播種量(設定):3kg/10a・6kg/10a・3kg/10a
  • 播種量(実測):3.3kg/10a・6.6kg/10a・3.3kg/10a
  • コーティング or 忌避剤:なし
  • 代かき:2021年4月27日
  • 落水タイミング:2021年4月28日5時
  • 滞水:あり(半分ほど)
  • 土壌硬度:ゴルフボール-2cm
  • 風:1m(天気予報)
  • 雨:0mm

ここで気になるのは土壌硬度ではないだろうか。ご存じの通り、水稲の直播では、発芽から育成初期が極めて重要だ。しっかりと苗立ちさせることができれば、移植栽培と同等の収量が見込める。

ドローン打込条播でも、それは変わらない。アシスト二十一とオプティムは事前に土壌硬度を知るために、ゴルフボール試験を実施。高度1mからゴルフボールを自由落下させた時のボールの頂点が2cm埋まった。これを「ゴルフボール-2cm」と表記している。

続いて、実際に行った播種を見ていこう。使用したドローンはXAG製のP30。そこに、30cm間隔の条を形成するオプティム自社開発の4連打ち込み播種ユニットを搭載している。

XAG製ドローンは、ピンポイント農薬散布ピンポイント施肥でも利用されている

播種量と播種強度の調整はタブレットのモニターを見ながら行うが、播種自体は設定したルートに沿って自動飛行しながら行ってくれるので、ドローンを操縦する必要はない。

この飛行と播種を共に自動で行うことを、実証実験を除き、実際の生産者との栽培契約に導入するのは、オプティムにとっても今回が初めてのことであったそうだ。播種時間は10aあたり4分40秒。基本的には、10aあたり4往復を想定していたが、後述するように播種ムラが発生したこともあり、さまざまなフライトを実施した。
実際に播種された種籾がこちら。想定していた播種深度(5mm)よりも深く打ち込まれていた。圃場全体で同様の傾向がみられたという


実際の播種でしかわからない課題が表出


筆者が現地を訪れたのは2021年6月24日のこと。播種から約60日が経過していた。取材当日は新発田地域振興局が主催する「水稲新技術現地研修会およびにじのきらめき栽培研修会」が開催されており、その研修会の現地研修で、オプティムの大澤淳氏と伊藤大地氏が圃場を見ながら解説してくれた。
ドローン打込条播を行った圃場

取材時点では写真のように、4条はシッカリとできているものの、所々に生育しなかった部分ができていたり、枕地の部分が斑(まだら)になっていた。

実は、オプティムにとって2021年初のドローン打込条播実証実験が、このアシスト二十一の圃場だった。そのため、ドローン機体の仕様により、播種ユニットへの信号にタイムラグが生じた結果、枕地付近での散布ムラが影響を与えたと考えられていた。

ところが、この状況のままで生育を続けた結果、散布ムラではなく生育ムラが大きかったことが後に判明。分けつが進んだことで現在は想定通りの苗立ちになっている。

取材した当時の状況を見れば、失敗と見なされてしまっても仕方ない状況だった。しかしこの時アシスト二十一代表の木村氏は、「今年はこのままのかたちで生育を続けて収穫まで行います」と語っていた。

「私どもにとっては、生育が遅れてしまったことの方が想定外でした。本来は播種から14日後に発芽してほしかったのですが、天候の影響を受けて少し遅れてしまった。播種直後が雨と曇天だったのです。これは、ドローン直播固有の問題ではなく、その他の直播栽培手法全体にとっての問題でした。

それと打ち込み深度はマイナス5mmを想定していましたが、この圃場の土壌が軟らかく、想定深度より深くなったことも影響しましたね。そのため、一部雑草に負けてしまい、理想的な生育とは言えない状況になってしまいました」

実際、オプティムによると、本圃場の後に行った石川県での播種では、枕地付近のタイムラグと打込深度の問題は共に解決。他の地域でも順調に実証実験は進んでいる。アシスト二十一で課題を洗い出せたことで、シミュレーションではわからない実際の課題が見え、来季以降の拡大、事業化に向けて大きく前進できたと言える。
直播圃場の生育状況(2021年8月19日撮影)


「にじのきらめき」をドローン直播したいもうひとつの理由


木村さんの力強い言葉で本稿を終わりにしたい。

「新発田市だけでなく全国的に考えてみても、ドローンを自動飛行させて自動で播種するなんて、夢のような技術じゃないですか? だからこそ、やりがいがあるし、そうした新栽培技術の確立に自分が貢献できると思うとワクワクします。

この圃場を見て、地元の長老の中には懐疑的なコメントをする方もいましたが、まったく気にしていません。課題を特定し、次に向かえば良いわけで、シンプルに技術だけの課題ではなく、栽培体系の一環として運用面の確立をオプティムさんと共に創っていけると確信しています。ですから来年ももちろん継続しますし、もっといい結果になりますよ。

ここ新発田市でも農地を手放したり、管理し切れなくなった方が本当に増えていて、私はできる限り引き受けて行きたい。でも人手は限られている。ドローン打込条播は、そうした問題解決のひとつの解になり得、下越地域の持続可能な農業生産構築に繋がると考えています。

このドローン打込条播を『にじのきらめき』で行う、というのも実は私たちにとってメリットがあるんです。コシヒカリよりも成熟期が4~5日遅く、収穫適期も遅くなる。この収穫適期のズレを生かすことで、より広い面積を管理できる可能性があるのです」

アシスト二十一とオプティムが挑んだ「にじのきらめき」の自動運転・自動播種によるドローン打込条播。今回は、枕地付近への均一な播種、という課題が明らかにされたが、早くも解決に結びついた。

自動運転・自動播種によるドローン打込条播は、機材のコストや輸送のしやすさ、操縦者の習熟が不要、小規模から大規模まで幅広く利用できるなど、日本の水稲栽培の持続可能な生産体系構築にとって非常に有意義なスマート農業技術のひとつだ。

アシスト二十一とオプティムの取り組みを実際に目にして、普及・拡大する日は近いと感じた取材であった。


自動飛行ドローンによる水稲直播 × AI解析ピンポイント農薬散布に世界で初めて成功!【石川県×オプティムの取り組み 前編】
https://smartagri-jp.com/smartagri/1049
「自動飛行ドローン直播技術」をわずか2年で開発できた理由【石川県×オプティムの取り組み 後編】
https://smartagri-jp.com/smartagri/1078
【事例紹介】スマート農業の実践事例
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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