家族総出の苗床づくりで感じる農業の魅力【地域づくり×農業ライター 藤本一志の就農コラム 第4回】

岡山県真庭市の兼業農家、藤本一志です。


5月下旬になると、私の農地のある地域(岡山市)では、稲の播種作業が始まります。

全国的にみるとかなり遅い時期の播種作業ですが、これは岡山市では稲とビール麦の二毛作が行われているためです。私の家でも、私が小学生の頃までは麦を栽培していましたが、採算が合わないという理由から辞めてしまいました。

さて、今回は播種作業を通して感じる、私にとっての農業の魅力と、その魅力の生かし方について書いていこうと思います。


家族総出の播種作業


5月20日前後になると、私の家の近所ではいっせいに稲の播種が行われます。兼業農家の多い地区であるため、この季節の土日はどこの家も家族総出で、朝から晩まで播種作業に追われます。

私の家でも、例年通り播種作業を行いました。

稲の播種は、播種機と呼ばれる機械に苗箱を通し、苗箱の中に土と種を撒き、それを苗床に並べていきます。

奥の苗箱を真ん中にある播種機に通すことで、土と種が撒かれる
この作業は、とにかく人数が必要です。

まず必要なのは、苗箱を播種機に通す人です。何百枚という苗箱を、ひたすら播種機に通します。

続いて、土と種の補充係。前回のコラムの中で種子消毒された種は、ここで使われます。また、この役割を担う人は、ある程度苗床に苗箱が並んだら、農薬散布に向かいます。

そして、最後は播種された苗箱を運んで並べる人。重い苗箱を何百箱と運び、苗床に並べるという力仕事となるので、私が担当します。

これらの作業を家族6人で行い、播種、そして苗代を作ります。

昼過ぎまで苗箱を並べ、その後はトンネルを張ります。これは、種が無事に発芽して、田植えができるようになるまで大きく育てるため。風で飛ばないようにしっかり押さえて苗箱を覆えば、苗代に水を入れて作業終了です。

並んだ苗箱の様子。トンネル用の支柱を地面に刺す作業中
毎年5月20日を過ぎると、日中の気温が30度に達する日もあります。この日も暑く、夏といってもいいほどの突き刺すような日差しのある日でした。夏に向けて暑さで大変な日も多くなっていきますが、農業にはその大変さに勝るほどの魅力があると感じます。

農業の魅力は休憩時間に生まれるコミュニケーション


私が思う農業の魅力は、休憩時間のコミュニケーションです。

作業自体ももちろん楽しいですが、それ以上にみんなでいっせいに休憩をとって、コミュニケーションをとる時間に最も魅力を感じます。学生時代のアルバイトでこの魅力に気づけたから、今でも農業を続けているのだと思います。

私が学生時代に通っていた農家では、10時、12時、15時に休憩がありました。休憩時間はお茶やコーヒーを飲みながら、農家さんや他の学生アルバイト、時には農家さんの知り合いの方と、他愛もない話をして過ごしました。

他の仕事でもこのような休憩はあるかと思いますが、農業は、開放的な畑で休憩ができます。大きな空の下、自然に囲まれた畑は、気分も晴れやかににしてくれ、作業の疲れを忘れさせてくれます。

私は、地域づくりの活動を通して、人と話すことが大好きになりました。

ブドウ農家での休憩時間の様子。農家さんとその知り合い、同じ学生バイトと私というように、毎回さまざまな人とお会いしました
さまざまな人と、自然の中で話せる休憩時間は農業ならではのひとときです。それは初めて農業アルバイトに行った日から、今でも変わりません。


兼業農家の特性を生かして

  初回のコラムで、私が農業を始めようと思ったきっかけとなる出来事についてご紹介しました。

あの記事を書いているとき、私は「農業の現場をもっと多くの人に見てもらって、自分たちが食べているものがどのように作られているか知ってほしい」と痛烈に感じていました。

この思いを実現するために、私の兼業農家である強みが生かせるのではないかと考えています。

兼業農家として農業以外の仕事にも取り組んでいると、必然的に農業以外の人脈も広がります。私の場合、地域づくり活動を通して、多くの人と出会い、さらにSNSなどを通じて繋がることができました。

一口に「地域づくり活動」といっても、そこにはさまざまな人が関わっています。

公務員の方や自営で飲食業をされている方、観光に関わる方や、デザイナーやライターなどのクリエイター、そして学生。農業に関わりのある人もいれば、全く関わりのない人もいます。しかし、どの人も「地域を今よりもっと楽しくしよう」という、同じ志をもった仲間です。

このように、さまざまな業種に多くの仲間を持てることが、農業と地域づくり活動を兼業している私の強みではないかと思います。

また、出会った仲間には、私が農家であること、どのような思いを持って農業に取り組んでいるのか、ということも話しています。私の思いに共感してくださった方の中には、応援したいと実際に米を買ってくださった方もいます。また、年齢の近い方は、実際に私の農場に来て、作業を手伝ってくれました。

地域づくり活動を通して広がったつながりが、私を通して少しずつ農業とつながり始めています。

地域づくり活動を通してできた友人が、実際に作業を手伝いに来てくれました

誰もが農業にふれあえるように

昔は、どこの家庭も当たり前のように田んぼをもち、時期がくると家族総出で農作業に励んでいました。近所を見回しても、農家でないほうが珍しいくらいでした。

しかし、現在では日本の農業人口は、全人口のわずか3%。学校の中で、「自分の家は農家だ」というと、少しレア感が漂う時代です。

同時に、自分たちの食べているものが、「だれが、どのようにして作っているのか」ということを知らない人が多くなりました。その結果、農業や食に関するさまざまな問題が発生しています。

誰もが農業にふれあって、食という生きていくうえで最も大切なことを見つめ直す機会を、私の兼業農家という強みを生かして生み出せればいいなと思います。

完成した苗代。いよいよ田植えの季節がやってくる

【農家コラム】地域づくり×農業ライター 藤本一志の就農コラム
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WRITER LIST

  1. よないつかさ
    1994年生まれ、神奈川県横浜市出身。恵泉女学園大学では主に有機栽培について学び、生活園芸士の資格を持つ。農協に窓口担当として5年勤め、夫の転勤を機に退職。アメリカで第一子を出産し、子育てをしながらフリーライターとして活動。一番好きな野菜はトマト(アイコ)。
  2. syonaitaro
    1994年生まれ、山形県出身、東京農業大学卒業。大学卒業後は関東で数年間修業。現在はUターン就農。通常の栽培よりも農薬を減らして栽培する特別栽培に取り組み、圃場の生産管理を行っている。農業の魅力を伝えるべく、兼業ライターとしても活動中。
  3. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  4. 沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  5. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。