inahoのアスパラガス自動収穫ロボットの仕組みとは?──inaho株式会社(前編)

農業ロボットの開発を手がけるベンチャー企業、inaho株式会社の菱木豊社長と知り合ったのは2年前。当時開発を始めていたアスパラガスの自動収穫ロボットをいよいよ2019年からデビューさせるという。プロトタイプを実演してくれるというので、神奈川県鎌倉市にある事務所にうかがった。


JR鎌倉駅から車で南に向かうこと5分、海岸に面した材木座という閑静な住宅街にinahoはある。門を入った先にあるのは畑。その向こうに見えるのは、古民家を改装したと事前に聞いていた事務所のようだ。

約束の時間より早く到着したので門の前で待っていると、我々の姿を見つけたスタッフのひとりが出迎えてくれた。菱木さんは接客が長引いているとのことで、代わって現れた、設計と開発に携わるシニアテクニカルアーキテクトの外波山晋平さんが収穫ロボットによる自動収穫を実演してくれることになった。

場所は敷地内にある家庭菜園ほどの小さな畑。すでにプロトタイプが畝間に置いてある。畝間の端から端まで敷かれているのは白いテープ。ロボットの下腹部にあるカメラがこのテープを認識し、これに沿って走るようになっているそうだ。その左右の畝のところどころにはアスパラガスが立っている。といっても栽培しているわけではなく、買ってきたものを突き立ててあるとのこと。

▲白いラインが引かれた畝間を自動収穫ロボットが移動する

点群処理技術でアスパラガスの形状を認識

プロトタイプはざっと見たところ、上部にはアームや小型カメラのほか、配線やバッテリーがいろいろとむき出しになっている。走行部はクローラー式になっているが、これは電動車椅子を改造したものだという。

▲駆動システムは電動車椅子がベース

外波山さんが本体のスイッチを押すと、ゆっくりと走り始めた。アスパラガスが立っている場所に来ると停車。続いてアームがそこに伸びていく。アームの先端は握り手になっている。そこでアスパラガスの根本をつかむと、すぐさま握り手の下に隠れているカッターで切断。そのまま荷台のコンテナに入れた後、アームを折りたたんでから、再びゆっくりと走り出した。

▲アーム下部にあるカッターで、つかんだアスパラガスを切る

作業の様子をしばらく見ていると、アスパラガスがあっても停車しない場合があることに気づく。聞けば、「どの高さ以上のアスパラガスを収穫するのか、事前に設定できる」とのこと。背が低すぎれば、取らないで通り過ぎるのだ。

アスパラガスの存在をどうやって認識しているのか。本体の両側面に小型カメラがある。これが向こう約1メートルの空間を撮影し、AIによってアスパラガスの存在を見分けていく。

「アスパラガスを認識するうえで、主に使っているのは点群処理技術です。赤外線センサーで形を計測し、適正な長さのものだけをつかんで切り取る。要するに三次元の形状を見て判断するわけです」

収穫作業は、ロボットが9割、人が1割

現在開発されているさまざまな農業ロボットの多くは、作業精度を人間並みにするのではなく、人と協調しながら仕事をこなすことが前提となっている。それはこのロボットも同じ。

まずはロボットが収穫していく。とはいえ完璧ではない。取り残した分は人の出番。サービスを開始したら、利用する農家はスマホアプリ上の圃場マップで取り残しの箇所が確認できるようにする。収穫はロボットが9割、残り1割を人が行うイメージを持つ。

プロトタイプの運搬能力は最大40kg、本体重量は現在70kgだが、来月できる2号機は本体重量が40kgと軽くなり、積載重量は平地の場合だと60kg以上になる予定。実用化した際には、ロボットが収穫物を満杯に積んだら、ハウスの外に出てきて、農家のスマホなどに通知が届くようになる計画だ。

今回の取材には金子農園(横浜市青葉区)の金子栄治さんが同行した。アスパラガスを作った経験があるというので、まずはその収穫の大変さについて尋ねた。

「しゃがみながらの作業なので筋肉痛になります。タイヤが付いた台車で座って作業もできるけど、収穫するのに右を向いたり左を向いたりしなければならず、そのうち背中が痛くなってきますね」

収穫がロボット化されることについては次のように語った。

「うちは山の斜面に2ヘクタールの農地があるのですが、こういうロボットがあれば、そこにアスパラガスのような経済作物を植えることも考えられます」

▲inahoの外波山晋平さん(左)と金子農園の金子栄治さん

このロボットの実証試験をしている佐賀県や栃木県では、アスパラガスの収穫期間は一般的に2月から10月まで。この間、農家は全労働時間の半分以上を収穫と調製に当てている。しかもアスパラガスは地面の際に生えているので、想像するだけでその作業は大変だ。農家の平均年齢が70歳に迫る中、収穫のつらさは離農する大きな理由になっている。

最も大変な作業を人に代わってロボットが担えれば、離農を防ぎ、ひいては産地を維持できるかもしれない。inahoはその思いを持って今年、自動収穫ロボットの実用化に動き出す。次回はその普及の方法についてふれていきたい。

<参考URL>
inaho株式会社
【事例紹介】スマート農業の実践事例
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  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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